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【訊く編】リモートで社員が自走し始める、『設問力』の鍛え方

こんにちは、ブランディングプランナーのヤマグチタツヤ(@yhkyamaguchi)です。

契約書を新たに結ぶ際に「漢字って山口達也で合っていますか?」と聞かれる度、そこはかとない申し訳なさを感じるのが最近の悩みです。


さて、今回は日々のCI策定・インナーブランディングの実務から整理されてきた個人の意志を引き出し自走に繋げる『設問力』についてです。

以前の「愛知東邦大学のブランド戦略解体note」の中で、

「自社と個人のブランド(=意志・価値観)がどこでどう重なっているか?」を可視化していく視点・スキルは、今後より組織において強く求められていくと推測しています。

と書きました。

互いのブランドが重なると、

・個人側:自発性が高まる(なぜこの企業で働いているのか?の納得度が強いと自走しやすくなる)

・企業側:企業ブランドのファンが増え、ビジョン実現により早く近づく

こうした効果があるから企業と個人の関係性は重要だ、というお話でした。

ただ、このnoteを書いた後、そういえばこの「互いのブランドが重なりを可視化していく視点・スキル」の話って詳しくしたことがなかったなと思い、改めて筆を取ろうと思い、今に至ります。


最近、企業ブランドを組織側から体現するに当たり、個人の意志を引き出し言語化するヒアリングスキルの内製化プロジェクトを進めています。

具体的にはこういったニーズからインナーブラディングの観点でプロジェクトを実行中です。

・「メンバーには会社のためだけでなく、自分のためにも働いて欲しい」
・「なぜこの仕事をしているのか?を理解して、"働く"や"生きる"を自分ごと化して欲しい」

下図で言えば、この「個人と会社が重なる部分」をいかに手触り感を持って引き出していくか?がプロジェクトの目的に当たります。

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今回は、そうした実務の中で整理されてきたヒアリングスキルを『設問力』と称し、個人が自走するようになるヒアリング術のコツをまとめてみます。

ビジョン策定時の社長、社員インタビュー、採用面接......etc

など、個別ヒアリングのあらゆる場面で『設問力』は活用できるので、押さえておくと非常に便利なスキルです。

では、早速中身を見ていきましょう!

1.そもそも『設問力』とは?

この言葉は僕が勝手に作った造語ですが、これは「相手の価値観の深層を引き出すヒアリング術」を意味しています。

1枚絵で表現するとこうなります。

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設問力=「訊く力(Ask)」+「聴く力(Listen)」
①プロセス(時間軸,深化と展開)
②種類(問いの切り口,角度)
③距離感(相槌,承認,身体的距離)
④空間デザイン(音,照明,温度)


ヒアリングの話になると、よく「傾聴が大事だ」と耳にします。

上記で言えば③・④がそれに当たりますね。

傾聴に関しては数多くの本や研修があるので、こちらはすでに皆さんも馴染みある分野なのではないかと思います。
(相手の姿勢から感情を読み取る「身体的距離」の要素などは取り扱われないかもしれませんが......)


ただ、いくら「聴く」が上手くても「質問(=訊く)」が上手くなければ、相手の深層に眠っている話は引き出せません。

そこで今回、「どちらか」ではなく「どちらも」という考え方で、

設問力=「訊く力」+「聴く力」

と、自分なりに言葉を定義しました。


今回、全ての要素を細かく取り上げるととてつもない文字数くらいになるので、今回のnoteでは「訊く(Ask)」の①と②の重要部分にフォーカスを絞り、それぞれ説明していきます。


2.設問のプロセス

まず、具体的な質問をしていく前に「どのようなプロセスでどのような話を聞いていくのか?」を整理する必要があります。

闇雲に質問をしても、1つひとつがただの"点"になってしまい、それぞれの話題がどのような繋がりや意味を持っているかを理解していないと効果的なも"面"にはなりません。

そのために抑えるべきポイントの1つ目が「時間軸」です。

スクリーンショット 2020-03-16 13.25.14


人によるのは前提ですが、ヒアリングをしていると「未来のことをいきなり聞かれると答えられない人」が大半です。

「どんなことしたいの?」「どう生きたいの?」......etc.

また、そもそも仕事や人生全体が自分ごと化していない人は、なおさらこの質問に答えにくくなる傾向にあります。

※反対にビジョナリーな経営者やリーダーは普段から未来を自分ごとで考えているので、未来のことを考えられない部下の気持ちが分からずハレーションを起こすことが多々あります。


そのため、まずは未来の土台となる「過去・現在を自分ごと化していくアプローチ」を取ります。

あくまで例ですが、基本的なヒアリングの流れとしては

・「そもそもなぜ自分が今この会社にいるのか?」
・「なぜ今の仕事をしているのか?」
・どのようなことに喜び/やりがいを感じるのか?
・どのようなことに悲しみや苦しみを感じるのか?

