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直子と母

◇◇ショートショート

直子と母親はよく似ている。顔も仕草も似ているが、何より生き方がそっくりなのだ。

直子は時々うんざりすることがある。母の嫌いなところをそのまま自分が受け継いでいるからだ

それは小さい頃からだった。
親せきの叔母さんや近所の人によく言われていた。
「直ちゃんは、本当にお母さんにそっくりだねー、似ているよー、顔もやる事も、そっくりそのまま」そう言われると直子は「嫌だなー、お母さんに似ているなんて」といつもそう思っていた

昔はそこまで似ているとは思っていなかった。「何となくは似てるかもしれないけど、根本が違うから」と思っていたのだ。

しかし最近は違っていた。鏡を見る度に、「どこかで見たような顔、そうだ若い頃のお母さんだ、眉間のシワまで似ちゃってる」と思うようになった。

食事中に、迷い箸をしている時に「あれ、お母さんと一緒だ、嫌になっちゃう、私も迷い箸してる・・・」そう思うことが増えてきた。

母は30歳になったばかりの時、直子の父親と別れた。直子にとって突然やってきた優しい父親との別れは青天の霹靂だった。しっかりものの母に、寄り添っている父は、とてもいいコンビだと思っていた。

母に従順でやさしい父親は一家の大黒柱というよりは、アシスタントのような存在だったがそれが二人にはベストな関係だと思えたのだ。

しかしそんな父親は、母にとっては頼りない男性だったのだろう。母はパート先で知り合った店長と親しくなって不倫関係を続けていた。

そのことが父に分かってしまい、父が母に問い質した日のことを直子は今でも覚えている

父は母に逆ギレされていた。「あなたが悪いのよ、あなたが私を自由にさせたから、もっと束縛していれば、こんなことにはならなかったのよ」そんな高圧的な母の言葉に、父は何も返せなかった。

直子はその時の父の顔が忘れられない。本当に情けない表情だった。頼りない父ではあったが、直子はそんな父が好きだった。

その日から直子は母とは違った生き方をしなければと思ったのだ。

しかし人生は思うようにはいかない。直子は恋愛でも母と同じようなことをしていた。

直子はついこの間、3年間付き合ってきたボーイフレンドに別れを告げた

「いつになったら私たち結婚するの、私はずっと待ってたのにあなたがちゃんと就職出来ないから、もう終わりにしようよ」

優柔不断な彼は言った。
「直ちゃんが別れる方がいいって言うのなら、そうするしかないかなー」
「あなたはいつもそう、そんなだから私は、あなたを待てないのよ」

直子は思った。
私はお母さんにそっくりだ、本当は別れたくないはずなのに、本当の心を素直に話せない

そんなところまで母と同じだと思いながら、直子はまた食卓のお皿に迷い箸をしていた。



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