人々の幸福は生き方をデザインする事か?その時デザイナーはアントレプレナーになる
ManziniのLivable Proxity[1]の第3章ケアする都市を読む。この章は、ケアのための新たなサービスシステムのアプローチを議論する。アクターtoアクターの価値共創、サービスとITインフラストラクチャーの関係性も明確になる。
ケアとは何か?
ケア活動は、家族、集落などの比較的閉鎖的な集団内で授受されてきた。ここでいうケアとは、「私たちが『世界』を維持し、継続し、修復して、その中で可能な限りよく生きることができるようにするために行うすべてのことを含む活動」[2]である。ケアは、複数のアクターの相互依存的活動による共創だ。
ケアの基礎となる社会資本の消滅?
ネオリベラリズムの台頭と経済的最適化アプローチによって、ケアは対価を伴う専門サービスとして産業化し、市民は顧客に変えられてしまった。当初は気遣いによる人間的ケアが、本来のケアを伴わない専門家したサービスのシステムへと変貌した。
Manziniは、「時間をかけて蓄積された社会資本の表現であった過去の「ケアできる街」が、「サービスする街」(正確には「サービス社会」と言うべきだろう)に取って代わられたように見える。」[1] という。さらに、ケアする都市のためには、資本主義的な経済効果としての「サービス」ではなく、ITを基礎にアクター間の物理的活動を支えるハイブリッドプラットフォーム上のサービス社会として、再構築することが必要だ。
ケアする都市の先進事例
ケアする都市の先進事例を見て見ると、それらは、ソーシャルイノベーションからうまれた「コラボレーションサービス」だ。そこではアクター同士は対等で、それぞれ自身のケーパビリティを持つ。そして、彼らは直面する問題の一部であると同時に、解決のためのエネーブラーでもある[3]。事例として、UKのサークルモデル、バロセロナのスーペリユプロジェクトがある。
事例から得る未来のケアする都市へのヒント
「ケアのコミュニティ」を実現するためには、分散型アーキテクチャを採用し、コミュニティを再編成する必要がある。分散型アーキテクチャの構成要素は、ケアを必要とする住民と彼らに専従するソーシャルオペレーター、それらの管理システムである。ただし、ここで問題なのは、「ゆりかごから墓場まで」といった福祉モデルが成り立たなくなってきていることだ。全ての人々に均質なケアサービスを提供する労働力が不足している。そのため、Manziniは、ケアワークの再配分が必要だという。
文化的な変革の第一歩は、時間の捉え方だ。質の伴わない生産性重視の時間と、質が重要となる「ゆっくりとした時間」だ。ケアに必要なのは、効率化だけではなく、後者なのだ。
面白いことに、そのケアする人は、職人の様にその質にこだわる。つまり、心を込めたケアは、彼らの満足感、好きでやっているのだというふうに解釈することも可能だ。しかし、彼らの活動をどのように金銭的価値として見るのか、その社会的役割をどの様に評価するのかは、引き続き考えていかなければならない。
そのためにデザイナーは何をするのか?
サービス社会の達成は、住民の自由に対する視点に考え方に依存する。つまり、飢餓、気候の逆境、不確実性、孤独など「からの自由」か、どこで誰といるか、どんな仕事をどれだけするか、どんな考えで、どんなイメージで自分を世に問うかを選択すること「への自由」である。この視点の変換は、まさにセン[4]が提唱していることだ。
人々の幸福が、生き方をデザインする自由、そして、少なくとも部分的には、彼ら自身が自律的にデザインした人生を生きることのできる能力に基づくとした場合、ケアする都市のデザイナーとして、何ができるのか?それは今までの「問題解決」デザイナーから「アントレプレナーシップ」デザイナーへの根本的な変化を意味する。
以下には、より具体的なケアする都市をデザインする場合の考慮点を列挙する。[5]
ハイブリッド・コミュニティがレジリエンスを高める活動や社会的関係を発展させるための支援として、プラットフォームをどのようにデザインできるか?
多様な人々や場所、そしてそのローカルな世界観を大切にし、サポートするプラットフォームをデザインするにはどうしたらよいか?
デザイナーは、自分たちのコミュニティ、場所、世界観をどのように認識し、それらがハイブリッドコミュニティのためのプラットフォームのデザインにどのように影響を与えることができるのか?
複数の活動やアクターをサポートするために、専門化よりも活動や資源の冗長性を優先するようなプラットフォームをデザインするにはどうしたらよいか?
活動や資源の柔軟性、そしてそれらを複数の活動や場所に再分配することを促進するプラットフォームをどのようにデザインできるか?
ハイブリッドコミュニティのレジリエンスを継続的かつ完全にサポートするために、それ自体がレジリエントなプラットフォームをどのように設計すればよいか?
ハイブリッドなコミュニティに対して、オープン、フェア、透明、民主的なプラットフォームをデザインするにはどうしたらよいか?
ハイブリッドコミュニティを支えるプラットフォームの社会的、環境的、経済的インパクトを、そのレジリエンスとウェルビーイングを考慮しながら、どのように評価することができるか?
ハイブリッドコミュニティをサポートするプラットフォームに直接統合される評価ツールにどのように貢献できるか?
プラットフォームのインパクト評価と採用したモデルの妥当性の検証に、どのようにハイブリッドコミュニティを関与させることができるか?
参照
1 Manzini, E, Livable Proximity: Ideas for the City that Cares, 2022.
2 Berenice Fisher, Joan C. Tronto, “Toward a Feminist Theory of Caring,” in E. Abel, M. Nelson (eds.), Circles of Care, Albany, SUNY Press, 1990, p. 37; Joan C. Tronto, Moral Boundaries. A Political Argument for an Ethic of Care, New York, Routledge, 1993 (Italian trans. Confini morali. Un argomento politico per l’etica del- la cura, Reggio Emilia, Diabasis, 2006).
3 Amartya Sen, Martha Nussbaum (eds.), The Quality of Life, New York, Ox- ford University Press, 1993.
4 Amartya Sen, Martha Nussbaum (eds.), The Quality of Life, New York, Ox- ford University Press, 1993.
5 Manzini, E., & Menichinelli, M. (2021). Platforms for re-localization. Communities and places in the post-pandemic hybrid spaces. Strategic Design Research Journal, 14(1), 351–360. https://doi.org/10.4013/sdrj.2021.141.29
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