この辺りの問いを質問の中心におき、そこから幼少期にかけて過去を深掘りし、1本の線にしていく作業を行います。

※もし相手の方がまだ新卒で、仕事面の話が深くヒアリングができない場合は「趣味」や「生活」といった身近なトピックから、その人の価値観を可視化していくのがオススメです(下図参照)

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この「質問のプロセス」をしっかり取ると、

・自分のこれまでやってきたことが1本の線に整理される
→「こうした過去を経た自分だからこそ、今の自分ができている」という"自分の意味性"を見出し、自己肯定感/効力感が向上する(=自信がつく)

・自分に意味性を見出すことで、「なぜこの仕事をしているか?この組織に所属しているか?」といった行動1つひとつに答えが見え、結果的に「どんな時に自分が自走できるか?」の火種を見つけられる

こうした効果が得られます。

言葉にするとスピリチュアル感が出ますが、これは組織開発論で語られる「AI(Appreciative Inquiry)」の構造と同じです。

また、ヤマグチはうつ病治療のカウンセリングを経験したこともあるのですが精神治療のプロセスにも合致する構造なので、実は非常に科学的。

(社会学でいえば「社会構成主義」の考え方に立脚していますね)


話を戻すと、ヒアリングされる側が過去に納得度を持って現在の視点に戻ってくることで、あらゆる行動の意味性に手触り感を持つことができるようになります。

その後、先ほどの「未来でどんなことをしたいか?」といった問いを行うと、質問から見えてきた"ブレない軸"がその人の思考を支えるため、いきなり質問された時よりも未来のことが遥かに答えやすくなるのです。


このように「今、自分はどの時間軸で話をしているのか?」を常に意識しながらヒアリングに臨めると、「設問のプロセス」の筋肉を鍛えることができます。

(慣れない内は手元にヒアリングの順序を書いたシートを用意するのもアリです)


とはいえ、「過去から現在を一気通貫させる1本の線(=その人のブレない軸)って、どうやって見つけるの?」という声がここで上がるかと思いますので、それについては次の「設問の種類(問いの切り口・角度)」で説明していきます。


3.設問の種類(問いの切り口・角度)

次に、具体的にどのような質問をしていけば「相手が自分の過去とそれに紐づく価値観を話しやすくなるのか?」を考えていきます。

今回は、実務中での膨大な数のヒアリングメモや音源を振り返って見えてきた「設問の種類」について紹介していきます。


まず、種類は覚えやすいよう全部で10種類に分類しました。

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正直、かなりテクニック寄りな話になるため、このスキルを活用する前の大前提をまず説明しておきます。

注意1:闇雲に質問をしても効果は薄い
→相手の性格や話の内容に応じ、投げかける質問の種類を選ぶ/組み合わせることが不可欠。

注意2:傾聴スキルが前提に無いと、ただ"激詰め"するだけになりかねない
→相手との信頼関係や、声のトーン・会話速度のコントロール等が前提。

注意3:本人が言いたくないことは言わなくて良い
→いわゆる精神的トラウマに立ち入りそうな場合も出てきます。
例えば経営者が自社のMVV策定をする際のように「トラウマを乗り越えてでも話す覚悟」が無いとお互い辛いだけなので、ここの擦り合わせは必ず事前に行いましょう。


そもそも相手を思いやって話を聞くスタンスが無いと、どれだけ問いの立て方や切り口が良かったとしても相手は心を開かず本音を答えてくれないので、意味を成しません。

(「思いやり」のレベル感については、こちらのnoteは多少参考になるかと)


これらを理解した上で手元に下記の設問リストを置いておくと、ヒアリングあるあるな

「相手が答えに詰まった時、どんな質問をすればいいんだ!」

が解決されます

ヒアリング初学者にとってはだいぶ便利なはず。


では、長い前置きもあれなので「設問の種類リスト」をどうぞ!

1.理由:「なぜ〜なんですか?」「何が理由ですか?」
→ヒアリングは基本的にこの質問を続けていく。
抽象的な思考が苦手な人・「なぜ?」と聞くと詰問っぽくなってしまう人には「何が理由ですか?」の問いの方が心理的に答えやすい。
(例)なぜ、そう感じたのですか?

2.きっかけ:「いつから〜なんですか?」
→「なぜ?」と質問して「分からない」と言われた際に有効。
思考回路が時間軸に移るので、「そういえばあの時......」と具体的なシーンを思い出してもらいやすい。
(例)そう感じたのはいつくらいからですか?

3.具体:「その中で具体的にどのような点が好きなんですか?」

→本や音楽など、相手の価値観に影響を与えているポイントを捉えるのに有効。
(例)1番好きな歌詞は何ですか?→具体的にどんなところが好きですか?

4.比較:「〇〇が好きなのに、△△や××が好きじゃないのは何が違いなんですか?」「僕は逆に〇〇なタイプだから〜〜さんとは違う考え方なんですけど、なぜそう思われるのですか?」
→他の似た要素を並べて、それらとの差分を考えてもらう際に有効。
その差分にその人だけの共感ポイントがあるので、そこを炙り出す。
(例)あのバンドが好きなのに、似た系統のあのバンドが好きじゃないのは何の差分からですか?

