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【読書メモ】 「職場のメンタルヘルス」を強化する 第3章 コストから投資に変えるメンタルヘルス対策の考え方

第1章 改善されない「経営課題」としてのメンタルヘルス
第2章 メンタルヘルスに対する職場での正しい理解

書籍を読んで理解をまとめていきます。書籍の内容を引用しているわけではないので、一部齟齬があるかもしれませんが、それを踏まえて読んでいただけると助かります。

要約

メンタルヘルス休職者が増えている企業の業績は悪化している。メンタルヘルスの問題は、休職者の問題だけではなく予備軍にも影響を与えている。休職者が目立って気づきづらいが、更に大きな問題が潜んでいる可能性がある。
ストレスを減らすことは必ずしも有効なメンタルヘルス対策とは言えない。ストレスには、良い面もありパフォーマンスを向上させる効果もあるので、それをコントロールするマネジメントが求められている。日本の労働時間は、他国に比べて大きいものではないため、労働生産性の方が問題である。
ストレスがあってもパフォーマンスの高い職場では、ストレスを前向きに捉える人材の育成と、適切なストレスマネジメントができている。メンタルヘルスの問題は、生き生きと働ける職場にできるのであれば、コストではなく投資となる。メンタルヘルス対策の目標は、パフォーマンスを発揮できる職場環境づくりである。

3−1 メンタルヘルス対策は重要な経営課題

研究結果として、メンタルヘルス休職者が増えている企業の業績は数年後に低下していくことが示唆された。この研究で、メンタルヘルス不調が業績に与える影響を調べたところ、メンタルヘルス休職者比率が上昇すると2年程度のラグがあり、その後利益率にマイナスマイナスの影響を与えることが示唆されている。

メンタルヘルス休職者比率と売上高利益率の3年前からの変化幅との関係

出典:企業における従業員のメンタルヘルスの状況と企業業績-企業パネルデータを用いた検証-

メンタルヘルス休職者は、従業員全体の平均1%未満しかいないが業績に大きな影響を及ぼしている。これは、メンタルヘルス不調者が、働きにくい職場を表す指標になっている可能性がある。メンタルヘルス不調の休職者は、氷山の一角でしかなく、氷山の残りの大部分にも多くの問題がある人が存在する。勤怠上は職場に来ているがモチベーションが低く勤務時間の効率が下がっている人(ネットサーフィンをしたり、おしゃべりしたり)や、当日休や、遅刻を繰り返している人たちである。当日休や遅刻を繰り返すのは、職場に対する士気や責任感が下がっていて、労働者の生産性が下がることも想像できる。

だから、氷山であるメンタルヘルス不調で休職者比率が変化しているということは、氷山の水中にある氷の部分である代理し業と考えられる。だから、メンタルヘルス休職者が増えている職場は、モチベーションや責任感が低下した社員が多くなっていて、業績が下がることにつながっているのだ。だから、メンタルヘルス不調で休職している人にお辞め頂いても状況は変化しない。
メンタルヘルス対策は、法律や指針で義務付けられたからしかたなく取り組むことではなく、企業の成長のための戦略的投資と考えるべきなのだ。働きやすい職場で、従業員がモチベーション高く働けるようになるのであれば、生産性も高まる。

そもそもストレスは悪者なのか。体の問題として考えるとわかりやすい。子供がウイルスに晒されたときに、それが強力すぎるものであれば、重篤な疾患になってしまうが、そうでなければウイルスに曝されたことで子供の免疫が強くなる。逆に、無菌室で育ったら免疫力を確保できない。これを仕事に置き換えても言えるだろう。営業職の人がストレスになるノルマがなかった場合、十分に能力を発揮できるだろうか。ストレスは適切な範囲であれば能力を伸ばし高いパフォーマンスを発揮させる存在である。

ヤーキーズ・ドットソンの法則というストレスが低いうちはストレスが高くなるに従って比例的に効率が上がるが、最適なレベルを超えてストレスがかかると効率は低下するので、ストレスは適切なレベルにコントロールする必要があるという理論。
だから、ストレスは下げればよいというわけではなく、高すぎず低すぎず、その人のパフォーマンスを引き出せるレベルにコントロールする必要がある。

