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【読書メモ】 「職場のメンタルヘルス」を強化する 5章 ストレスを職場の活性化につなげるマネジメント方法

第1章 改善されない「経営課題」としてのメンタルヘルス
第2章 メンタルヘルスに対する職場での正しい理解
第3章 コストから投資に変えるメンタルヘルス対策の考え方
第4章 ストレスを前向きに捉える人材の育て方

書籍を読んで理解をまとめていきます。書籍の内容を引用しているわけではないので、一部齟齬があるかもしれませんが、それを踏まえて読んでいただけると助かります。

要約

低成長の時代になり、仕事のための努力と報酬が見合わなくなることがストレスの要因にもなる。金銭的な報酬がそれほど見込めないときに心理的な報酬が必要になる。それがマネジメントの必須要件になる。部下との関わりにには、アサーティブなコミュニケーションが大切である。そして、本人のやりがいや達成感、裁量権を重視することで、ストレスを軽減させながら成長させられ、仕事を減らしたり簡単にするよりも良い結果になる。メンタルヘルス対策としては、部下の変化に気づくことが肝心である。

5−1 部下の能力を引き出すための人材マネジメントの必要性

社員が管理職として成長するにあたって、仕事の管理法は勉強する機会があったかも知れないが、人材のマネジメント技術を学ぶことに時間が割かれていなかった。一昔前までは必要性がなかった、マネージャー研修は必須であるし、メンタルヘルスに関する項目が入ることも少なくない。近年マネジメント能力が重要とされているのは、「経済的低成長時代」「産業構造と人間関係の変化」からである。

経済的低成長がマネジメントを重要にする要因を説明する。これは、努力・報酬不均衡モデルを利用するとわかりやすい。仕事をする上で、結果として得られる報酬が少ないと感じられた場合は、より大きなストレス反応が発生するというモデル。ストレスの高い部分がメンタルヘルス不調と、心身の健康問題につながる。

高度成長期は、勤勉に働いたら結果として見合った金銭的な報酬が得られていた、上司が人材マネジメントできなくても金銭的な報酬でカバーされていた。土曜日も働いていたが、自殺者もうつ病になる人も少なかった。だから、バブル崩壊後の低成長期には、金銭的な報酬とは別の心理的報酬(顧客からの感謝、成長実感、達成感、上司からの評価)を提供する必要がある。上司が心理的な評価を与えられるかどうかで、ストレスからの健康障害を起こすかが決まる。

産業構造と人間関係の変化の観点を紹介する。主要産業が、第一次産業から二次、三次と変化するなかで、過去には通用していた上司の指揮命令に部下は服従するという一方的なコミュニケーションが有用であった。しかし、第三次産業になると、お客さんに接する機会が増えてきて上司を説得してもお客さんの要望を叶えることもあるだろうし、最新技術や情報が必要になることも増えて、上司の方が職務能力が優れているわけでもなくなっている。そんなとき、上司と部下の関係も双方向コミュニケーションが必要となる。このように時代が変化したため、指示どおりにやらせるマネジメントから、部下の考えと能力を引き出すための人材マネジメントが必要になってきた。

過去には、営業部で最も優秀な営業マンが部長に昇格していたが、適任ではないことも多い。なぜなら、優秀な営業マンには、成績が低い人の気持ちが分からないから、努力不足や適正がないと決めて、自分の成功体験から部下へ自分の流儀を押し付けるようになっている。営業マンとしてのプレイヤーと、部長としてのマネージャーでは、必要な能力が全く異なる。優秀なプレイヤーがマネジメントになれないかというと、そうではない。技術だから学べば身につくのである。したがって、マネージャー職についた人は、マネジメントスキルを学ぶ必要がある。マネジメントスキルを学ぶ気がないなら、ナンバーワン営業マンとして過ごせばいい。そのためには、世の中の管理職にならないと出世したことにならない不調を変えないとならないが。

5−2 裁量を与え達成感を味わわせる

マネジメントは、上司と部下の信頼関係の醸成がその基礎になる。それを助けるのが、相手の気持ちを尊重しながら、自分の言いたいことを伝える技法である「アサーティブ」なコミュニケーションである。コミュニケーションスタイルには、攻撃的なもの、受け身なものがあるが、アサーティブはその中間である。アサーティブを使うことでしか、双方が納得し、長期的に良好な関係を構築できない。これは、上司は部下に伝えるだけの存在ではなく、上司と部下は役割が違うだけの労働者に過ぎないという考え方である。

例えば、部下がお客先で失敗したときに、攻撃的に「何で報告しなかったんですか!」と言われてしまうと、部下は意見や言い訳を主張できなくなってしまう。「なにか変わったことがありますか?」と自分の腹立たしい気持ちを隠して接しても、上司の中に釈然とした気持ちが吐き出されないままになって残る。そして、部下に大事なお客様を任せるのはやめようといった感情になるし、部下も報告しなかったことを注意されなかったので今後も同じことを繰り返す。アサーティブなコミュニケーションでは、「お客様から電話で聞きました。トラブルは仕方ないですが、私は君から報告がなかったことが残念でした。次回からはトラブルが発生したら私に報告してもらえると一緒に対応を考えられて助かります。」のように伝える。事実よ自分の感情を伝えて、実行可能な前向きな提案を伝える。部下を傷つけず、自分の要求も伝えるのである。

