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仏教系学園ラブコメ小説 「ダーリンはブッダ」 第二十一回 神様の言う通り

神さまの言う通り

「ヒカルさん、あなた剛玉君と何かあったの?」
 翌日、ヒカルは学校には行かずにデブ子のマンションにガリ子といた。三人でコタツに入ってミカンを食べている。ガリ子もミカンを5ミリほどの粒にまで分解し、一粒一粒食べている。ヒカルはミカンを剥きながらぶるぶると首を振った。
「それじゃ、他の男の子と何かあったのかしら?」
 ガリ子の鋭い質問に、ヒカルは苦悶の表情を浮かべた。
「なんでもない……」
「本当に?」
「なんでもなく、ないかも……」
「やっぱり。何があったの?」
「北校の、相原さんに……昨日、キスされた」
ガリ子はヒュウと口笛を吹いた。
「す……すごいじゃない。ヒカルさん、やるわね。だけどヒカルさん、あなた剛玉君のことが好きなんじゃないの?」
「ええっ、そうなの?」
 デブ子が今、初めて気付いたように言った。それよりもガリ子には私が冴馬を好きなことが何故バレたんだろうか……。
「ヒカルちゃんも冴馬君のことが好きだったら……私、身を引こうかな。私、ヒカルちゃんの方が好きだもの。」
 デブ子が泣けるような台詞を言ってくれる。ヒカルは、デブ子のぬいぐるみのような巨体が大好きになっていた。デブ子は透明なくらい、気持ちがきれいなのだ。
 
「相原さんっていう、北校の総長で、三年生なんだけど。私、ずっと彼のことどこか体の弱い人だと思ってたの。いつも咳き込んでるし。だけど、話を聞いてると面白くて、本当はたくましい人なんだって昨日、思ったの。本当はキス、したくなかった。だけど、私、よけれなかった。なんだか、吸い寄せられるように、キスしてた……。」
「……これは、恋ね。」
「ううん、恋とは違う……だけど、キスされたら、キスされたことばかり考えてる。何故だか意味がわからない。意味を考える能力がなくなって来てる。でも、本当は私……冴馬とキスがしたい……。そうじゃないと、何がなんだか、私の気持ちがわからない。」

「冴馬君ね……冴馬君って、キスなんかする柄かしら?」
 冴馬のことを思い浮かべると冴馬のきれいな髪や、意外とたくましい血管の浮き出た腕や、隣にいて何度もドキドキした形のいい肩が自分から遠のいてしまいそうで恐かった。冴馬のあの太陽に照らされた大陸の人のような匂いが、無性に恋しい。
 
「私、冴馬とはずっと、一緒に歩いているだけでいいって思ってた。尼僧みたいにずっと潔癖を保って、嫌われないように一緒にいれたらいいって思ってた……。だけど、たった一瞬のことなのに、相原さんが消えない……。」

 ガリ子は難しい問題を解くような顔をしてキッパリとこう言った。
「消えないのは困ったものね……どう? いっそのこと、両方と付き合えば。」
「そ……そんなのできるわけないでしょう!」
「そうかしら。だとしたら、あなたがどうしたらいいのか、あなたはちゃんと知っているの? ヒカルさんって、昔の少女マンガみたいに無駄なことしそうだから私、今のうちにいい方法を教えるわ。」
「えっ……。」
「誰でも知ってる方法よ。とても簡単だからみんな忘れてしまっている魔法があるの。小さい頃によく言ったでしょう? か・み・さ・ま・の……」
「い、う、と、お、り……?」
 私とデブ子はハモってしまった。ガリ子はにやりと笑った。
「その通りよ。ヒカルさん、神さまの言う通りに行動すれば大体のことは合っているのよ。」

「でも私、うちが宗教で神さまを利用してこじんまりと稼いできたから、神さまなんて、信じられない。」
「バカね。信じる信じないじゃないのよ。その辺にいるのよ! 八百万の神なんて言ったらその辺に八百万よ。思った通りに動けばいいのよ。大体、キスされたぐらいで悩むことないのよ。キスぐらいじゃ子どもだってできないわよ。いい? あなたが、好きだと思ったらキスしていいのよ。それに、好きな人枠がたった1人だとは限らないじゃない。」
「ええっ、1人じゃないの……?」
「別に1人でもいいけど、そんなに悩むんだったら両方とキスしてから悩めばいいのよ。私、痩せたい痩せたいっていつも言うくせに、一向に痩せない人を見るとイライラするの。あなたの痩せたさは口先だけ? って思うのよね。ヒカルさん、あなたは子どもみたいに『好きだけどもう会わない』とか、そんな台詞言わないわよね? 言ったら私、絶交するから。」
「わ……わかった。」


 ガリ子の正直さは、他人に対して正直なんじゃない。自分に対して正直なんだ。そしてそう正直であることを私にも要求してくる。
 ガリ子は、色々な条件を取っ払って、本当の私が何をしたいのかを問うてくる。私は、誰とキスがしたいんだろう……。


 相原さんにキスされた時、びっくりするくらい、相原さんの気持ちが伝わってきて、私は、そう。困ったのだ。こんな風に、私も冴馬のことが好きだから。心臓がつぶれそうなくらい、好きだから……。


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いよいよ次週、最終回! ヒカルと冴馬は一体どうなるのか?

お楽しみに!

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