#36 京都大学を中退した医学部生が世界一周してみた
インターネット在りて、この冒険在りーブルネイダルサラーム①
登山を終えて、無事にコタキナバルの市街まで戻ってきたぼくと朋也は、早くも次の計画を実行に移そうとしていた。
その計画は、以前にバンコクで朋也や明日香と交わした、こんな会話に端を発していた。
(旅の第一交差点ータイ⑦)
『やっぱり同じ場所に行っても、人によってとか、時期によってとかで感じ方って全然違うから、もちろん、この観光名所は誰が見てもスゴイとかはあるけど、一概には言えないよね』
『あー、それめっちゃわかるわ。なんかすごい薦められて行った所でも、大したことなかったりとかあるもんな』
『そっか、おれにはまだいまいち分からないけど、じゃあ何でもない場所でもすごい感動する事とかもあるってこと?』
『うん』
インターネット端末と無線LAN回線が、これほどまで発達した世の中であるから、地球上のほとんどの場所で、世界中のことを調べて、情報を得ることが出来る。
直接人に会って得られる情報というのも、もちろん有用なことが多いが、やはりその情報量とアクセスの良さという点では、インターネットの圧勝であった。
南米アマゾン地帯にほど近い、ボリビアの「ルレナバケ」という村に滞在していた際、機器を無線回線に繋ぎ、「Amazon」で電子書籍を購入した時には、思わず苦笑が漏れてしまったほどだ。
そうして、完全に電子武装した状態で挑む旅は、良くも悪くも、ひどく安全であった。
ある国に初めて行く際、その国の治安や経済がどうであるか、ということは非常に重要な情報である。
スリ・詐欺・強盗など、軽い犯罪から重い犯罪までが世界中に跳梁跋扈としているが、それらは事前にそういうものがあると把握していれば、ある程度は防げるというのが通説であった。
そして、そういった情報のほとんどは、インターネット上に存在する、様々な旅の紹介ページや、個人のブログ記事から得ることが出来た。
しかし、このように情報強化された旅を謳歌する人々が多い一方で、それに対して素直に迎合出来ない人たちが、一定数いるのも確かだった。
或いは同じ人の内部でも、情報の有る無し、という点について、2種類の旅を楽しみたい、という人がいるのもまた事実であろう。
ぼくと旅を共にしていた朋也などは、まさにそういうタイプの人間であると言えた。
先の会話にある通り、何の前情報もなく、「薦められたわけでなくとも感動する場所」というのを探しに行くため、人の評判を聞いたことのないような国に行ってみよう、というのがぼくと朋也の思い付いた冒険だった。
そしてその思い付きは、バンコク滞在中、キナバル山について調べている際の、こんな会話により形となって醸成された。
「トモ君!キナバル山ってマレーシアの半島じゃなくて、ボルネオって島にあるらしいよ!知ってた?」
ぼくは、驚いて朋也に話しかけた。
マレーシアの国土は、以前から地図上でそれとなく把握していたが、キナバル山の位置ということはおろか、その東に位置するボルネオ島に、マレーシアの領土があるということは、まるで知らなかった。
「え?どういうこと?キナバル山ってどこにあるの?」
「だから、マレー半島の東側に、ボルネオ島ってのがあって、キナバル山はその島にあるらしいよ」
「うわ、それはちょっと予想外だな。ってことは、クアラルンプールかどっかから、飛行機で行くってことだな」
「うん、そうなるね。このタイミングで気付いて良かったよ」
自分たちがいかに無知であったか、ということや、その意外性からであろうか、キナバル山の位置ということについて、二人はただただ笑い転げるばかりであった。
そしてインターネット上の地図を拡大し、より詳しく吟味している時の事だった。
「おい、ヤマイ、このブルネイなんとかって国知ってるか?というか、これは国で良いんだよな?」
「うーん、なんか聞いたことあるかも。石油が出る所じゃなかったっけ?ごめん、良く知らないや。でも国ってことは確かだと思う」
大学センター試験の勉強していた際に得た、うろ覚えの知識を、脳内僻地から引っ張り出そうとしたが、それは成功とも失敗とも言えなかった。
「つまり、今のところ、ここは謎の国ってことだな」
朋也の目に好奇心の光が宿ったようだった。
「そうなるね。行ったことあるって話も、あんまり人から聞いたことないし」
「よし、ヤマイ!ブルネイ攻めてみようぜ!たまには何も調べず、知らない所に行くのも、ワクワクするだろ」
「確かに、いいね。せっかくボルネオ島まで行くから、ブルネイにも行ってみよう」
続く
第1話はこちら
https://note.mu/yamaikun/n/n8157184c5dc1
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