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日本酒の食中酒としての新たな形。

口に含んでみて「白ワインみたい!」と思わず言ってしまう、酸の綺麗な日本酒は数多くあります。

「夏酒」というカテゴリーも、その味わいはまさに綺麗な酸で爽やかさを表現したものが多く、徐々に気温が上がってくるこの季節、その爽快さが嬉しい。

そんな酸の綺麗な「白ワインみたいな」日本酒の多くは、お米の旨さや味わいの厚みが抑制されたものも多く、たとえ旨みや味わいの厚みを意識したものでも、「綺麗な酸とのバランスの達成がゴール」と思わせるお酒が多い。

そんな中、「綺麗な酸と旨みとのバランス」を基調としつつ、さらに酸味感が一歩前に出てくる、とっても素敵な日本酒を見つけました。

タイトル写真にある、福岡県 若波酒造さんの醸される『若波 純米吟醸FY2』。

もう、これ、本当に他にはない味わいだなーと思って、初めて口にして暫しその衝撃に浸ってました。ほんとにすごい。

何がすごいかって、お米の旨みをベースにしながらも、酸味の突き抜けた感じがたまらなく美味しいんですね。

その酸味の突き抜け感が、白ワインとは違って入口の香りでは判別できず、口に含まないと分からない、そこがほんとに面白い!と思って。

もう一つ何がすごいと思ったかというと、この「お米の旨みをベースとしながらも酸味が一歩前に出た味わい」が斬新で、日本酒の新たな食中酒としての形を真っ直ぐに示している気がしたんですね。

これ、レモンや柑橘系を絞りたくなる料理なら何でも合わせられるよって、初めて口に含んでみて確信したというか。

日本酒の奥深さを新しい角度から見せてもらった気がして、なんだか嬉しくなりました。

1.初めての若波さんのお酒

若波さんの日本酒を初めて口にしたのは、実はほんとに最近の話で、最初の一杯は定番の純米吟醸だったんです。

優しく酸の柔らかな飲み口を基調に、厚めの旨みと程よい膨らみのあるお米の甘さが素敵なお酒だったんですね。どこか温かみを感じさせる味わいで、同時に懐の深さを感じさせるお酒。

日常のお酒として無意識に手を伸ばしてしまいそうな味わいの安定感、そして何より丁寧さが前面に出ていて。味わいの特徴以前に、ぼくはこういう丁寧な味わいのお酒が大好きなんですね。

美味しいお酒に出会ったという印象でした。

2.『若波 純米吟醸FY2』

そして、オンラインで日本酒を探していて見つけたのが今回のお酒。ラベルデザインもまさしく「白ワインのような日本酒」で、それだけならおそらく選んでないんですが、

前回飲んだ純米吟醸の味わいの印象が残っていて、「あの厚めの丁寧な味わいを造られる蔵元さんが、白ワインのような日本酒を造ったらどんな味になるんだろう」と気になって購入してみました。

初めて飲んだ味わいのメモ。

入口はシトラスを思わせる爽やかな酸とクリーミーなボリュームのある酸の香りの融合。
口に含むと、綺麗な酸味とお米の旨みのバランス感をベースに、さらにレモンを思わせる酸味が一歩前に顔を見せる。入口で感じたクリーミーな酸も味わいの厚みとなって下から支えてくれる。これは面白い。美味しい。
「白ワインのような」と形容できる日本酒は沢山あるけど、この酸味の突き抜けた感じは、さらに一歩前に踏み出した感がある。
白ワインとの最大の違いは、入口で白ワインのような「引き締まった酸味全開!」な香りがしないこと。
レモンの合う料理なら何でも合わせられると思う。

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この「FY2」というのは、このお酒に使われている「ふくおか夢酵母2号」のことで、リンゴ酸を通常の2倍〜3倍出す多酸性の酵母。リンゴ酸というのは、味わいとしては、冒頭ご紹介の「綺麗な酸」のことです。

今年度の造りから、このリンゴ酸の綺麗な酸だけではなく白麹を一部使用されていて、リンゴ酸だけではなく、白麹によるクエン酸も合わさったと。

口に含んだ時の酸味の突き抜け感はここから来ていたんですね。

お米の旨み感、厚みのあるクリーミーな酸や綺麗な酸がしっかりとベースにあってバランスされた上に、酸味の味の広がり、一歩前に出る感じが他にはない味わいになっていて。

単体で頂いても何倍でも飲めるくらい美味しいんですが、この「旨み感」と「酸味の突き抜け感」の両立は、まさしく新しい食中酒だなという直感がありました。

これ、食事に絶対合う。レモンや柑橘系を絞りたくなる料理なら何でも合わせられる。

そう、「料理に絞ってかけるレモンの代わりに飲むお酒」だと思ったんですね。

3.日本酒の食中酒としての新たな形

日本酒の最大の特徴の一つに「食中酒に向く」というのがあります。食前のスパークリング日本酒や、食後でもいける熟成酒などもありますが、基本は食事に合わせるお酒です。

そして、控えめに言って日本酒の味が食事の味を邪魔することはないんですね。ペアリングという積極的な組み合わせでなくとも、食材のマイナス要素を引き出すことが極めて少ない。

白ご飯がどんなおかずでも受け止めてくれる、それと同じ感覚です。「白ご飯と一緒に食べたら、おかずの味が台無しになった」って、よほどのことが無い限りそんな経験は無いと思います。何でも受け止めてくれるんですね。

今回の『若波 純米吟醸FY2』は、そんな白ご飯的なお米の旨さと懐の深さをキープしつつ、前面に出た酸味がある。

この3日間ほどで、家にあった(作って頂いた)、レモンを絞りたくなる料理と合わせてみました。

イカのフリット、鯛の塩焼き、マグロのソテー、豚肉と空芯菜のオイスターソース炒め、細切りポテトとウインナーのロースト、イワシのガーリック焼き。

結論、どれもめちゃくちゃ合います。

特に鯛の塩焼きは感動的に合う。白ワインを合わせるより、この日本酒の方が圧倒的に合う。

鯛の塩焼きをほぐして口に含む。鯛の身の甘さを感じながら、純米吟醸FY2を口に含む。前面に感じるお酒の酸味が、鯛の甘さを引き立て、その甘さがフィードバックされて、お酒の酸の美味しさを引き立て直す。引き立て直された酸の美味しさが、さらに鯛の甘さに重なっていく。

もう、これ、無限の「美味しいループ」なんですよね。幸せのループがここにある。

これはすごいと思いました。こんな食中酒の体験したことない。

「白ご飯的な日本酒」は沢山ありますが、そこに「レモンを絞る代わりに料理と一緒に飲みたくなる日本酒」という要素を掛け合わせたものは、ほかに無いと思います。

日本酒の、食中酒としての新たな形がここにあると思います。



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