部下から「プロジェクトの進捗が悪くて続けていく自身がない」と相談されたときを例に、ストレスに前向きに対処できる人材を育てる話をする。選択肢1、部下をその仕事から外して楽にしてやる。選択肢2、上司が資源を投入して支援し、冠水させる。選択肢3、もう一度部下に仕事のやりがいや、成長イメージをもらせ自分なりのプロジェクト完遂までの道筋を整理させm取り組んで見るように促す。選択肢3が、ストレスを前向きに対処できる人材である。選択肢1は、期待に答えられなかった、失敗したという不安やストレスが発生する。選択肢2も、自分に対する無価値感や、迷惑をかけたという感覚になる。しかし、選択肢3は、本人のやりがいや、達成感、裁量にアプローチするので、脳ちょくを最大限に引き出すのに有用。とはいえ、本人のストレスの状況は変わらないのでは?という疑問が残る。

そこで、ストレス反応に関する研究データを紹介する。研究者と事務スタッフへのストレスをチェックしたところ、研究者のほうが優位にストレスが少なかった。この原因は、研究者のほうが裁量権や達成感などを強く感じていた。仕事の質的負荷や量的負荷のストレス反応に与える影響は0.23であるが、達成感や裁量権などはマイナス0.66となり、達成感や裁量権の方が3倍ストレス反応に影響を与えることがわかる。だから、行き詰まっている部下に仕事を減らしてあげたり、簡単にしてあげる仕事の負荷に合うローチするのは最善ではなく、部下の仕事のやり方に対する裁量権を与えていくといった方が3倍効果があるのである。3つ目の選択肢は、時間や労力もかかり、その割に短期的に成果が見えにくい。だが、人は困難を乗り越えて青稜するものだし、人を育てるのは時間のかかることである

5−3 ストレスチェック制度を活用した職場マネジメント

ストレスチェック制度で最も注目すべきは、ストレスの状況を部署ごとに集計分析できる点である。現状がわかれば改善ができる。メンタルヘルスの問題は、一部の脆弱な人の問題ではない。メンタルヘルスの問題を見ることで従業員の不満や組織の問題が見えてくる。
過負荷型のメンタルヘルス不調が多いのであれば、企業側に問題があり、不適応型メンタル不調が増えていたら不平不満や、能力が発揮できない労働者が増加していることの表れなので、経営者にはストレスチェック制度に関心を持ってもらいたい。
厚生労働省は、ストレスチェックをしてストレスの要因を低減するようにと要求しているが、ストレスは低減するのが目的ではなく良好なレベルにコントロールすることが重要である。

ストレスチェックの結果の活用方法は、職場のストレス要因と、労働者の心身のストレス反応をもとに4つの象限に分類して対策を考えるのが良い。
1.疲弊職場型
職場のストレス要因が大きく、心身のストレス反応も大きな職場。仕事の質や量の負担が過重になっていないか、人間関係の悪化、周囲絵の支援が適切化など、要因を明らかにして改善に取り組む。

2.活性職場型
職場のストレス要因が大きいにも関わらず、心身のストレス反応が小さな職場。理想的な職場である。雰囲気の良さ、目標の明確さに加え、個人の仕事に対する強いやりがいや、成長実感がストレス反応を低くとどめている。楽しいがゆえに過重労働傾向になり、健康を損なうことが少なくないので注意する。

3.職場外負担型
職場のストレス要因が小さいにも関わらず、心身のストレス反応が大きな職場。個人的なストレス要因が影響していると考えられる。育児や介護制度が適切になっていなくプライベートの負担が増えているかもしれないので、広い視野で考える。

4.不活性職場型
職場のストレス要因が小さく、心身のストレス反応も小さな職場。適度なストレスがないと労働者のパフォーマンスが低く、生産性の低い職場になっている可能性がある、適切な役割を与えられない、一生懸命働くことをやめてしまい、その結果として成果も出なければストレス反応も出ないようになってないか確認する。

ストレス反応と関係性に着目しながら、職場のストレス要因とストレス反応が適切にコントロールされている活性職場型のマネジメントを参考にすることをおすすめする。

5−4 一度メンタルヘルス不良に陥った人を再活性化する方法

最後に、メンタルヘルス不調が起きてしまった場合の対応法について解説する。何よりいち早い対応が重要である。誰にでも調子の波はあるので、部下の好不調の波を見極めて仕事のアサインをできることが重要である。メンタル面のコンディションがいいなら、成長のため負荷の大きな課題に取り組み、不調であればしっかりリフレッシュ期間を促すことも重要になる。普段から部下のことを注意深く観察していればそんなに難しいわけではない。

