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デザインとイノベーション

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カントの「判断力批判」をデザインから読み解く

美を感じるのは人間だから カントは、表象(意識の中に現われてくるものやその内容)に対する3つの適意(快の感情)について議論する。その充足感の表現の違いを以下のように示す。 快適なもの → 満足する 心の傾きに関する適意 美しいもの → 意に適う 好みに関する適意 善なるもの → 高く評価し是認する、客観的な価値を認める 尊敬に関する適意  この3種類の中で自由な適意は、美に関する適意、「趣味」であるという。それは、感覚能力の関心も理性の関心も、わたしたちに同意を強制

快楽のための技術はデザインだと、私は思う。アリストテレスは反対するけれど。

 今回はアリストテレスの「二コマコス倫理学」第7巻 抑制のなさと快楽の本性を読みます。「暇つぶし」から進化したBMX(Bicycle Motocross)は、遊び、快楽から生まれた新しい競技で、五輪に採用されました。この章ではアリストテレスは、抑制の中について科学的、客観的、普遍的な議論をしようとしています。が、最終的には、抑制のなさと関連が深そうに思われる快楽を排除することはできませんでした。逆説的な意味で、快楽、遊び、人にとっての有用性(、そのための技術であるデザインの大

デザイン思考家はソフィストなのか?

 今日から「ソフィストとは誰か?」読んでいきます。ソフィストと哲学者、著者はそれらをDNAの螺旋のように、お互い無くして存在し得ない仲であると主張します。しかしながら、現在ソフィストは歴史から消し去られ、哲学者のみが、脚光を浴びる。その状況を、ソフィストの言説に向き合い、かれらが何者か明らかにしていきます。 ソフィストは詭弁家か?それとも時代の挑戦者か 序章と1章を読んだところで、ソフィストが何者かはまだ不明です。ソフィストは、言説手法など技巧に走り、議論の中身への関心は期

人々の幸福は生き方をデザインする事か?その時デザイナーはアントレプレナーになる

 ManziniのLivable Proxity[1]の第3章ケアする都市を読む。この章は、ケアのための新たなサービスシステムのアプローチを議論する。アクターtoアクターの価値共創、サービスとITインフラストラクチャーの関係性も明確になる。 ケアとは何か? ケア活動は、家族、集落などの比較的閉鎖的な集団内で授受されてきた。ここでいうケアとは、「私たちが『世界』を維持し、継続し、修復して、その中で可能な限りよく生きることができるようにするために行うすべてのことを含む活動」[2

『時』に生きるイタリア・デザイン-3: 「倫理的な観点」から認識されるイタリアデザイン

 第2回で多様なものを統一していくイタリアデザインについてみていきました。それができるのは、多様な考えの中でも一貫している、反インダストリー、反大量生産といったデザイナーの社会を見る皮肉的(irony)な視点です。戦後生まれたラディカルデザインは、そのものがもつ本質を再発見することを目指しました。今回はその後のイタリアデザインの展開についてみていきます。 イタリアのポストモダン宣言 1980年のベネツィア・ビエンナーレには初めて建築部門が加わり、ディレクターのパオロ・ポルゲ

Livable Proximity:近接の経済に向けて

近接の経済に向けて 「現代の産業社会が、これに先立つもっと単純で質素であった社会より、人間の幸福の増進により大きな貢献をするだろうと考える理由はどこにもない。他方また、昔もっとしあわせであったとかもっと人間的であったとかよくいわれるようなそういったノスタルジアも、あまり経験的な根拠があるとはいえないのである」(Simon, 1996, p193)というSimonの語りは、Covid-19の最中、本書を書いたManziniと重なる。ここでは、担当した「3章 ケアする都市」を核

GDL-SDLの変容のためには思考・行動・エコシステムまで含むという発想が大事

 最近訳あってNewsPicksに戻ってきた。今日は、「富士通、モデル転換正念場 クラウドに軸、営業6割増益なるか」の記事にコメントした。  GDL-SDLの変容は、思考、行動の変容を伴うが、それを起こす組織のみではなく、その周りのエコシステムの変容まで考える必要がある。salesforceは、GDL視点ではアプリケーションレイヤーであったが、SDLでは、アセットとエコシステムを保持するキープレイヤーだ。変容を自組織のみでなく、周りのシステムまで認識することが大事。  こ

