マガジンのカバー画像

文化の読書会

12
運営しているクリエイター

記事一覧

関係性が空間をうみだす。F.ブローデル編『地中海世界』摘読(6)「空間」を読む。

関係性が空間をうみだす。F.ブローデル編『地中海世界』摘読(6)「空間」を読む。

文化の読書会、『地中海世界』摘読第5回です。この読書会の経緯については、第1回のnoteをご覧ください。

[摘 読]地中海世界の場は、強靭な都市・村落の網目、つまりネットワークの周りに生まれた。このネットワークが地中海世界に活力を与え、生かしている。

都市においては、社会的関係を空間的次元に置き換えたものとして、境界線の束によって貫かれると同時に、構造化された空間が生まれる。

この都市のなか

もっとみる
歴史をかたちづくる要因としての文明、政治、経済。F.ブローデル編『地中海世界』摘読(5)「歴史」を読む。

歴史をかたちづくる要因としての文明、政治、経済。F.ブローデル編『地中海世界』摘読(5)「歴史」を読む。

文化の読書会、『地中海世界』摘読第5回です。この読書会の経緯については、第1回のnoteをご覧ください。

【摘 読】地中海世界の全体史を捉えるうえで、道しるべとなるのが文明、そして政治と経済である。

(1)文 明地中海世界をめぐっては、3つの文化的共同体が存在する。ローマ、イスラム、そしてギリシャである。

その基底にあるのが文明である。文明とは持続であり、災厄にあっても、灰の中から蘇ってくる

もっとみる
都市の誕生。F.ブローデル編『地中海世界』摘読(4)「ローマ」を読む。

都市の誕生。F.ブローデル編『地中海世界』摘読(4)「ローマ」を読む。

文化の読書会、『地中海世界』摘読第2回です。この読書会の経緯については、第1回のnoteをご覧ください。

【摘 読】歴史は地理的要因を考慮に入れなければならない。ただ、その地理的要因は他の経済的、社会的、文化的諸要因と関連させて初めて決定的な重要性を帯びる。ローマの場合、その立地的条件は稀なほどに恵まれてはいたが、一連の歴史的出来事の結果として、そう見えてくる。

紀元前770年ごろに先立つ数十

もっとみる
交易の夜明け、交易による夜明け。F.ブローデル編『地中海世界』摘読(3)「夜明け」を読む。

交易の夜明け、交易による夜明け。F.ブローデル編『地中海世界』摘読(3)「夜明け」を読む。

文化の読書会、『地中海世界』摘読第2回です。この読書会の経緯については、第1回のnoteをご覧ください。

【摘 読】そもそも、水上輸送にもとづく交易は、古代エジプトや古代メソポタミアにおいて、すでにみられた。しかし、それらは河川を主としていた。

紀元前2000年紀の初頭には、エーゲ海の海洋民族が海を航行できる船を創り出した。ここでは原フェニキア人と原ギリシア人が、海洋交易を担っていた。すでに、

もっとみる
「地中海世界」(フェルナン・ブローデル編)−海−

「地中海世界」(フェルナン・ブローデル編)−海−

今回で2回目の「文化の読書会」。-陸地-に続いて、地中海の-海-について。

地中海は、現代の私たちの感覚だと「湖」くらいの感覚になっているが、古代や中世の時代の人にとっては、とてつもなく広く、まさに「一つの世界」「一つの惑星」だった、というくらいそれが全てだったのだ。

この地中海は、-陸-でも触れられていたように切り立った陸地で囲まれているため、大陸棚のような遠浅の海がないため、海の幸は種類は

もっとみる
「地中海世界」(フェルナン・ブローデル編)−陸地−

「地中海世界」(フェルナン・ブローデル編)−陸地−

もともとは仕事でもお世話になっている安西洋之さんと近畿大学の山縣教授の話から始まったという、1章ずつ本を読んで、その趣旨を1000字以内でまとめていくという読書会に参加の機会をいただいた。なかなか1冊ずつとなるとハードルも高いので、1章ずつというのは続けやすいし、感想の交換は個々の価値観の交換に等しいため、シンプルに楽しい。自分自身、毎週読書会をもう何年も開催しており、本の感想を言い合うことで価値