日頃早くから職場に来ている人が、始業時間ギリギリに会社に来るとか、勤怠状況の変化、いつもなら1時間で終わる仕事が3、4時間かかっている、ミスが多いなど。多くのことを覚えなくても、部下の様子を見て「いつもと違うな」という感覚を大事にして、おかしいと思ったらアンテナの感度を上げて1週間よく見てみる。それでもやはりいつもと違うなら、部下のためだけに30分時間をとって、片手間ではなく話を聞いてみる。そのときに、「眠れない」などの話があれば、良好のコンディションに戻すために1週間位の有給を勧めてみる。

覚える必要はないが、メンタルヘルス不調の兆候のサインを紹介する。
身体面のサインは、自律神経症状(めまい、吐き気、下痢、便秘、微熱、動悸、頭痛、腹痛、腰痛、生理痛、肩こり、疲れやすさ、だるさ、喉の違和感など)、心身症(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、高血圧、不整脈、円形脱毛症、蕁麻疹、月経困難症、喘息)。
行動面のサインは、出勤状況(遅刻、早退、欠勤の増加)、業務内容(集中力の低下、能率の低下、ミスの増加、孤立)、日常生活(生活時間の不規則、睡眠時間の乱れ、生活態度の乱れ)、逸脱行動(アルコール依存症、異性トラブル、ギャンブル、暴力)

眠れないと、翌朝に頭が冴えず、仕事がはかどらず、ミスが増え、労働時間が増え、帰宅が遅くなり、睡眠時間が減る悪循環になってしまう。そんなとき、1、2日で仕事を整理して1週間休んでもらう。近視眼的なマネジメントしかできないと、部下が1週間も休んでしまったら仕事が回らなくなったり、顧客に迷惑をかけると心配して休みを与えられない。しかし、このような状態で働き続け、会社に来られなくなってしまってからでは1週間どころではなく数ヶ月から数年単位で病気療養が必要になることも珍しくない。そして、部下が引き継ぎ期間を作って1週間休んだら仕事が回らなくなるのであれば、マネージャーに責任がある。ある日突然交通事故で来られなくなったらどうするのか。

どれだけ予防してもメンタルヘルス不調になる人は出てくる。そうなったら事後対応に全力を尽くす。誰にでも起こることなので、メンタルヘルス不調者を「弱い」「使えない」と決めつけないように。一度、メンタルヘルス不調になっても復帰可能だし、その経験が後の仕事人生に生かされている人が多い。
メンタルヘルス不調は繰り返しの多い病気だが、ストレスが原因でメンタルヘルス不調になったのに、回復したらストレスがまたかかるのだから、当然だ。休んだり薬を飲んでも根本的な解決はできない。だから、職場のストレスの原因を改善したり個人がストレスに強くなるなどの再発防止をする必要がある。

復帰時に考えるポイントを7つ挙げる。

1、メンタルヘルス不調に陥る前に、自分にストレスになっていたことの原因を列挙する。
2、ストレスを感じた際の体や心の反応を知る。これは次に不調になるときも初回と同じ反応があるから、サインを知っておく。
3、体や心の反応を感じたときにとった対処法を整理しておく。「同僚に相談した」「ゴルフをした」など。
4、同じようなストレスが掛かったらどのように対処するか。前の項目で十分でなかったために不調になったので、対処の幅を広げるために検討しておく。「上司と家族にも相談する」「社内の産業医に相談に行く」など。
5、自分を助けてくれた(助けてくれる)リソースをまとめておくと、いざというときに役に立つ。
6、自分の考え方の癖や行動パターンを知り自分の課題を知る。そうすることで、失敗したときに、考え方や行動面のアプローチが増える。例えば、「1つの音がうまく行かないと全部うまく行かないと思いこんでしまう考え方の癖がある」があると「一事が万事だと思わない」など。
7,再発予防のために今後注意したいこと、として以上のようなことをまとめ自分の「取扱説明書」を作りマネージャーと本人で共有する

これらを用いて、「メンタルヘルス不調になってしまった人」から、「メンタルヘルス不調をきっかけにストレスに適切に対処できるようになった人」になるのが重要である。

感想

最も驚いたのは紹介されていた研究結果で、達成感や裁量を高めることが、仕事の量を減らしたり、簡単にしたりするよりも3倍も効果があることでした。先生の主張で、ずっと仕事を減らすよりも達成感や裁量ですよって出てきていたのですが、正直3倍となるとこちらを高める方法を模索していくモチベーションになりました。とはいえ、やり方を自由にさせることで速度の低下や、失敗の率も高まることでもあるので、使い所を考えて長期的な育成計画を建てないといけないなぁと強く思いました。
また、メンタルヘルス不調の兆候を全マネージャーに知ってもらうにはかなり絶望的かと思いきや、部下を観察して日ごろと違う事がないか確認し、違いがあれば1週間念入りに確認する。そして、それでも問題がありそうなら話をじっくり聞くといった具体的でわかりやすい手順を紹介してくださっていて、すぐにでも取り入れたいことだと思えました。

非常によい本なので、読んでみたいと思った方はぜひ買ってみてください。私の要約よりも短く簡潔にまとめられた各章のまとめも本に記載されていますので、読みやすいです。


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