見出し画像

複雑性デザイン:近代主義的な意味での「デザイン可能なシステム」ではない

 ManziniのLivable Proxity[1]の第3章ケアする都市、第4章、第5章(書きかけ)を読む。これらの章は、非常に内容に富み、再度読み直したい。

近接性へのアプローチ:多様性,関係的,ハイブリッド

 Manziniは、物理的な近接性(生きていくことを可能にする機能が存在する近傍)と、関係的な近接性(「近い」と感じる人間的な親近感、相互の共感と信頼の感覚)の2つの近接性の重要性を指摘する。物理的な場はそこに集う人々のコミュニティを創り出す。

 物理的および関係的な近接性がおりなって作られるのがコミュニティだ。コミュニティもノスタルジー的、即ち物理的な近さと関係的な近さが密接に関係している前近代的コミュニティ、20世紀のイデオロギーに基づく排他的メンバーシップと強いアイデンティティの現代的コミュニティから、プロジェクトベースで、排他的でない特定のレベルのコミットメントを必要としない近接性のコミュニティへと変遷しつつある。現代のコミュニティは、機能が集中し、人が移動する「距離のある都市」だ。

 新たに登場する近接性のコミュニティは、ソーシャルイノベーターが自らプロジェクトを起こし実行することで形成される。「ソーシャルイノベーションとは、社会的ニーズを満たし、同時に新しい社会的関係やコラボレーションを生み出す新しいアイデア(製品、サービス、モデル)である」[1]。

近代都市のディストピア性

 この近接性のコミュニテイは、自宅で/自宅からすべてを行うeverything at/from homeという味気のないディストピア性とは根本的に異なる。多様性、機能的特性と関係的特性の相互作用に基づく関係性、および物理的要素がデジタル要素のハイブリッドが近接性を構成する。多様で,関係的で,ハイブリッドな近接によって特徴づけられる都市は、自動的・機械的ではなく、複雑な生態系として捉えることによって出現する。

 近接都市は人々の関係性を支える共有材 (common goods)と考えられる。近接都市を共有財として考えることは、それをすべての市民に属する社会的・物質的資源(人間と非人間の集合体)として認識することだ。反対に、専門性と規模の経済性に基づく効率性、専門化、規模の経済の名の下に、特定の種類の活動やサービスの供給、需要が集中が起きるシナリオが導くのは、社会の砂漠化である。それは、孤独と支配と引き換えにサービスを受ける人々と、共有財も居場所もない消費のための大きな機械からなる都市をもたらす。

機能的目的の充足のための15min cityの変容

 15min cityは当初「近隣単位 neighborhood unit」、義務的な移動をなくすことで、交通量を減らし、生活の時間と公共空間を人々に還元する都市の効率化ために登場した。その結果、大規模な自転車インフラが建設された。しかし、このプロジェクトを行いながら、歩行者にとって移動手段であると思われた道路は、移動するためにのみ使われるだけではなく、そこに住む市民にとって通りはさまざまに利用される公共空間であることに気づいた。

 近接都市を共有財としてとらえるためには、Manziniは二重の視点の転換が必要だという。第一は、近接のサービスを、コミュニティを生み出すことのできる共同サービスとして再考すること、第二は、都市を、互いに結びついた複数の近接の地域生態系からなる都市の生態系とみなすことである。これらによって、共有財の近接都市という考えを具体化する。

 「近接」の概念は、システムの機能的次元と関係的次元を組み合わせ、2つの次元を別々に作動させる。出会いの機能が関係を生み出し、関係がプロジェクトベースとなることで新たな出会いの機会を生み出す近接の次元間の双方向の二重のリンクとなる。都市の質は、構築された環境(ヴィル)生活環境(シテ)の二つの構成要素間の相互作用によって決まる。ヴィルは機能的近接性、物質的な人工物(家、道、広場、技術的なインフラ)の集合であり、シテは関係的近接性、相互作用の迷路、出会い、会話、コミュニティからなる。都市を改善するためには、シテの活動、関係的な近接性、そしてそれを生み出すエネルギーが必要だという。