もっとみる
『地中海世界』フェルナン・ブローデル - 陸地

『地中海世界』フェルナン・ブローデル - 陸地

これから定期的に本の「自分なり」の趣旨を章ごとに1000字で書いていきます。主に欧州の文化に関する本です。

先日、近畿大学で経営学を教える山懸正幸さんと話している時、会話が「あらためて、文芸史や美術史などを勉強したくなってきましたね」との流れになりました。というのも社会科学系の人たちの書くものばかり読んでいると、世界はとてつもなく大きな姿をした存在であることを忘れてしまうのですね。そこをやはり意

もっとみる
『地中海世界』フェルナン・ブローデル - 陸地

『地中海世界』フェルナン・ブローデル - 陸地

先日、FBで安西さんが読書会をすると話していて、それも題材は欧州の文化に関する本フェルナン・ブローデルの『地中海世界』だと知り、合流することにしました。その最初の一章を1000文字制限でお送りします。

~~~~~~~~~~~~~~

「節制」を運命付けられた土地 地中海というと何を思う浮かべるだろうか?アマルフィのアッズーリ色に染まる空、海はブル・カプリ。イタリアには青緑色を語り色に地名が多く

もっとみる
『地中海世界』フェルナン・ブローデル - 海

『地中海世界』フェルナン・ブローデル - 海

地中海の唯一の豊かな漁はまぐろ漁 学生の時、訪れたギリシャで食べたのは、ヤギのチーズとオリープがたくさんのったサラダとムサカだった。海に囲まれているのに、魚が少ないと感じたことを思えている。「水産資源としての地中海は貧しい」とブローデルはいう。それもそのはず、google mapが示す地中海は深く、魚が好むプランクトンなどの餌がない。そのため、限られた種類の、少量の魚しか取れないのだ。

道として

もっとみる
『地中海世界』フェルナン・ブローデルー海

『地中海世界』フェルナン・ブローデルー海

21世紀の感覚で地中海をみると、見えないことがたくさんある。地中海世界の沿岸をおどおどしながら、それも自然の脅威からかろうじて逃れられる季節を選んで船で移動するしかなかった時代の風景を想像してみる。15世紀末、ヴァスコ・ダ・ガマが喜望峰を経由してインドに到達し、コロンブスがアメリカまで航海した事実だけを基準に、あの当時の地中海沿岸の漁民たちの心情を推し量ってはいけない(25世紀の人たちが、1961

もっとみる
道としての海。F.ブローデル編『地中海世界』摘読(2)「海」を読む。

道としての海。F.ブローデル編『地中海世界』摘読(2)「海」を読む。

文化の読書会、『地中海世界』摘読第2回です。この読書会の経緯については、前回のnoteをご覧ください。

今でこそ、北から南まで一時間足らずで飛び越えてしまえる地中海だが、かつて地中海は広大な海であり、それだけで一つの世界、一つの惑星であった。

海というのは、文明にとって重要な存在である。
地中海世界を考えるとき、海は〈交通路〉だという点こそが枢要である。船、海路、整備された港、商業都市、これら

もっとみる
陸地と文化。F. ブローデル編『地中海世界』摘読(1)「陸地」を読む。

陸地と文化。F. ブローデル編『地中海世界』摘読(1)「陸地」を読む。

今まで、だいたい経営学関係のことか、サービスデザイン関係のことか、能のことしかnoteに書いてこなかったんですが、よく議論させてもらっているミラノ在住の安西洋之さん(ベルガンティの『突破するデザイン』←〈意味のイノベーション〉の基本文献の監訳者さんです)とオンラインで話をしているとき、「社会科学系ばかりみてると、頭が鈍りますね」っていう話になって、「じゃあ、文化に関する読書会をやりましょう」という

もっとみる