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休養 入浴法その2 水浴

前回、日本人のお風呂好きと入浴の効能について書きましたが、そもそも入浴することは、ヒトにとってどんな意味があるのでしょう?

地球上の全ての生物の源である原始生命は、40億年ほど前に海中で誕生したと言われていますが、その後の約35億年間、あらゆる生き物は海の中だけで過ごしていました。
その間ヒトの祖先となる脊索動物をはじめ、ほぼ全ての動物門がおよそ5億4200万年前から5億3000万年前の間のカンブリア紀に突如として現れ、海中の世界に出揃いました。
つまり全ての門の動物たちは、海中生活仕様として誕生し、そこで適応進化したわけです。

水はあらゆる生き物にとって、最も大切な物質です。
植物も動物も細胞内の約70%が水分でできていて、これは奇しくも地球表面上に占める海洋の割合と同等です。
生命活動のために必要とされる他の様々な物質は、全て水を溶媒として各器官各組織各細胞に供給されます。
更にヒトにおいては、体表面から汗として水分を蒸発させることで体温を調節しており、その仕組みによって他の動物たちに比べ、長時間の運動(二足歩行)を可能にさせています。
そのためヒトのカラダには、頻繁な水分補給が必要とされることになり、体内の水分量が1%不足しただけで喉の渇きを覚え、2%不足すると脱水症状が始まってしまいます。

ヒトが他の陸上動物たちに比べて、大量の水分を必要としていることの理由としては、その進化の初期過程において、水辺で生活をしていた期間があるからだ、という学説があります。
それまで樹上生活をしていた類人猿の一部が、水中生活を併用するようになったことで、イルカやクジラのように体毛を失い、皮下脂肪を備えた流線型に近いスタイルに変化し、空気中に顔を出しながら水中を進むために直立二足歩行をするようになった、というのです。
これは「アクア進化説」と呼ばれ、1972年にイギリスの放送作家エレイン・モーガンが、ベストセラーとなった「女の由来―もう1つの人類進化論」で紹介した事をきっかけに、知られるようになったのですが、サバンナ進化説では説明しきれない、ヒトという種の様々な特徴をスッキリと理解させてくれます。

ヒトの胎児はお腹の中で、10ヶ月間羊水に包まれながら過ごしています。
異常なほどに頭でっかちなため、陸上では非常に困難となる出産も、水中ならば比較的楽に産道を通り抜けることができます。
生まれたばかりの赤ん坊は、水に入ると反射的に息を止め、目を見開いて、生き生きと手足を動かし出します。
ヒトの新生児は生まれながらに大量の皮下脂肪を蓄えているため、水中で浮力が働きますが、これはアシカやセイウチなど海生哺乳類に特有の特徴です。

アクア説の真偽については、証拠となる化石が発見されていないため確定的とは言えませんが、水の中にいる時、ヒトが陸上に比べて数段リラックスしていられることは、誰もが実感できると思います。
顔面が水に触れると、鼻腔副鼻腔を通して三叉神経が刺激され、心拍数が10~25%減少する「徐脈」反応が起こります。
血液の流れを末端から体幹部に集中させ、水圧から臓器を守ろうとするカラダの反応です。
水に接することで、ヨガや瞑想の呼吸法を実践した時と同じように、心拍数が下がると共に副交換神経優位の状態となり、脳がリラックスして心地よい気分になるのです。

水中では浮力効果によって、カラダにかかる重力が陸上の9分の1程度にまで減少します。
陸上で各関節に重くのしかかっていた下向きの力が、水中では解除されるため、関節を動かす筋肉の緊張が解け、楽に動かせる状態になります。
また重力によって足下に溜まっていた血液が、全身に回り出していく効果もあります。
温浴の場合、血流効果は更に高まりますが、湯温の違いによって入浴効果が変わってくるため注意が必要です。
次回は、そのことについて書きたいと思います。

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