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元学芸員が言い残したいこと

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私の仕事から生まれた記事をピックアップ。
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#創作大賞2024

埋蔵文化財(遺構)の保存

埋蔵文化財(遺構)の保存

日本の埋蔵文化財の多くは遺構を保存する際、埋没保存が原則というか、それしかできない。ヨーロッパのような石造りではなく、中東のような日干しレンガでも風化しない環境でない日本の遺跡は、剥き出しにしていると降雨による流出や乾燥による水分蒸発で、すぐ劣化してしまう。
奈良県の平城宮跡に遺構展示館があるが、このように覆屋を建設しないと剥き出しでの遺構保存はできない。温湿度等の管理も必要となる。しかしそこまで

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歴史遺産=文化財の記録保存(次善の策)の必要性

歴史遺産=文化財の記録保存(次善の策)の必要性

個人的に、「歴史遺産(文化財)は原則として全て保存すべき」だが「現実にはそういうわけにいかないので、どれを保存するか取捨選択するのはやむなし」だと思っている。だから、指定・登録という制度があるのだと認識している。
例えば、周知の埋蔵文化財包蔵地=遺跡は、原則に基づいて全て保存するとなると一切の開発ができなくなり、生活に支障をきたす。そのため、発掘調査をして写真や図面で記録を取り、調査報告書を作成す

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博物館資料について

博物館資料について

改めて、博物館資料について考えてみよう。
博物館の収蔵対象となる有形文化財は、彫刻や絵画のような一点ものと、写本のように一点ものだが複数の系譜があり相互の比較検討が必要なもの、土器や民具のような量産型手工業製品にざっくりわかれる(かなり乱暴な分類であることは自覚している)。
近年、博物館収蔵庫の余剰の問題とともにピックアップされているのが最後の量産型手工業製品だ。これらは工人の違いで技法に差異が生

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博物館収蔵庫満杯問題の遠因

博物館収蔵庫満杯問題の遠因

本記事は民俗学者・岸澤美希先生の記事(下記リンク参照)を読んでまとめたものである。

自分も元は博物館の中の人だったから、収蔵庫の問題はよくわかっている。
正直なところ、収蔵品の選択廃棄は最悪の場合必要だと思っていて、そのかわり廃棄するものは記録保存を徹底的にやれと以前Twitterおよびnoteに投稿した。消極的廃棄賛成派の自分が奈良県知事に対して怒っているのは、その文化財への解像度の低さが原因

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歴史民俗資料(文化財)の受け入れと収蔵(奈良県の事例から)

歴史民俗資料(文化財)の受け入れと収蔵(奈良県の事例から)

奈良県立民俗博物館が、空調の不具合等から臨時休館することが決まった。空調の故障で収蔵資料に影響が出るかもしれないという。今回は、それに関連した山下奈良県知事の発言が波紋を呼んでいる(詳細は下記記事参照)。

奈良県立民俗博物館を巡る奈良県知事の発言に対して、自分も専門家の端くれ(学芸員資格を持つ者)として声を上げているが、別に知事が維新の会所属だから敵視しているわけではない。維新の会支持者になぜか

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