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光に堕ちた涙 -もしくは運命に踊らされた悲しみの系譜

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私の回顧録。 不定期で更新。
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#黙示録

第十五章 貧乏人は二度死ぬ

第十五章 貧乏人は二度死ぬ

仮装した男たち。
耳障りな猫撫で声を発しながらシャンペンを飲むホステス。
トイレットペーパーのように金を使う成金。
困惑した表情の貧困大学生。

大阪カースト制度の模範解答がそこにありました。

私は震えた手つきでグラスを口に運び、宴の行く末を見守っていました。

金ピカに光るミラーボールがステージ上を卑猥にチカチカと照らします。
もくもくと焚かれたスモークからバニーガールの男たちが登場。
一斉に

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第十四章 泣いてない。いつもより炭酸が強いだけ。

第十四章 泣いてない。いつもより炭酸が強いだけ。

扉が開く音と同時に現れたのは"お金の愛人"社長Aさん。
強欲、支配、権力が融合し、服を着て歩いているような男性。
迎えにいった戦士たちも後に続きます。
その顔は、ミッドウェーに向かう兵士の"それ"でした

その後に雪崩れ込むキャバ嬢たち。

全員食べても歯応えすらなさそうなガリガリな腕、竹ぼうきのようなマツエク、大きく盛られた髪の毛は孔雀が求愛する時のようになっていました。

その後ろをついてきた

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第十三章 ホンマもんは、美女の匂いを嗅ぎながらティッシュ片手に米二合を喰らう

第十三章 ホンマもんは、美女の匂いを嗅ぎながらティッシュ片手に米二合を喰らう

兵隊の一員となった私。
心の自分が慟哭していました。
しかし、あくまでこの状況を楽しんでいるかのように振る舞わないといけません
(※慟哭とは声を出して激しく泣くこと)

ハイパーVIP来店イベントの警戒レベルは西日本豪雨以上。

"命を守るための最善の行動をとってください"と私の脳は全神経へと通達。

"今すぐに武器を持ち、戦いの準備をして下さい。目の前の戦いから逃げないで"と社畜メンタルは真反対

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第十二章 北新地 金と女としばしば社畜

第十二章 北新地 金と女としばしば社畜

大学と北新地を往復する生活を始めて約半年。
たばこはエコーからハイライトに変わったと言うのに私の心は半年前よりもっと荒んでいました。

"プロ"との初出勤、Jさんのバースデー、グラスと心が割れたあの日、そして若者の憤死。

それ以外にもクソ女に投げられたタバコの空き箱、頭からかけられたシャンパン、罵詈雑言とクレーム。
その一つ一つが、私の心を確実に痛めつけました。

二十余年前、大阪に爆誕した私。

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第十一章 戦場に流れた若者の死は報われた試しがない

第十一章 戦場に流れた若者の死は報われた試しがない

ひたひたに注がれたストロングゼロを置かれたクソガキを横目に始まったのは間奏一気という非人道的ゲーム。畜生が行うゲーム。
(※ルールは簡単。カラオケで間奏前に歌った人が一気飲みするだけ。ばか。殺人。うんこ)

浜崎あゆみのユーロビートを入れたHさん。
「一番若手からいこや」の提案で、クソガキからのスタート。
しかしこのユーロビートに仕掛けられた巧みな罠。
一番手がいきなり間奏を迎えるんです。

「は

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第十章 女子高生は彼の頭を当たり前のように拳銃で吹き飛ばす