距離の都市から近接の都市へ

 成功したソーシャルイノベーションをみてみると、それらの共通要素は、ローカライズ(サービスや活動を市民に近づける)、ソーシャライズ(コミュニティの構築を促進)、インクルード(関係者のネットワークを拡大)、ダイバーシティ(当初予期しなかった関係者を含める)、コーディネイト(異なる介入領域を水平につなげる)だ。その中でも、2番目のコミュニティづくりのためのソーシャライジングは、繊細で難しく、しかも最も重要だ。

 ソーシャライズは、デザインできるものではないが、その可能性を高める条件は作り出すことが可能だ。ソーシャライジングのためには、出会いや会話の機会を提供する製品やイベントを配置することが役に立つ。そのきっかけとなった人工物には、語るべき物語があり、関係性を創り出す関係性オブジェクト(relational objects)として機能している。もう一つは、参加者が同じ方向に収束するよう導くことができる豊かな社会的会話だ。しかし、この社会的会話は、コミュニケーション的な人工物によって刺激され、その収束を助けることができる。それらは、プロトタイプや「デザインオリエンテッドシナリオ(社会的な会話を活性化することによって、さまざまなアクターやプロジェクトの収束を促進するコミュニケーション的なアーティファクト)」でも可能になる。

寄り添うデザイン

 NoLo(North of Loreto)は、近傍の都市がどのように市民によって作り出されるかを示してくれる。プロジェクトには、明確に定義された成果を得るためのものと、人々をつなぐことを目的とし、市民の活動のプラットフォームとして機能するものがある。これらのプロジェクトの二重の性質は、コミュニティが何を生み出すかを反映し、意図的に得た成果と、非計画的に得られたものとなる。

 一方、Via Cenniプロジェクトは、ソーシャルハウジングの集合体で、住民の生活の場だ。そこで自由に暮らし、新しい仕組みが作り出され、それがまた通常の生活に組み込まれる。形成された共同生活の共有ビジョンは、独自の共同デザイン活動の結果であり、場所や関係者に特有の、共有かつ実行可能なビジョンにつながった。生活の場の会話と相互作用は、プロジェクトの「集団所有」の感覚を生み出し、全員がグループの一員であることを認識させた。こうして生み出されたビジョンが、一貫性を与えたのだ。

 この2つの事例は、ハイパーローカライズされた近接性のシステムの構築とみなすことが可能だ。「ハイパー・ローカルとは、その基礎となる考え方と実践が、明確に定義された場所と行為者の集団に特有のものであること、同時に、ハイパー・オープンとは、一般的な性質の考え方と感受性に関連して生まれ、発展したローカリゼーションであること、つまり行われていることの環境や社会的価値、自分自身の行為が他の類似した行為と共鳴し、共に都市や社会についての共有の考えを作り出すのに貢献するという認識である」と、Manziniはいう。つまり、空間やサービスを定義・使用・管理・配分・ルールに合意することによって、コミュニティはこれらを共有財に変えている。これは、変革的普通性、つまり時間をかけて再生しながら、社会と環境の価値を失わずに近接のシステムを変革した成熟した社会革新の結果であるといえる(Lewin modelとの関係性)。

事例の共通点:近接の・ためのデザイン、準フラクラル性、複雑性デザインへのアプローチへの示唆

 近接のデザインと、近接のためのデザインには二重の関係がある。新しいアイデアは近接の中で生まれ、内部から作用する ことによって、システムを再編成する(自己構造化(self-infrastructuring))。ゲームのルール考案者は、現在の慣習の周辺や外側に身を置くことになる。一方、下から生まれた自己組織化されたイニシアチブは、永続化するためにソーシャルイノベーションとして、社会的ステークホルダーから承認されルールされるのだ。

