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退職申告とパワハラ上司
(Twitterはこちら → @yanagi_092)
最近は、転職が活発化している影響なのでしょうか。退職に関する相談をお受けする機会が増えてきました。ほとんどのケースでは「以下noteを見てください」と誘導することが多いのですが、これでは対応できない酷いケースも散見されますので、今回は以下の続編となります。
退職時に有給消化ができない!?
私の東京海上時代、退職時の上司に恵まれましたので、「録音→労基署駆け込み」といった強硬手段に出る必要はありませんでした。しかし、近年では東京海上社員から以下のような相談を耳にするようになりました。
本社部門:
退職に伴い、残っている有給消化(1.5ヵ月)を申し入れたが、断わられた。後日、疑問に思った弁護士の父親が「どういうことですか?」と問い合わせたところ、有給消化がOKになった。
地方営業:
退職&有給消化(1ヵ月)を申し入れたところ、上司が激怒しました。2回目以降の交渉で、敢えて分かるように「録音」をして話し合いに臨んだところ、急に「退職&有給消化(1ヵ月)」でOKとなった。
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ここで、退職時の有給消化について整理をしてみたいと思います。まず、会社側に「時季変更権」があることは最初に紹介したnoteのとおりです。しかし、退職が決まっており、莫大な有給が残っている場合に「時季変更」ができるのでしょうか。例えば、残りの勤務日数が30日で有給残が70日として、勤務日数30日を全て有給とする場合、会社は「時季変更」を主張できるのでしょうか。
結論として、時季変更はできません。なぜなら、有給の変更先が無いからです。
(中略)、時季変更権は退職予定日を超えては行使できません。つまり、退職してしまうということは、他の時季に有給休暇を与えることができませんので、時季変更権を行使することはできず、有給申請者の請求が通ることになります。
退職日までの有給休暇消化では、「時季変更権」は主張できないことを会社に話しましょう。
(中略)、退職予定日までの全期間、有給休暇を取得したいと申し出があれば、法律上は認めざるを得ません。
退職金の減額はありえるのか?
次の相談事例です。
本社部門:
退職を上司に伝えたところ「考え直せ!今ならこの話は無かったことにしてやる。退職金を減額させることもできるんだぞ!!」と、顔を真っ赤にして激怒しました。上司は、賞与ではなく「退職金の減額」と明確に言っているのですが、これって本当でしょうか。
凄いことを言いますね、この発言は完全にアウトだと思うのですが・・・
以下のように、賃金の後払的性質を有する退職金については、極めて悪質な懲戒事由が無ければ減額となりません。相談事例の場合、「こんなに忙しい時に辞める奴は、悪質だ、退職金は減額だ!!」ということでしょうか。滅茶苦茶過ぎて、本当に大丈夫かと心配になります。この上司は、録音されていたらどうするつもりだったのでしょうか。
懲戒事由が存在するかという点だけでなく、退職金の減額・不支給に相当するだけの背信行為かという点についても慎重に検討する必要があります。
なお、私が退職時に、転職エージェントから以下のような心配をされました。
エージェント「東京海上さんって、本当に退職で揉める会社で有名なんですよ。なぜなんでしょうか。」
ぼく「何ででしょうね。今まで待遇が良くて辞める人も少なかったから、退職に慣れていないのかも。僕の場合は、それ以上の「圧」で押し返してやりますよ。僕の人生は、僕で決めます。」
このように、転職エージェント界隈でも話題になるくらい「東京海上は退職で揉める会社」として名を連ねているようです。
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日本型終身雇用における退職マネジメント
日本企業の管理職においては、過重労働等については会社側から強く指導を受けています。しかし、退職に関する指導はほとんど受けていません。特に、終身雇用を前提とする日系企業ほどこの傾向は顕著です。
そして、日本型終身雇用の会社において、程度の差はあるものの「退職者(≒迷惑を掛ける『けしからん奴』)」という空気感があるのは事実です。このような背景から、無知な体育会パワハラ上司による、有給揉み消しが横行しています。特に、かつて東京海上は退職者が少なかったこともあり、現場レベルにおいては極めていい加減な退職マネジメントが蔓延しているように感じています。
