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連載小説《アンフィニ・ブラッド》第8話

《前話のあらすじ》
 謎の女・久利生エリは、北影通りで殺人を繰り返していた。そこに、帰宅途中の阿武野ニルが通りかかる。

 一方、神戸シオンと統間ジエムは謎の男から逃げていた。


 神戸シオンが何者から逃げているのか分からず、痺れを切らした統間ジエムは口を開いた。 
「走りながらでいい、話を聞かせろ。お前は何から逃げている?」
「私を追っている男は、ノワール系の魔術師……」
「魔術師?」
「数日前、この四祈市の空から黒い光が漏れてきたでしょ? その時人間界に降り立った、ノワール系の魔術師よ」
 ジエムが目をつけていた黒い光と、突如現れた謎の男女。シオンの言っていることと、ジエムが追っているものがリンクし始める。
「さっきも言ってたが、ノワール系って何だ?」
「あなた……4年前に魔法界と人間界で起きた事件は知ってる?」
「ああ。魔法界から降りてきた怪物が人間界を襲った、あの騒ぎだろ」
「そう。その時降りてきた魔物の名前が『ノワール』」
「じゃあお前を追っているそいつらは、魔物……」
「ある意味、魔物でしょうね。でも正確には違うわ」
「どう違うんだ」
「魔法界には、ノワールを生み出していた石があったの。それを魔法界の王女が破壊したことによって、全てのノワールは消滅した。……はずだった」
「はずだった?」
「でも一部の魔術師が、ノワールのような『悪』を信仰していて……。ノワールが消滅した後も、ノワールの名を掲げて魔法界で悪行の限りを尽くしていたの」
「タチ悪ぃな……なんて輩だ」
「ノワール信仰をしている魔術師のことを、『ノワール系魔術師』って呼ぶのよ」
「なるほどな。つまりお前を追っている奴は──」
 ジエムが言いかけた時、ふたりの目の前にあの男──庵武ユイが現れた。ユイはその腕の中に、ひとりの女を捕らえていた。
「シオンさん助けて……!」
 鎖で縛り上げられたその女は、神戸シオンを追ってきた倉矢アンジュだった。
 
「つまりお前を追っている奴は、極悪非道のヤベぇ奴だってことだな」
 統間ジエムは親指を噛み、舌打ちをした。
 
 *
 
「た、助けて……」
 携帯電話から聞こえてきた阿武野ニルの声は掠れていた。只事ではないと悟った伏木アトリは、部屋を出て街へと駆け出した。
 ここからニルのマンションへと続く大通りがあるが、街頭の少ない方へ外れると、そこは北影通り。言わずと知れた犯罪多発エリアだ。
 
 北影通りへ足を踏み入れたアトリは青ざめた。積み上げられた木箱の周りには5人の死体。全員血まみれで乱雑に横たわっている。そしてその先に、もうひとり誰か倒れている。
(まさか……!)
 アトリは駆け出す。悪い予感は的中していた。全身血まみれで倒れていたのは、つい先程まで一緒にいた阿武野ニルだった。
「ニル!?」
 アトリは血まみれになったニルを抱きかかえる。襲われた後すぐアトリに電話をしたのだろう。ニルの傍には携帯電話が落ちていた。
「ニル! しっかりしろ!」
 全身をズタズタに切り裂かれ、あまりにも出血が酷い。ニルの息はもうなかった。しかし、アトリはどうしてもそれを信じたくなかった。
「ニル! 嘘だろ!? 目を覚ましてくれ!」
 アトリの悲痛な叫びも、ニルにはもう届かない。どんなにニルの身体を揺さぶっても、ニルはもう二度と目を覚ますことはない。
「ニル……!」 
 涙を流し、頭を垂れたアトリの全身の力が抜ける。その時。
「クスッ」
 突如、女の笑い声が聞こえた。アトリは顔を上げる。
 長い髪、澄んだ茶色の瞳、白い肌、華奢な身体。返り血を浴びた白のノースリーブと、手にはフルート。
 それは、アトリの見覚えのある女だった。
 
「神戸シオン……!?」
 
 伏木アトリがそう口にしたのを確認し、その女──久利生エリは満足そうにその場を後にした。

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