第十章 女子高生は彼の頭を当たり前のように拳銃で吹き飛ばす

怒りに震える手で酒を注ぐ私。

刈り上げの社長。

死んだ目のクソガキ。

それを草木に隠れて獲物の頸動脈をじっと狙うHさん。

北新地〜Hと僕と時々クソガキ〜といったドキュメンタリーが始まりました。

クソガキは火の国熊本出身、就職のため大阪に出てきたと聞きました。
社長曰く若手一番の期待株。次世代はこのクソガキに懸かっていると言っても過言ではないとのこと。

「酒で潰れたことないっす自分」

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第九章 オトナはクソガキを燃やしたカスでパックする

第九章 オトナはクソガキを燃やしたカスでパックする

当たり前のように夜勤をして、酒臭さを毒ガスの如く吐き出して登校。
学校のシャワーを浴び、学校のソファーで睡眠をとり、授業を受けた後に部活動。

この狂ったサイクルの繰り返し。
私の生活のベアリングは腐食し、異音を発していました。

私は大量のカフェインを体内にぶち込み、心の中で嗚咽しながら阪急電車に乗り出勤しました。
阪急は天六で堺筋線へと変わります。

高級住宅街と西成を結ぶ、関西の貧富の差を路

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第八章 割れたのはグラスではなく心なんだよなぁ

第八章 割れたのはグラスではなく心なんだよなぁ

むかし むかし あるところに あいをもとめる ホステスが いました

ホステスは きたしんちで のみやの おとこのこに  であいました

なくしていた パズルの さいごの1ピースが はまったかのように あいは うごきだしました

でも おとこのこへの あいは けしてかなうことが ありません

かのじょの あいは いきさきのない かみひこうきのように てをはなれてから かえってきませんでしたとさ

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第七章 あいうえおんな(愛飢女)➖ She is hungry for love➖

第七章 あいうえおんな(愛飢女)➖ She is hungry for love➖

Jさんのバースデーから数週間、これまでの激動の日々が嘘のようにしっぽりと、まるで北新地全体が疲れた身体をエステで癒すかのように穏やかな日々が続きました。

私のタバコはエコーからハイライトに変わりました。
たった数百円のランクアップ。
気持ちはリアカーからレクサスへと大きくのし上がった気持ちで一杯でした。
(※当時のエコーの値段は250円。ハイライトは420円。どちらも日雇い労働者から圧倒的支持を

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第六章 戦を終えた兵士は灰のように静かに眠る

第六章 戦を終えた兵士は灰のように静かに眠る

北新地の空に赤マルとエコーの香りを残しながら、店内へと足を進める私とJさん。

御堂筋のように真っ直ぐ歩く私と対極にJさんの足取りは、京都から琵琶湖へと抜ける山中越えを彷彿させるグニャグニャと奇妙な千鳥ルートで進んでいました。
(※山中越えはかつて走り屋達を熱狂させ、当時最強と言われたLHというオービスを導入させるに至った)

店内に帰るとグループ最強の喧嘩師KNさんがコーヒー牛乳を飲み、横には北

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第五章 愛はユンボより重く、気の抜けたシャンパンより味気ない

第五章 愛はユンボより重く、気の抜けたシャンパンより味気ない

チクタク、チクタクとJさんのアルコール爆弾は確実に彼の体内を蝕み、意識を遠い別世界へと誘って行きます。

Jさんは奥の灰皿の前に置かれた空き瓶ケースに腰掛け、買ったばかりの赤マルに火をつけました。

「まだ序盤やのに酔うてもうたわ。」
"死神が振り下ろした鎌"、"アルコール時限爆弾"。
私は歯の裏まで出かかった言葉を吐き気を催しながらも胃の中に逆戻りさせました。

私は清潔で健やかな花王のような人

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第一章 井の中の蛙大海へ

第一章 井の中の蛙大海へ

扉の向こうは有名人のサインだらけ。

内装はオールピンク。

鮮やかな色ですが、どこか悲しく暗い雰囲気には変わりありませんでした。

鼻をかすめる香りはどこか懐かしく、その香りは私を北新地から難波へと連れて行ってくれました。
その香りを思い出すのにそれほど時間はかかりませんでした。
目を閉じるとその風景が目に浮かんできます。
それは風俗の待合室の香りでした。
悶々とした男達が全く興味のない雑誌の興

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第二章 初陣の夜、鬼達は静かに刃を研ぎ澄ます

第二章 初陣の夜、鬼達は静かに刃を研ぎ澄ます

記念すべし初出勤。
0時オープン5時閉店というトリッキーな営業体系を取る店舗。

「おはようございます!」私は清潔で健やかな毎日を過ごす花王のような人間(実際は不潔で自堕落な生活を送る貧困層)なので、大きな声で挨拶。

初出勤なので皆さんの自己紹介を受けました。

1.代表
グループの副ボスでこの店のトップ。「君臨すれども統治せず」を貫き、店舗の実務は先日紹介したHさんに任せている。丸坊主にハット

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第三章 アネモネの花は邪悪な毒蛾に食い潰される

第三章 アネモネの花は邪悪な毒蛾に食い潰される

「ベルエ一本や」
男性客は席に着く前にオーダーを告げました。

夜の世界ではドンペリニョンと並ぶ定番シャンパン。
ラベルに飾られるアネモネの花が象徴的。

「いらっしゃいませ!」と特攻隊Kと唐獅子牡丹Nはすぐさま席に案内。

さすがだと私は感心しました。
客がいないため従業員が近い一番手前の席にあえて案内しました。
全盛期の巨人を支えた名二塁手 仁志敏久を彷彿させる迅速と丁寧を兼ね備えたご案内。

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