MIDEM2019レポート〜欧州MusicTechの現在地
●MIDEMとは?
MIDEM(Marché International du Disque)は、50年以上の歴史を持つ老舗の音楽見本市です。映画祭で有名なフランス・カンヌで毎年行われています。以前は、世界中の音楽業界関係者が集い、著作権や原盤権の国別のライセンスを売買する市場として活況を呈していました。デジタル配信が音楽ビジネスの主流になり、配信事業者がクラウドでグローバルに配信する時代になって、国ごとに原盤や著作権の売買をすることが減ってきたことで、存在感が薄れてきていました。
数年前から、テクノロジーとスタートアップにフォーカスする形での「復活」を試みている様子は伝わってきていましたが、今年、知己の鈴木貴歩氏がアンバサダーに就任したこともあり、ヨーロッパのITサービストレンドを知るために視察しました。
<MIDEM公式サイト>
僕自身は15年くらい前に二回ほど参加経験があるのですが、ずいぶん様変わりしていました。以前は1月下旬の開催で、避暑地の良さはなかったのですが、昨年からカンヌ映画祭の後、6月に時期が変わり、環境的には最高です。そういうことに感動するタイプでは無い僕ですが、白い砂浜、青い海と空の圧倒的な美しさで、歩くだけで高揚感を覚えました。
全体的には良かったです。同じ音楽祭から始まって、テクノロジーとイノベーションの領域で巨大化した、おそらくはMIDEM主催者がベンチマークしているだろうSXSWに比べてば、規模は小さいです。ただ、ヨーロッパの音楽業界人のコミュニティがベースになっているだけに、コミュニケーションは濃密に行われている印象ですし、「音楽の活性化」というテーマが明確です。
場所はカンヌの中心部から近い、海岸沿いにある Palais des Festivalsです。その建物の中と特設のBEACH STAGEが会場でした。
<アンバサダーの鈴木さんとの2ショット> 日本からの業界関係者もたくさんいました。鈴木さんの貢献で、日本から50名以上の登録で、音楽系とIT系で半々くらいとのことでした。
●気になったセッション2つ
「これからの音楽ビジネス10のトレンド 」〜10 trends that will reshape the music Industry〜
「Streaming Summit」という枠の中で、キーノート的に行われたセミナー。現在の音楽市場の状況がまとめられていて面白かったです。
要点をまとめると、
・ストリーミングが牽引する形で音楽産業は売上を伸ばしている。ラジオをeatしている。
・アーティストは成長するサービスを使うことで、レーベルの役割を置き換えられるどころか、むしろそれ以上の機能を受けることができるようになっている
・2022年にはストリーミングの売上だけで2018年のレコード売上に匹敵するという予測で、それだけ音楽産業が成長していく。
・ストリーミング売上は、2019年から成長率は鈍化する見込み。デジタル化率が低い日本とドイツ市場に期待。
・パッケージの衰退とストリーミングの台頭で、マスのシーンを作ることは難しくなり、ファンベースはより細分化されている
・地域別の打ち上げ比率は2018年→2026年で、北米が46%→40% 欧州が29%の変わらず、アジア太平洋18%→21%と変化する見込み
・将来的にはグローバルに、Spotify対Tencentの戦いになっていくだろう。
「サブスク戦争:新たなビジネスチャンス」〜Paid Subscribers War:The New Business Opportunities〜
ストリーミングサービスの伸長に伴う様々な変化と整理するセッションという感じでした。
レコード産業にとってストリーミングサービスの比率が大きくなっている(売上比率37%) ・スマートスピーカーユーザーで音楽サービスへの課金が増えている 映像と音楽を比較すると音楽が36%と映像サービスの売上が約2倍。
などが説明され、地域別の特徴などが分析されていましたが、ストリーミングサービスがグローバルに展開していて、どの国においても大きな影響力を持つようになっていることがよくわかりました。
●MIDEMLABファイナリストスタートアップ20組