3−2 労働時間を削減してもメンタルヘルスは向上しない

メンタルヘルス対策というと、労働時間の削減や業務密度の軽減の話が出ることが多い。しかし、ここ20年の労働時間の推移を見ると労働時間は減っているにも関わらず、うつ病の患者の数は増加傾向にある。とはいえ、産業医として働きすぎを推奨するわけではない。ライフワークバランスが高い成果につながるし、睡眠時間が少なくなる健康障害の原因にもなるからである。

働きすぎの職場では、経営者や管理職は労働時間を減らすと職場が回らなくなると思われている。しかし、メンタルヘルス不調の退職者が出る方がよほどリスクが高い。このような職場では、労働時間短縮のために、業務量の調整や、労働力の補強が必要なのは当然である。しかし、健康を害するほどの長時間労働がない場合に、労働時間を短縮したり業務量を減らせばメンタルヘルス不調者が減るわけではない。

日本は、先進7カ国の中で労働生産性が20年連続で再開である。産業構造の問題もあるだろうし、日本人の良さは勤勉さだとして長時間労働をすることで、生産性を向上させるといった視点が欠如していたのではないか。しかし、勤勉に過重労働して出世してきた管理職はパフォーマンスの引き出し方がわからない。適切な人材育成やマネジメントがないのに「残業を減らして、アウトプットを減らすな」といわれるとメンタル不調をきたすのも当然ではないだろうか。

ベンチャー企業のスタートアップを産業医として担当するときに不思議な光景がある。マンションの1室の職場で、報酬は生活に最低限の賃金とお金になるかわからないストックオプションで、睡眠時間も食事のための休憩時間も十分に取れていない。それが重要なタイミングだと三日三晩職場に籠もって仕事をする。しかし、面談をするとモチベーションもパフォーマンスも高い一方、メンタルヘルス不調の問題はまったくない。このような会社も順調に成長し、福利厚生も充実し、労務管理も行われ健康的な生活を送れるようになってくるとメンタルヘルス不調者が出始める。パフォーマンスを引き出すためにはストレスは適度にコントロールスべきだと説明したが、ストレスのコントロールは容易ではない。ベンチャーの成長過程を見てもわかるように、ストレスは主観的な存在だからである。

身近な職場の例で考えてみる。帰ろうとしたときに急ぎの仕事を頼まれた。このときその社員がストレスを感じるかどうかは、誰がどのように頼んだかに影響される。尊敬している先輩から「ごめん、〇〇さんしか頼めないんだ」と頼まれるのと、嫌いな上司から「これ、なんとかしといて」と言われるのでは受け止め方が全く異なる。希望した仕事や、成長につながると考えられれば主観的なストレスは小さくなる。結局のところ、主観的に感じるストレスの大きさは、労働時間や残業といった客観的なものではなく、信頼関係や好き嫌いといった主観的な本人の受け止め方で決まる。

同じコップ半分の水でも、もう半分しかないと考えるか、まだ半分もあると考えるか違ってくる。どんな職場では、それを前向きに捉えることができるか。ストレスを前向きに捉えられるかどうかは、職場の忙しさとはほとんど関係がない。ストレスを前向きに捉える人材を意識的に育成していること、現場で一生懸命働く人材に対して適切なストレスマネジメントができていることの2つの要素を持ち合わせている職場である。片方だけでも回っていくが両輪がある方が効果的である。詳しい方法を4章と5章で説明する。

感想

普段から感覚として持っていた要素がことごとく説明されていて納得できたし、説明に説得力がついて助かりました。
「ハードワークは、一時的に業績が上がるが将来まで継続せずに業績が下がってしまう」といった考えが実は研究されていて、2年後にしわ寄せが来ると知れたのはすごく良かったと思います。
また、メンタルヘルス不調には、ハードワークが悪者だと考えていたが働いている人の考え方次第ではハードワークでもメンタル不調を起こさずにみんなでストレスを乗り切っていけるというのも、感覚としてそう思っていたことに例を紹介されて納得感がありました。
最後に、同じ残業でも誰にどんなお願いをされるか、何が得られると思うかでストレスは全然違う主観的なものであると知れたのも面白かった。自分も、そういったパフォーマンスを引き出す投資としてのメンタルヘルス対策を利用したいと思いました。

非常によい本なので、読んでみたいと思った方はぜひ買ってみてください。私の要約よりも短く簡潔にまとめられた各章のまとめも本に記載されていますので、読みやすいです。

企業における従業員のメンタルヘルスの状況と企業業績-企業パネルデータを用いた検証- 書籍で参考にされているこちらの研究も、面白いのでぜひ。

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