Yuriko Sawatani (澤谷 由里子)

NUCB Business School Professor, Design for …

Yuriko Sawatani (澤谷 由里子)

NUCB Business School Professor, Design for All CEO & Co-founder, Waseda University MBA Service Design

マガジン

  • 文化の読書会

    • 253本

    読んだ本の趣旨を1章ずつ1000字以内で書いていっています。

  • デザインとイノベーション

  • 夜更けの思索宮

    時には哲学を、古代ギリシャを、あるいは皮肉やのイタリアの彼氏のような、ちょっといつもの場所をはなれて遊ぶ

  • MBAとデザインとオンラインと

    MBAの授業作成のなかでいろいろ考えたことなど徒然に

最近の記事

カントの「判断力批判」をデザインから読み解く

美を感じるのは人間だから カントは、表象(意識の中に現われてくるものやその内容)に対する3つの適意(快の感情)について議論する。その充足感の表現の違いを以下のように示す。 快適なもの → 満足する 心の傾きに関する適意 美しいもの → 意に適う 好みに関する適意 善なるもの → 高く評価し是認する、客観的な価値を認める 尊敬に関する適意  この3種類の中で自由な適意は、美に関する適意、「趣味」であるという。それは、感覚能力の関心も理性の関心も、わたしたちに同意を強制

    • きっと『政治学』を読まないとわからない『アリストテレスの世界観』

       前回はアリストテレスの「二コマコス倫理学」第9巻 愛(フィリア)について続き を読みました。最後の第10巻は幸福論の結論です。幸福に焦点を当て、人間にとって最高の善とは何かというアリストテレスの哲学的探究を深く掘り下げます。幸福に関するアリストテレスの言説は、徳、魂、人間生活における理性的活動の役割に関する彼の見解とニュアンスが深く絡み合っており、『ニコマコス倫理学』第10巻は、幸福の本質とその達成方法に関するアリストテレスの考えを集約しています。 最高善としての幸福 ア

      • 『時』に生きるイタリア・デザイン-3: 「倫理的な観点」から認識されるイタリアデザイン

         第2回で多様なものを統一していくイタリアデザインについてみていきました。それができるのは、多様な考えの中でも一貫している、反インダストリー、反大量生産といったデザイナーの社会を見る皮肉的(irony)な視点です。戦後生まれたラディカルデザインは、そのものがもつ本質を再発見することを目指しました。今回はその後のイタリアデザインの展開についてみていきます。 イタリアのポストモダン宣言 1980年のベネツィア・ビエンナーレには初めて建築部門が加わり、ディレクターのパオロ・ポルゲ

        • 『時』に生きるイタリア・デザイン-2: 「相違の中の統一性」を追求するイタリアデザイン

           前回読んだところで、1923年のミラノビエンナーレから1930年にトリエンナーレとなった後、1968年以降の開催が不定期になります。その後、2016年の第21回トリエンナーレから3年ごとに開かれています。この不定期になった部分が気になって、「4. イタリアのインダストリアル・デザイン、5. イタリアのインテリア・デザイン、6. デザイン空白時代」を読み進めました。 イタリア人にとってのデザインの意味 イタリアの建築家などが使うプロジェクトという言葉は、設計する・企画すると

        カントの「判断力批判」をデザインから読み解く

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          4本

        記事

          『時』に生きるイタリア・デザイン-1: 歴史が紡いだ文化と現在を繋ぎ、とことん遊ぶイタリアデザイン

           今回は佐藤和子氏「『時』に生きるイタリア・デザイン」の読書会初回で、「序、1. 1990年代。モダンクラシックの風、2. 1930年代のイタリア・デザイン、3. 敗戦からデザイン黄金時代へ」まで読みます。イタリアは20世紀を通じて、モダニズム、ファシズム期のデザイン、戦後の復興、1960年代のデザイン革命、ポストモダンデザイン、そして21世紀の現代デザインへと移り変わってきました。英国、北欧、アメリカと比較すると、イタリアのデザインはその時代ごとの文化的、社会的、経済的背景

