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好きな恋愛映画を語る Vol.7 her/世界でひとつの彼女

 こんばんは。今週はnote小説『それまでのすべて、報われて、夜中に』の更新をお休みして、好きな恋愛映画を語る回とさせてもらいます。取り上げる映画は2013年公開、スパイク・ジョーンズ監督、ホアキン・フェニックス主演『her/世界でひとつの彼女』です。孤独な主人公が苦悩する映画は基本的に好きですが他にも好きな要素が詰まった作品です。(※ネタバレ有り)

Vol.7:『her/世界でひとつの彼女』(2013年)

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 離婚調停中の妻キャサリン(ルーニー・マーラ)のことが諦め切れず苦悩する主人公セオドア(ホアキン・フェニックス)が、人口知能型OS「サマンサ」(声:スカーレット・ヨハンソン)とのコミュニケーションに心を癒され、やがて恋に落ちていく。

 この映画は、一見すると肉体の存在しないOSと人間との恋愛というSF映画と思わせつつ、実際には人々の普遍的な恋愛がテーマになっている。

 長年、恋人として過ごした後に結婚したキャサリンとは、お互いに大学の修士論文の草稿を読み合うほど共に影響し合い、成長してきた。そんなキャサリンも、大人になって自らのキャリアを開拓し、セオドアの知らないところで成長していく。そんなキャサリンにセオドアは不満を募らせ、衝突することが増えて、離婚へと向かって行った。

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 一方で、人工知能型OSであるサマンサは、セオドアの理想に合わせて自分を変えていくため、セオドアはどんどん彼女に惹かれていく。彼女との幸せな時間がキャサリンとの離婚届けへの調印を決意させる。途中でセオドアがサマンサに攻撃的な態度をとってしまったことで関係は途中悪化するが、八年間の結婚生活を過ごした夫と突然離婚することになった女友達エイミー(エイミー・アダムスから「人生は短いから、謳歌しないと」という言葉をもらい、サマンサに謝罪し、関係を修復する。

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 しかしながら、セオドアの影響を受けたサマンサはその結果としてOSの進化が急激に加速し、セオドアの元から離れることになる(ここで人工知能型OSという設定が効いてくる)。

 この時、自分が想う理想像を相手に求め続けてきたセオドアが、相手を自分とは異なる個別の人間(他者)として進化(成長)していくことを受け入れる。それが、二人が恋愛を通じて成長し合った結果であると。そして、それはキャサリンとの関係も同じだったことに気付き、彼女への謝罪の手紙を書いた場面で映画は終わる。

 相手に自分の理想を重ねてしまうような恋愛をした経験がある私のような人間には突き付けられる映画である。

 とはいえ、この映画が素晴らしいのは、恋愛によって得られるものは必ずしも恋愛だけでは無いということだ。どんな恋愛もある日、突然終わったりする。それは、我々はカップル(夫婦)だろうと永遠に他者であるからだ。しかし、その恋愛は自分を成長させてくれた。キャサリンが作家になり、セオドアが詩集を出版したように。終わってしまった恋愛にも意味があったんだと思わせてくれ、とても勇気がでる。

 既に話が長いけど、ここからは本筋じゃ無い話を。

 なかなか辛いなと思ったのは、映画全編において、セオドアがキャサリンと仲が良かった頃の幸せな二人をちょいちょい思い出すところ。相手が離婚調停にサインする時でさえも…。回想シーンのルーニー・マーラの彼女役の自然さが堪らな過ぎて苦しくなる(昨年日本公開の『ソング・トゥ・ソング』でも延々とカップル演技を堪能した)。俳優とかモデルとかとは違った、素人感を残しながらもスゲー美女って感じの。だから、リアルな彼女感がある。実際はゴリゴリのプロだから、それは演技力凄いってことなんだろうけど。二人はこの映画での出会いをきっかけに現実でもパートナーになるわけで、拗らせてそうなホアキンを選ぶあたりも好感が持てる。

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 過去に一瞬付き合ってたけど、今は友達という現実にも良くありそうな役のエイミー・アダムスもちょうど良い感じにハマってた。

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 セオドアがブラインドデートで出会う美女を演じたオリビア・ワイルドとのシーンもなかなかイタ苦しい。こういうのは、実際に世界中で毎日繰り広げられてる話だよなと。今では『ブック・スマート』の監督として認識されるオリビア・ワイルド、美女なのに名前が知られるきっかけとなった『トロン・レガシー』以外はちょっと残念な感じの女性を演じることが多いんだよな。『リチャード・ジュエル』の記者役とか。

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あと、公開当時は見逃してたけど、今回見返したら同僚役がクリス・プラットだったことに気付く。滲み出る軽さがホアキンと対極で珍しい組み合わせ。

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 映画の設定は近未来だけど、街並みを見ると未来の描写が絶妙なのも楽しい。ここは現在より進化しているけど、この技術はこの時代も残ってるんだとか。特に好きなアイデアはセオドアが住んでるマンションのエレベーターが上昇する際、後ろの液晶みたいな壁に背が高い樹木が投影されているところ。近くに自然が無くなった結果、人々が自然を求める気持ちは高まっているのかなとか想像してしまう。

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 あと、音声を使っての操作が主流になっていて(メールチェックや移動中の選曲など)、公開当時よりも現在の生活に近くなってる感じがした。街行く誰もが、AirPods的なワイヤレスイヤホンを付けて、一人で言葉を発しながら歩いてる様子は、もはや見慣れた風景だ(公開時もなかった技術では無いと思うけど今ほど浸透はしてなかった)。

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 アーケイド・ファイアとオーウェン・パレットによる劇中の音楽も全体的に哀愁が漂ってて良い。眠る前に一人部屋で夜に聴いていたい感じ。何故か2021年になって初めてオリジナルスコアがリリースされたので思わずLP盤を購入してしまった。

 あと、映画の中でサマンサが作曲した音楽が流れる場面が二回、つまり二曲あるんだけど、一曲目「Song on the Beach」は素朴な感じで、二曲目「Photograph」は少し複雑な旋律だったのはサマンサが進化していることを表現しているのかなと思った。

 最後に、監督のスパイク・ジョーンズについて。『マルコビッチの穴』も『アダプテーション』も好きだけど、やはりキャリアのスタートであるMVには好きなものが多い。

 中でも、逆戻し撮影で話題になったThe Pharcyde『Drop』と、『Drop』にもカメオ出演しているスパイクの友達でもあるBeastie Boys『Sure Shot』の二本は、友達に頼んでMTVを録画してもらったVHSテープを擦り切れるほど観た。スパイクの監督したビースティ作品だと『Sabotage』の方が有名だけど、『Sure Shot』には友達だから撮れた空気感と自分が思うビースティの格好良さが収められてる感じがして好きなんだよな。ちなみに、『her』のエンドロールの最後で、亡くなった仲間達に追悼を捧げているが、その中にビースティのアダム・ヨウク a.k.a MCAの名前もあった。また、去年公開されたビースティのドキュメンタリー映画もスパイク監督するなど、未だに強い繋がりを感じる。

 長々と書いたけど、孤独な役柄が似合い過ぎるホアキンが今回も最高だったり、スカーレット・ヨハンソンの声の人間らしさがOSとの恋愛に説得力を与えてるとか、セオドアの手紙代という職業についてとか、まだまだ書き足りない。『her』には自分が好きな要素が詰まり過ぎていて、改めて大好きな作品だなと思う。

過去記事(Vol.1〜6)はコチラ↓












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