5.仮定:「もしあなたが〜〜だったら、どんなことをしますか?」
→相手の無意識の制約を取り除くことで、本音ではどんなことを考えているのか?を浮き彫りにする際に有効。
(例)もし自分が社長だったら、どんなことをしますか?

6.類推:「これと似たような経験って他にも過去にありましたか?」
→思考の癖の強度を探るのに有効。同じような経験を何度もしているとそれが癖になり、特定事象に対する捉え方のバイアスが強くなる。
(例)自分は能力が低いと感じた経験って、過去にもありましたか?

7.逆転:「〜とのことですが、逆に〜はどうですか?」
→どの要素に不足感を覚えるのか?を炙り出すのに有効。
その不足点が相手の価値観の深層への入り口になりやすい。
(例)「〜をする時にやりがいを感じると言っていましたが、逆に〜ができないとしたらどういう気持ちになりますか?」


8.原点回帰:「そもそも、どうして〇〇じゃないといけないんでしたっけ?」
→相手の前提を揺さぶることでバイアスを外していく際に有効。無意識な思い込みに絡まっていそうな人に対して投げかけると効果が生まれやすい。
(例)そもそも「みんなが楽しい空気がいい」って本当に良い状態ですか?

9.主客転換:「その時あなたはこう思っていましたが、逆に相手はどう感じていたと思いますか?」
→親との関係性など、無意識で思い込んでしまっているバイアスを炙り出す際に有効。
(例)「父親が怒鳴る=怒り」ではなく、実は「怒鳴る=好き」だったってことはありませんか?

10.確認:「それってつまり、こういうことですか?」
→相手の話を整理しつつ、相手の思っていることとこちらが受け取っていることに差分があるかどうかを炙り出す際に有効。
その差分に相手の気持ちの細かなニュアンスが詰まっているので、そこをさらに深掘りしていく
(例)「ということはつまり〇〇ってことで認識合っていますかね?」


長い、長かった......。

とはいえ、1つひとつはシンプルですね。

10個を一気に覚えることは難しいと思うので、実践の中でそれぞれ試しながら「この場合はこの設問だ!」と設問の瞬発力を鍛えていくことをオススメします。

英会話と同じで、頭でわかっても会話で出てこないので、これはもう練習あるのみです。

先ほどの10個の部分をコピペしたり印刷して、使い倒しましょう。


また、この「設問の種類」を活かしつつ、相手が答えやすいように"質問の抽象度"を調整すると問いに角度がつきます。

相手の思考レベルによっては「質問が抽象的すぎて答えづらい......」ということもよく起こるので、この角度調整を行うとモチベーションの源泉をより解像度高く引き出すことができるようになるのでオススメです。

※"抽象度の調整"の正体は「抽象と具体の往復能力」なので、ロジカルシンキングの領域の話に架かるため本noteでは割愛します。


4.まとめ〜『設問力』は"安心感の土台"で成り立つ〜

今回は、『設問力』の「訊く(Ask)」について書いてみました。

実は、自分のnoteの中でここまでHowに寄った内容は初めてでした。

実践で真似しやすい反面、前提を間違えると「ヒアリングがお遊びで終わるな」とも思うので、最後にもう一度書きます。


改めてですが、

『設問力』=「訊く」+「聴く」

です。


"相手が自走するための火種"を引き出すには、もう半分の「聴く(Listen)」が必要不可欠です。

いくら「問い」がうまくなったところで、相手が本音で話せる"安心感の土台"が無いと全く機能しません。

(この「聴く」の設問力に関しては別途、事例を交えたnoteを書こうと思います)


最近では「心理的安全性」がバズワードになりましたが、「自分はできているだろう」と思い込みやすい概念の筆頭だと、自分は感じています。

相手を思いやる。人の話を深く聞く。

先ほどの「「話を聞いているようで聞けていない人」は、無自覚に人を傷つける。」のnoteにも書いたように、当たり前のコミュニケーションを徹底追究している人は意外といません。

反面、これができるだけで人の意志や可能性は想像以上に引き出せます。


こうした力が『設問力』の根底にあるからこそ、「社員が自走させなくては!」のその前に、

「どうして自走してもらいたいのか?」
「どういう自走をしてもらうのが理想なのか?」
「そもそも相手の話を訊く姿勢や環境って提供できているのか?」

と、改めて経営者やリーダーの方にはこの辺りを再考してもらったのちに、この『設問力』を活用してもらえたらと思います。


ここ最近は、ウィズコロナでお互い直接会えない世界線に移り、今までよりもお互いの感情やモチベーションは残念ながら見えにくくなりました。

メンバー間の見えないところで、仕事へのモチベーションの浮き沈みも発生していることでしょう。

こうした時だからこそ、この『設問力』を通して自分の企業や仕事の意味に手触り感を持ち、目の前のコトに楽しみながら没頭できる人が1人でも増えたら、これ以上嬉しいことはありません。

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