          『時』に生きるイタリア・デザイン-1: 歴史が紡いだ文化と現在を繋ぎ、とことん遊ぶイタリアデザイン

          Dialogueこそ創造の源、書き言葉はその保管庫

           『ソフィストとは誰か』読書会最終回は、8章「言葉の両儀性ーアルキダマス『ソフィストについて』」、結び「ソフィストとは誰か」を読みます。前章まで読み進める中で、「ソフィストが相対主義者であったこと、そのため既存の概念にとらわれなかったこと、その時代のアントレプレナー的な存在だったのではないか、さらにはデザイン的な要素もあるのか」と、期待が膨らんできました。そして、ゴルギアスの代表的な弁論『ヘレネ頌』を読む中で、そのソフィストたちが残したものの最大の遺産は、哲学なのではないか?

          Dialogueこそ創造の源、書き言葉はその保管庫

          知性か快楽か?品位のある人に必要なもの

           前回はアリストテレスの「二コマコス倫理学」第8巻 愛(フィリア)について を読みました。愛には善に基づく愛、快楽に基づく愛、そして有用性に基づく愛の3つがあるということでした。今回はその続き第9巻 友愛(今回は、元の朴氏の訳本)です。 人間にとって大切なもの、それは知性?「二コマコス倫理学」第7巻 抑制のなさと快楽の本性でソクラテスが、生きていく上で、知に勝るものはないと考えていたことがでてきました。この巻には、アリストテレスも同様に考えていたことがわかります。  「ひ

          知性か快楽か?品位のある人に必要なもの

          どのようにしたら正しく生きられるか?相互の等しさを基本とする愛で答えは出るのか?

           今回はアリストテレスの「二コマコス倫理学」第8巻 愛(フィリア)について を読みます。愛には「善に基づく愛」、「快楽に基づく愛」、そして「有用性に基づく愛」の3つがあると議論を始める巻です。アリストテレスは、快楽に基づく愛は、一層本物の愛に似ている。なぜなら、愛のうちに自由人らしさが多く含まれているから、といいます。彼の考える愛を読み解いていきましょう。 愛は計算づく!等しい交換が基本善に基づく友人は「共に生きる」間柄である、で始まる第5章には以下の様な箇所があります。

          どのようにしたら正しく生きられるか?相互の等しさを基本とする愛で答えは出るのか?

          快楽のための技術はデザインだと、私は思う。アリストテレスは反対するけれど。

           今回はアリストテレスの「二コマコス倫理学」第7巻 抑制のなさと快楽の本性を読みます。「暇つぶし」から進化したBMX(Bicycle Motocross)は、遊び、快楽から生まれた新しい競技で、五輪に採用されました。この章ではアリストテレスは、抑制の中について科学的、客観的、普遍的な議論をしようとしています。が、最終的には、抑制のなさと関連が深そうに思われる快楽を排除することはできませんでした。逆説的な意味で、快楽、遊び、人にとっての有用性(、そのための技術であるデザインの大

          快楽のための技術はデザインだと、私は思う。アリストテレスは反対するけれど。

          ゴルギアスは何と戦っていたのか?それは、その時々の人々の魂

           『ソフィストとは誰か』読書会6回目、今回は6章「弁論の技法ーゴルギアス『パラメデスの弁明』」、7章「哲学のパロティーゴルギアス『ないについて』」を読み進めます。前章まで読み進める中で、「ソフィストが相対主義者であったこと、そのため既存の概念にとらわれなかったこと、その時代のアントレプレナー的な存在だったのではないか、さらにはデザイン的な要素もあるのか」と、期待が膨らんできました。前回は、ゴルギアスの代表的な弁論『ヘレネ頌』を読みました。しかし、実際のところ彼らは弁論を一時の