MIDEMLABという名前で、音楽系ITスタートアップ(MUSIC TECH)をコンペティションを行っていました。「music cration & education」「music distribution and discovery」「Marketing & Data Analytics」「experimental technologies (IoT、hardwear含)」の4つの領域でそれぞれ5社ずつがファイナリストに選ばれていました。その20社のピッチを全て観ました。感想としては、聞いたことが無いようなイノベーティブなサービスはありませんでしたが、その分、地に足が着いたというか、実践的なサービスが多かったです。音楽業界がテクノロジー領域を取りくこむことで活性化しようとしていて、日本も見習うべきだなと思いました。そんな中で、フランス発のストリーミングサービスDeezerと並んで、日本のレコチョクがメインスポンサーに名を連ねているのは素晴らしいと思いました。CTO稲荷さんは、審査員も務めていました。
<music cration & education>
●Big Ear:子供向けのエディテイメント作曲アプリ
●ENDLESS<特別賞(2位)受賞>:レコーディングアーティスト向けのコラボ制作アプリ。アプリのテストユース2ヶ月でDL数が1100で ユーザーが35分平均使っている
●JAMBL<部門賞>:スマホを楽器にする。誰でも音楽を楽しめる世界にプロ向けのROLIとスマホアプリ特化のsmulの間を狙うhttps://www.jambl.app/
●MUZEEK:AIを使って、必要な楽曲をつくるサービス
●Lonofi:AIを使って、ムードにあったアンビエント・ミュージックを作る
<music distribution and discovery>
●ALISSIA:ハイレゾ音源のみのストリーミング&キュレーションサービス
●Banding:ハンガリー。アーティストが新しいファンや場所を得ることを支援するサービス
●CLAPCHARTS:楽曲のユーザー反応をフィードバックをするサービス
●ClickNClear<部門賞>:スポーツ向けにキュレーションをして音楽のライセンス販売を行う
●Soundtracktor:デンマークBGM系の音楽のマッチングをするAudioStockみたいなサービス、手数料は15%
<Marketing & Data Analytics>
●Legitary<部門賞>:ストリーミングサービスの再生情報を透明化するサービス
●MUSIC LIST:写真に合わせて、ふさわしい音楽を消化するサービス
●MUSIIO:シンガポール。メタデーター提供サービス
●Appertain:アメリカ。ブロックチェーンを使って、音楽使用料を即時に、安い手数料で分配するサービス
●WeDAO:ロシア。ライブ会場とアーティストのマッチング
<experimental technologies>(IoT.ハードウエアなど含む)
●joue:フランス(ギリシャで作られたサービス)、デジタル楽器、スマホに布をおくと、楽器が変わる
●mimu:UK London。手袋のようなデバイスを使って身体表現で音を出す楽器。既に50組の先駆的なアーティストが使っている
●Hola / MuX:デンマーク。ゲームと音楽を融合したVR的な環境を提供するサービス
●adiho:フランス。パーソナルにスマホで音楽を聴けるアプリ
●TUNEFORK<部門賞>:ベネズエラ。人の耳に合わせて音質をカスタマイズするアプリ
●ソング・ライティング・キャンプ
世界中の作曲家、アーティスト、プロデューサーが集まってのソングライティングキャンプの発表会も興味深かったです。作曲家達が司会をやって、10曲を流して、参加者の紹介などしていました。さすがに音楽性が高く、クオリティの高い楽曲ばかりでした。
<Song Writing Camp 詳細>
●アーティストアクセラレータープログラム
11組のアーティストを選んでマーケティング手法やキーパーソン紹介などを行い、当日ライブの場も提供する(BEACH STAGTと名付けめちゃめちゃ雰囲気良いところでした)などをセットにした「アーティストアクセラレータープログラム」もMIDEMらしい取り組みでした。
<Midem Artist Accelerator詳細>
●まとめ
刺激をもらえる場でした。日本にも取り込みたいような施策が数多くありました。何より見習うべきなのは、音楽業界がまとまって、テクノロジーを活用し起業家を支援して、音楽ビジネスを活性化しようとしている姿勢です。ヨーロッパのMUSIC TECHがコンパクトにわかり、ネットワーキングにも適したMIDEMはオススメです。スタートアップスタジオVERSUSとしての関わり方も模索しながら、来年も行こうと思いました。
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