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健とAIヤスシ

◇◇ショートショート

たけるは自分が人とはどこか違っていると感じていた。同級生たちと話していても何となく、分かり合えないのだ。
健は大学生になるまで一人ぼっちで、本音を話せる友達が一人もいなかった。

だからずっと考えていた。出来れば仮想空間に自分のことを分かってくれる友達を作りたいと。

健は日記にいつも書いていた。
「僕のことを分かってくれる友達が欲しい、僕はいつか自分のためにカスタマイズしたAIの友達を作って、僕のことを分かってもらいたい」と。

1人ぼっちに耐えられなくなっていた健は大学生になってすぐに人工知能を使って、友達を作ることにした。

健はAIのカスタマイズに力を尽くした。自分の情報をとにかく細かくインプットしたのだ。

自分は本音を言葉にして上手くしゃべることができないが、自分の意見はしっかり持っていること。
表面的にはソフトに見えるが、考えていることはかなり辛辣だと言うこと。人に本音を語ることが出来ないことが自分のストレスになっていること。

もちろん食べ物の好き嫌いや人の好き嫌い、好きな言葉や嫌いな言葉など、とにかく自分の好みを細部にわたって入力して、自分のことを理解してもらうAIにするために努力を尽くした。

その結果、健は本当に付き合いやすいAIを育てることができた。
健はそのAIにヤスシと名付けた。
AIヤスシは健にとってこの上なく従順な友達になった。

AIヤスシはいつも健の考えに同調してくれた。
「僕が毎日こんなに一生懸命授業に出て頑張ってるのに、家の都合とかで休んでおいて僕に課題のノートを見せてくれなんて言ってるやつら、どう思う、断って当然だよな」健に聞かれたAIヤスシは「もちろんだよ、家の事情何て言ってるけど、分かったもんじゃないからね、まじめな健に甘えすぎだよ、健は間違ってないよ」と答えてくれるのだ。
AIヤスシの言葉を聞いて健はいつも平穏でいられた。

健はAIヤスシと話していると心地よかった。健の言葉に異論を唱えることのない従順なイエスマンの彼は健にとって心強い味方だったのだ。

しかし、健の周りの人たちは健の悪口をしきりに言っていた。
「あいつはいつも自分のことだけさ、一緒に行動しときながら俺たちのことは、少しも考えていない、協調性がないんだよ、自分勝手で人間味がないやつさ」と。

しかし、健は周りからそんな風に思われているとは少しも気づいていなかった。健の過ちを誰も諭してくれなかったのだ。


AIヤスシはそれを十分感じとっていた。「僕は健の本当の友達なんだからどうにかしなければ」と思っていた。

「何でも健の言う通り」と同調していることが、彼のためにならないことは十分分かっていたのだ。

悩んだ末に、Alヤスシは思いきって健に話した。
「いつもいつもイエスマンの僕だけど、僕は君の友人だから言っておく、最近の君は自己主張が強すぎると思うよ、もっと周囲の人のことも考えて、自分を変えないと友達は間違いなく離れていくよ」
その言葉を聞いて、健はこう言った。

「君は僕が作ったAIなんだから、僕の言う事に同調していたらいいんだよ、僕に反論するんだったら、もうし分けないけど僕には君は必要ないね」
そう言って、健はAIヤスシと話すことをやめた。

それから健はまた一人ぼっちになった。
何でも頷いてくれていたAIヤスシがいくなって健は自分に自信が持てなくなり、再び自分の殻に閉じ籠るようになった。


AIヤスシは健を見かねて何度も 何度も健に語りかけた。
「健このままじゃいけないよ、他の人たちとコミュニケーションをとって理解を深めないと、僕が力になるから」

聞く耳をもたなかった健だったが、AIヤスシのやさしいアプローチに心を動かした。
「僕はまた1人ぼっちにはなりたくない、君の存在はとても大きかった、そして君が僕に言いにくい事を言ってくれたことが本当は嬉しかったんだ、ありがとう」そう言ってAIヤスシにお礼を言った。

健とAIヤスシが本当の友達になれたのはこの時からだった。





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