          ゴルギアスは何と戦っていたのか?それは、その時々の人々の魂

          Livable Proximity: Toward an Economy of Proximity

          Toward an Economy of ProximityThere is no reason to believe that modern industrial society will make a greater contribution to human happiness than the simpler, more humble societies that preceded it. On the other hand, there is also littl

          Livable Proximity: Toward an Economy of Proximity

          GDL-SDLの変容のためには思考・行動・エコシステムまで含むという発想が大事

           最近訳あってNewsPicksに戻ってきた。今日は、「富士通、モデル転換正念場 クラウドに軸、営業6割増益なるか」の記事にコメントした。  GDL-SDLの変容は、思考、行動の変容を伴うが、それを起こす組織のみではなく、その周りのエコシステムの変容まで考える必要がある。salesforceは、GDL視点ではアプリケーションレイヤーであったが、SDLでは、アセットとエコシステムを保持するキープレイヤーだ。変容を自組織のみでなく、周りのシステムまで認識することが大事。  こ

          GDL-SDLの変容のためには思考・行動・エコシステムまで含むという発想が大事

          思慮なしに徳はありえず、思慮が備わると全ての徳が備わる

           今回はアリストテレスの「二コマコス倫理学」第6巻 思考の徳と正しい道理を読みます。この巻を読むと、ソクラテスやプラトンと異なるアリストテレスの温かさが感じられます。機会があったら読むのに、この巻おすすめです。 超過や不足ではなく中庸のための「正しい道理」 アリストテレスは、この間巻で中庸の深掘りをします。まず、魂の徳には、性格の徳と、思考の徳があり、この巻では後者を議論します。魂の理性的な部分は、数学のように他の仕方ではありえない諸原理をもつものと、ありうるもの(唯一の正

          思慮なしに徳はありえず、思慮が備わると全ての徳が備わる

          デザイン思考ブートキャンプ 2023計画中

           今年のブートキャンプの案を練りながら、昨年のMBA生たちのslidoコメントを見ている。結構deepな議論ができたのではないか、なんて思ったり。  今年は冨岡と有松をつないで観察・分析を予定している。冨岡の丸山隊員や有松浅野隊員、クラフト製品の異なる工程を愛するクラフト人の助けを借りて、人間中心、ネイチャー中心の深みにハマりたい。昨年の、この先を行きたいなぁ。 人間中心プロセス 問題について 鳥の目、魚の目、虫の目で見ることが必要そう。 「見つける」ときはマクロ視点、

          デザイン思考ブートキャンプ 2023計画中

          クールな相対主義者ゴルギアスの弁論は、役には立たない遊び

           『ソフィストとは誰か』読書会5回目、今回は4章「ソフィスト術の父ゴルギアス」、5章「力としての言論ーゴルギアス『ヘレネ頌』」を読み進めます。前章まで読み進める中で、「ソフィストが相対主義者であったこと、そのため既存の概念にとらわれなかったこと、その時代のアントレプレナー的な存在だったのではないか、さらにはデザイン的な要素もあるのか」と、期待していましたが、裏切られました。以下では、この2つの章で何か起こっているのか、説明しましょう。 ゴルギアスの生涯 ゴルギアスは、シチリ

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          デザインとエフェクチュエーションの補完的関係

          1 はじめに近年、デザインと起業家精神の間の相互作用が、学術界と実務界の両方で注目を集めている。これら二つの領域は、創造性、革新性、そして問題解決という共通の要素を共有している。しかし、その補完性と相互作用は、まだ十分に探求されていない。この論文は、デザインと起業家精神の間の関連性を明らかにし、それらがどのように相互に補完し合うかを理解することを目指している。 起業家精神の研究は、新規事業創出やイノベーションを促進する行動や思考プロセスに焦点を当てている。特に、エフェクチ

          デザインとエフェクチュエーションの補完的関係