デザインとエフェクチュエーションの補完的関係

1 はじめに近年、デザインと起業家精神の間の相互作用が、学術界と実務界の両方で注目を集めている。これら二つの領域は、創造性、革新性、そして問題解決という共通の要素を共有している。しかし、その補完性と相互作用は、まだ十分に探求されていない。この論文は、デザインと起業家精神の間の関連性を明らかにし、それらがどのように相互に補完し合うかを理解することを目指している。 起業家精神の研究は、新規事業創出やイノベーションを促進する行動や思考プロセスに焦点を当てている。特に、エフェクチ

Livable Proximity: Toward an Economy of Proximity

Toward an Economy of ProximityThere is no reason to believe that modern industrial society will make a greater contribution to human happiness than the simpler, more humble societies that preceded it. On the other hand, there is also littl

『時』に生きるイタリア・デザイン-2: 「相違の中の統一性」を追求するイタリアデザイン

 前回読んだところで、1923年のミラノビエンナーレから1930年にトリエンナーレとなった後、1968年以降の開催が不定期になります。その後、2016年の第21回トリエンナーレから3年ごとに開かれています。この不定期になった部分が気になって、「4. イタリアのインダストリアル・デザイン、5. イタリアのインテリア・デザイン、6. デザイン空白時代」を読み進めました。 イタリア人にとってのデザインの意味 イタリアの建築家などが使うプロジェクトという言葉は、設計する・企画すると

『時』に生きるイタリア・デザイン-1: 歴史が紡いだ文化と現在を繋ぎ、とことん遊ぶイタリアデザイン

 今回は佐藤和子氏「『時』に生きるイタリア・デザイン」の読書会初回で、「序、1. 1990年代。モダンクラシックの風、2. 1930年代のイタリア・デザイン、3. 敗戦からデザイン黄金時代へ」まで読みます。イタリアは20世紀を通じて、モダニズム、ファシズム期のデザイン、戦後の復興、1960年代のデザイン革命、ポストモダンデザイン、そして21世紀の現代デザインへと移り変わってきました。英国、北欧、アメリカと比較すると、イタリアのデザインはその時代ごとの文化的、社会的、経済的背景

デザイン思考ブートキャンプ 2023計画中

 今年のブートキャンプの案を練りながら、昨年のMBA生たちのslidoコメントを見ている。結構deepな議論ができたのではないか、なんて思ったり。  今年は冨岡と有松をつないで観察・分析を予定している。冨岡の丸山隊員や有松浅野隊員、クラフト製品の異なる工程を愛するクラフト人の助けを借りて、人間中心、ネイチャー中心の深みにハマりたい。昨年の、この先を行きたいなぁ。 人間中心プロセス 問題について 鳥の目、魚の目、虫の目で見ることが必要そう。 「見つける」ときはマクロ視点、

複雑性デザイン:近代主義的な意味での「デザイン可能なシステム」ではない

 ManziniのLivable Proxity[1]の第3章ケアする都市、第4章、第5章(書きかけ)を読む。これらの章は、非常に内容に富み、再度読み直したい。 近接性へのアプローチ:多様性,関係的,ハイブリッド Manziniは、物理的な近接性(生きていくことを可能にする機能が存在する近傍)と、関係的な近接性(「近い」と感じる人間的な親近感、相互の共感と信頼の感覚)の2つの近接性の重要性を指摘する。物理的な場はそこに集う人々のコミュニティを創り出す。  物理的および関係

KrippendorffとSimonの距離

 意味論的転回 デザインの新しい基礎理論 クラウス・クリッペンドルフ(The Semantic Tern A New Foundation for Design, Klaus Krippendorff)の第3章『人工物が使用される際に持つ意味』第4章『言語における人工物の意味』(3.6-4.2)および第7章のメモです。 人工物との対話が創造する共同体の文化 これまでの議論で Krippendorffは、人工物を切り離されたものではなく、社会に埋め込まれたシステムとして捉え、