 「コミュニティは、複数のプロジェクトを含み、他の類似のコミュニティと結合することによって、より大きなスケールのコミュニティとプロジェクトを生み出す準フラクタルコミュニティである。準フラクタルなのは、プロジェクトの特性が、スケールによって大きく異なるからである。つまり、これらのコミュニティが基盤とするプロジェクトは、単一の合理性に基づくものではなく、単一の司令塔において行われるものでもない」と。Manziniは指摘する。それらは完全に独立しているわけでもないが、いくつかの共有されたアイデアは誘引剤として働き、サポートを提供する社会的インフラがあり、それを特徴づけるアフォーダンスによって、収束が促進される(SimonのNear-Decomposabilityとの関係性)。

 最後に、複雑性下でデザインするためには、「プロジェクトベースの能力を養い、反射的かつ対話的な方法でそれらを開発することが必要」だと、Ma nziniはいう。「私たちは、自分の貢献は決して決定的なものではないが、重要なものになりうること、私たちが行うことは常に、網と社会的アクターの迷路に関わる共同生成であること、私たちはアイデアを持ち、それを提案しなければならないが、同時に耳を傾け、ときには考えを変えることも必要であることを知らなければなりません。最後に、私たちの行動は、他者と協力することができる限りにおいて、決定的なものになりうるということを知らなければならない。」と。

「住みやすい近接都市」とデジタルプラットフォーム

 デジタルプラットフォームとは、1. 第三者によるアプリケーションの設計と使用を支援するインフラストラクチャ、2. 人や物を乗せる「高い床」としての建築物、3. フランス語のplate-formeの語源に直接つながる、新しい行動、機会、買収を構築するための基盤という比喩的な意味、4. 候補者が自分の立場を提示する舞台から再びヒントを得た政治的な意味、と多様だ。ある意味プラットフォームは、21世紀の社会組織の新しい形である。イバナは、「オブジェクトとしてのプラットフォームよりも、プラットフォーム化、すなわちプラットフォームのインフラ、経済プロセス、規制の枠組みが様々な経済分野や生活圏に浸透していることを研究することが興味深い。」という。

近接のプラットフォームとガバナンス

 近接関係の強化を意図的に指向するプラットフォーム(Nextdoor4など)よりも、限られた地域(近所や町)に特化したFacebookグループの活用で成功しており、事例として、2013年9月にボローニャのフォンダッツァ通りで始まったfacebook ベースのソーシャルストリートがあげられる。通常は、物理的な出会いから隣人との関係性が深まるが、ソーシャルストリートはデジタルの「オンライフonlife」からフィジカルのコミュニティ形成を可能にする。

 デジタルのソーシャルストリート、フィジカルのWeMiは、方向転換を可能にするプラットフォームの「接続点points of connection」の機能を持ち、多様な活動が交差すすることで、新しい公共材となる。民間が運営を担うのか、行政か、新たな枠組みを模索する活動は新しい自治体主義と生み出した。

デジタルプラットフォームの種類

シェアリングエコノミー(Fairbnb)

共同消費(ボローニャのフォルノ・ブリザ、ComeHome)

物々交換プラットフォーム(Freecycle22 など)、タイムバンク、補完通貨など、財やサービスの準等価交換

プラットフォームへの支援(ボローニャ市が地元の2つの協同組合(DynamoとIdee in Movimento)と共同で推進し、2020年10月から運営されている宅配の協同プラットフォーム「Consegne Ethiche(エシカル・デリバリー)、「エシカル・デリバリー・マニフェスト」のポイントとして、労働者の権利と保護の尊重のほか、「地域サービスに価値を与える」「商人と顧客の関係を生かす」「都市における連帯のプロセスを促進する)

Reference:
1 Manzini, E, Livable Proximity: Ideas for the City that Cares, 2022.
(第2章のバルセロナの近隣地域、第3章のミラノのWeMiプログラム)
イギリスのサークル・オブ・ケア、バルセロナの在宅サービスの地域的再編成、ミラノのカフェや集会所でのWeMiスペース

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?