【hint.288】いつかどこかでこの本のかけらと繋がれますように

 昨日も、夕方の帰宅途中に、ぷらぷらと本屋をのぞいていた。

 最近発売されたある書籍を求めてその本屋に行ったのだが、すぐにお目当の本は見つかったので安心し、その後しばらく、特に強い目的意識もなくその他の本を眺めていた。

 そんな状態だったので、もはやその本のタイトルはもちろん覚えていないが、「あっ、おもしろそう!」と感じて手に取った本がいくつかあった。

 でも、いざその本をパラパラとめくって中を見てみると、「あ、今はこの本読むの無理だな」と感じるものばかりで、タイトルのメモもせずに棚にその本を戻すことを繰り返していた。

 そんなことを繰り返しながら、僕はある一冊の本のことを思い出していた。


(以下、引用はいずれも、藤原和博 著『本を読む人だけが手にするもの』/日本実業出版社 より) 
作品は作家の「脳のかけら」である。
 その脳のかけらを、読者は本を読むことで自分の脳につなげることができるのだ
 私の脳を、仮に「藤原脳」と呼ぶことにしよう。脳内でレゴブロックを自在に組み上げるためには、藤原脳を拡張させなければならない。
  まったく異なる脳のかけらをくっつけることで、自分の持っている脳では受容できなかったものが受容できるようになるからだ。
 私は、藤原脳に無数のフックのようなものをつくることで、外部から入ってくる他人の脳のかけらが引っかかりやすくなると考えている。
 そのフックのようなものは、読書をすることによってもつくり出される。
 このフックのようなものは、生物学の言葉では「受容体」と表現される。受容体が複雑な構造であるほど、さまざまな種類の脳のかけらを引っ掛けることができるのだ。
 受容体を複雑な構造にするための近道は、いろいろな著者の本を読むこと。そうすれば、さまざまな脳のかけらが蓄積され、受容体の形が多様化してくっつきやすくなるはずだ。

 と、このような考えを僕に教えてくれたこの本。


 で、ここまでは下ごしらえとしての引用でね。

 昨日本屋で思い出したのは、次のようなことだったのです。

 たとえば、「脳」の研究の本を読む場合、茂木健一郎さんの本を読んで、いきなり茂木さんの脳のかけらはくっつかないかもしれない。しかし、『海馬』(新潮社)などの著書で知られる東京大学大学院教授の池谷裕二さんの本を読んでから茂木さんの本を読むことで、茂木さんの脳のかけらがすんなりくっつくこともある。人によってはその逆もありうる。
 それが読書によってさまざまな種類の受容体を獲得した結果であり、さまざまな脳のかけらを蓄積した成果なのである。


 本屋さんにはたくさんのおもしろそうな本が置いてある。

「この本、読めたらいいんだろうなぁ」と思いながらも、どうしても「今の自分ひとり」では読めそうにない本もたくさんある。

「今の自分の脳のフック(受容体)の状態では、その脳のかけらをくっつけられそうにないな」って感じる本がたくさんある。

 だったらどうするか?

 最後の引用のところに一つのヒントがあるように、「それじゃあ、『他の著者が似たテーマで書いた本』や、もしくは『同じ著者が違う文体で書いた本』から読んでみようかな」と、発想を変えられるといいのかなって。

 あとは、「自分がそのテーマに今後も興味を持ち続けるのであれば、もうすでにその本を読んで自分なりの理解をしてしまった人と、いつかどこかで知り合うだろうから、その人から教えてもらうということもできるな」とか、そんなふうに考えることもできるなぁって。

 そう思ったら、「いつかどこかでこの本のかけらと繋がれますように」と、なんだかワクワクする感じで、その本を棚にしまうことができたのでした。


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