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【ユーラシア大陸横断】道中で気付いた、この先の未来について

長らくシルクロードを辿る旅行を続けて、あらゆる民族の文明・文化の歴史を学んできた。私はかつてこれほどまでに鮮明な学習はなかったように思う。

歴史を学ぶ上で、必ず出てくるものがある。それは数字だ。

その数字がとある民族における過去の人口だったとしよう。数字の一つ一つには、それだけの人生が集約されている。そして、それぞれの人生には、歴史の教科書一冊では語りきれないほど多くの出来事があったに違いない。しかし、現代の我々はその数字の背景を気に掛けることは殆どない。儚いがこれが事実だろう。

そしてこの先も、同じように虚しく人生は忘れされる。今生きている私達も、そうなるはずだ。

いく先々の博物館で目にしてきた数字の中で一番多かったのは死者の数だった。

シルクロードは文化・文明の痕跡に溢れている。それは残骸と形容できるほど荒々しく生々しいものだった。そして、それらを前にして私はいつも、「生きる意味とは何なのか」という途方もない疑問と対峙していた。時には人生は言葉で語れるほど単純なものではないと突っぱねたこともあり、どんな人の人生にも感動的な物語があると考えていた。しかし、この先の未来についてじっくり考えたとき、それは必ずしも断言できるものではないことに気付いた。

何百年・何千年と過ぎたら、目の前にいる人は当然全員死んでおり、やがて"その人がどんな人だったのか"を語る人ですらいなくなってしまう。忘れ去られたことすら気付かないくらい遠い未来が必ずやってくる。間違いなく、どんな人にもその時はやってくる。

肉体が死に、いずれ人々に忘れ去られる。そして数字に纏められ、長い歴史の一部となる。

世界各国のバザールを歩き、活気がある人々を眺めながらそんなことを考えていた。

次のテーマに移る。

また、人生は"運命"を土台に揺れ動くことにも気付いた。アウシュビッツ強制収容所の見学を通じてこの考えが確信するものとなった。

旅行の道中で読んでいた、強制収容所の環境を綴った『夜と霧』という書籍で、衝撃的な一文を目にしたので記しておきたい。

「およそ生きることそのものに意味があるとすれば、苦しむことにもまた生きることの一部なら、運命も死ぬことも生きることの一部なのだろう。
苦悩と、そして死があってこそ、人間という存在ははじめて完全なものになるのだ。」

人生に意味があるとすれば、その最中で起きたすべての出来事にも意味があると作者ヴィクトール・E・フランクルは述べている。彼は強制収容所の生存者だ。人類史上最悪の歴史の渦中で、見てきた地獄は並大抵のものではないだろう。そんな最中で、彼はその地獄に意味を見出していた。同書では、「多くの被収容者は生還しなければこの地獄には意味がないと考えていた。そして、運命を変えようと生に執着した人は皆絶えていった。」と綴っている。

同じような話で、イランの昔話「テヘランの死神」というものがある。この物語は運命というものを非常に上手く表現している。そしてなかなか怖い。一読を推奨する。『夜と霧』でもこの話が登場し、収容所での運命について語られている。

では、なぜ筆者が生存できたのか。それは現実を直視していたことにあると同書で述べている。

私の日常が、強制収容所と同じだという暴論を述べているわけではない。しかし、現在をいかに積み重ねていくのかが運命を左右することは共通しているように思う。運命は結果論にしか過ぎず、自分で決定することはできないが、現在を全うすることでその道は開けるはずだろう。

楽しい時だけが人生ではない。苦しい時や辛い時も含めて、そして死ぬことも含めて自分の人生だし、自分が過去に積み重ねてきたことの集大成として今に至り、その先に未来がある。

アウシュビッツ強制収容所に訪れて、生々しい傷跡を見ながらそんなことを考えていた。

時間はまっすぐ進む。それはいつの時代でも、誰にでも平等に進んでいく。人々はそのシンプルな事実に対して、物語を作ろうとザッピングする。それこそ映画を作るように時間軸をコントロールしようと足掻いている。そして「ライフプラン」という名のシナリオに向けて、現在進行形でアクション!している。想定外の出来事に翻弄され、撮影を中止したり、時には未完成のまま放棄する自殺者だっている。

不確かな未来に固執して、今を疎かにしてはいけない。

人生は小さく、儚い。だからこそ、今を生きることに集中すれば良い。そしていつか後ろを振り向いた時に、自分はこんな所まで来てたのかと思う日が必ず来るはずだ。

それはこの旅行そのものでもある。先人が「人生とは長い旅のようなものだ。」と表現したが、私はその意味をやっと理解できたように思う。ようやく人生の当事者意識が芽生えた27歳。まだまだ旅路は長い。

ベルリン行きの列車にて。

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