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連載小説《Nagaki code》第27話─高校生・駒沢茉莉花

 《前回のあらすじ》
 過去の自分と今の自分を振り返り、人との触れ合いの大切さを噛み締める洋介と湊斗。
 そこへ突然現れたのが、湊斗の友達で高校生の茉莉花だった。

「こいつは長岐洋介。高校時代の悪友だよ」
 僕の隣に座ったその子に、石垣はとんでもない紹介をしてくれた。
「ちょっと石垣、誰が悪友だよ」
 僕が突っ込むと、石垣は悪びれる様子もなくケタケタと笑った。
「悪友ではないだろうけど、湊斗さんと仲がいい人なんだろうなーっていうのは伝わってきます!」
 その子はニコニコと僕らを見ている。
「私っ、駒沢茉莉花! 華執高校の3年生です!」
 その笑顔のまま、その子──茉莉花ちゃんは自己紹介をしてくれた。笑顔がとても印象的な、ハツラツとした女の子だ。
「それこそ、茉莉花も何やってんだよ。今日、平日だろ?」
 残りわずかの缶ビールを一気に空にして、石垣は茉莉花ちゃんに尋ねる。
「今日? 学校サボっちゃおっかなーって」
「お前こそ何やってんだか」
 石垣が笑って言うと、「だって学校つまんないもーん」と茉莉花ちゃんは不服そうにほっぺを膨らませた。
「退屈してて、公園をブラブラしてたの。でもそろそろ帰ろっかな。湊斗さん、飲み過ぎはダメだよ?」
 腰に手を当てて茉莉花ちゃんがそう言うと、「はいはい」と石垣は軽くいなした。
「あっ、今日の夜もやっちゃう?」
 ここを去る直前、茉莉花ちゃんは石垣の方を振り向いてそう言った。
「お、いいね。じゃあ7時、またここ集合で」
「オッケー!」
 ふたりが今日の夜7時にここで一体何をやるのか僕は知らないまま、茉莉花ちゃんは「じゃーね!」と元気に去っていった。

 *

 午後7時。僕はまた薬師岱公園に来ていた。
『長岐も来いよ。面白ぇからさ』
 結局何をするのか石垣から聞かされないまま、公園の入口に立っている僕。切れかかっている頭上の街灯が、パチパチと音を立てている。
「おっ、長岐ー」
 駐車場の方から石垣と茉莉花ちゃんがやってきた。ふたりとも、ストリートダンサーみたいにラフでかっこいい格好をしている。石垣なんて、サイドにリングが複数個連なったサマーニット帽を被っている。何が悔しいかって、それが案外さまになっているのだ。用意していた「似合ってないよ」なんて冷めたツッコミをグッと呑み込む。
「長岐さんも来てくれたんだ!」
 茉莉花ちゃんは今朝のような笑顔で僕を迎えてくれた。丈の短過ぎるTシャツから覗くおへそとくびれに、僕は一瞬、目のやり場を失った。
「じゃー、始めっか」
 石垣がそう言うと、茉莉花ちゃんは「はいよ」とスマホを取り出した。何やら操作をして、音量ボタンをカチカチと最大限まで上げると、僕も知っている男性アイドルグループの曲が流れてきた。
「まぁ見てけよ長岐、俺らのダンスをよ!」
 ふたりは僕の方を向き、曲に合わせて踊り始めた。これまた何が悔しいかって、石垣はダンスも上手かったのだ。高校時代は、僕らふたりともそんなに身体を動かすのは得意でもなかったのに。ましてや、ダンスなどもってのほか。
 石垣の隣で踊る茉莉花ちゃんもまた、目を見張るほどにダンスが上手い。きっと僕らと違って、学校では運動部に所属しているとか運動神経がいいんだろうな、などと想像してみる。背が高めだから、バスケ部とかバレー部なのかな? しなやかな身体の動き、躍動感溢れるステップ、夜を照らすような明るい笑顔に目を奪われながら、街灯の下で踊る茉莉花ちゃんを見ていた。

 音楽が終わる。満面の笑みでポーズを決めたふたりに、僕は自然と拍手を贈っていた。僕もまた、笑みが零れていた。
「どうよ! カッケーだろ?」
 軽く息を切らし、それでもしてやったりの石垣のドヤ顔が少し鼻について、僕はちょっと捻くれた感想を述べる。
「うん、カッコよかったよ。息切れてるけどね」
「それは言うな! 体力面ではまだ発展途上なの! これからもっと伸びていく子なの、俺は!」
「それと、途中から茉莉花ちゃんしか見てなかった」
「ぐはぁっ!」
 僕のその言葉が効いたのだろう。石垣は胸を銃で撃たれたようなリアクションで地面に倒れた。それを見た茉莉花ちゃんが「あはは」とお腹を抱えて笑う。
「長岐さん、見てくれてありがとう」
 茉莉花ちゃんがこちらへ駆けてくる。額にうっすら汗をかいていて、石垣ほどではないが少し息も上がっている。
「すごくカッコよかったよ。動きが軽かったけど、何か運動部に入ってるの?」
「ううん」
 あっさりと、茉莉花ちゃんは答えた。
「帰宅部だよ。学校終われば即帰宅。学校いてもしょうがないしね」
 淡々と、茉莉花ちゃんは続ける。
「学校にいるより、湊斗さんと踊ってる方が楽しいんだ! ね? 湊斗さん!」
「だな! 俺もここで踊ってる時間が好きだぜ!」
 腕組みをしてドヤ顔をした石垣を、茉莉花ちゃんが静かに微笑みながら見ていたのが、僕はすごく気になってしまった。

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