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一方、外資系の会社において、有給消化は当たり前の文化です。これはリスク管理の観点からも、有給をケチって訴訟リスクを残すよりは、全部権利を消化してもらった方が安いからです。会社からすると、有給分の給与なんで僅少な額に過ぎません。
結局のところ、日本型終身雇用の会社が「絶対に有給阻止!」になりがちなのは、「退職者(≒裏切り者)」に対する制裁的な感情論が影響しているのではないか、とすら思えてきます。
このような話をすると「普段から上司と関係を築いていた私は、円満退社したよ。退職で揉めるのは、従業員が悪いんだよ」という話が反射的にくるのですが、それもまた事実でしょう。私も、まぁまぁ円満に退社できたと思っています。しかし、仮に上司との関係が悪かったとしても、パワハラ気味に脅されたり、有給をもみ消されたりして良いものなのでしょうか。それとこれとは、全く別次元の話ではないでしょうか。
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労働者が身を守るには
このようなパワハラから自身を守るためにも、是非とも録音をお勧めしています。私の場合、1回目の退職申出における上司の対応次第では、「2回目で全て録音→労基署持ち込み→翌日から全て有給で去る」まで覚悟していました。
しかし、上司に恵まれた私は、パワハラ気味に脅されることもありませんでした。ただ、有給については「お願い」をされました。「ダメ」と言わず、明確に「お願い」と言う辺りは流石だなぁと思いつつ、お世話になった会社や上司なので、ある程度は「お願い」をお受けして、そこそこ有給を消化して退職をした経緯にあります。
しかし、全ての人が上司に恵まれている訳ではありません。また、尊敬する上司であったとしても、退職を申し入れたとたんに、パワハラ上司に豹変する恐れもあります。今や、スマホで簡単に録音ができる時代です。実際に使うかどうかは別にして、自分のお守り的な意味でも、録音をしない理由は無いと思っています。
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なお、全く話にならない上司であることが分かっているなら、最初から退職代行にお願いをする手段もあります。これは、決して恥ずかしいことではありません。むしろ、パワハラ気味に時代錯誤な退職マネジメントをしている会社側が、恥ずべき問題ではないでしょうか。会社が退職者に対する無茶苦茶な仕打ちをしているから、退職代行が流行っているとも考えられます。
管理職の立場からの考察
ここで、管理職の方々でこの記事をご覧になっている方がいれば、部下の「録音リスク」について真剣に考えていただきたいです。きっと、品行方正に様々なことを犠牲にして、管理職の地位に上り詰めた方も多いと思います。しかし、退職関連の知識不足から生じた失言が録音され、インターネットへの流布もしくは、労基署へ駆け込まれたらどうなりますか。あなたの会社人生は一瞬で破滅し、日の当たる場所に戻ることはできなくなります。
辞める覚悟を決めた人間にとって、もはや怖いものはありません。辞める者からすると、失う物は無いので、万が一の場合は刺し違える覚悟もあるのです。管理職の方々は、ヒヨッコの若者だからと言って、舐めない方がいいです。
とはいえ、部下のために育成計画を作成して、部下が昇格できるように部内や人事部と泥臭い裏交渉をしていたにもかかわらず、いきなり突き付けられた退職届。頭が真っ白になって「裏切り者!」と怒り狂ってしまうこともあると思います。
しかし、日本型終身雇用の崩壊とともに、転職が当たり前の時代に突入しつつあります。そして、皆さんからは「何も分かっていないヒヨッコ」に見える部下かもしれませんが、彼ら彼女らなりに一生懸命に悩んで苦しんで「退職」を決断し、飛び降りる決意であなたに退職を通知したのです。自らの古い価値観を刷新したうえで、部下の退職も有給も、気持ちよく認めてくれないでしょうか。それが双方にとって、最も有益ではないでしょうか。
今後、同様の相談が来れば、このnoteに誘導することになると思いますが、いつか、この記事が役に立たなくなる日が来ればいいな、と願うばかりです。
(終わり)
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