【読書メモ】 「職場のメンタルヘルス」を強化する 第2章 メンタルヘルスに対する職場での正しい理解

久々に書籍を読んで理解をまとめていきます。書籍の内容を引用しているわけではないので、一部齟齬があるかもしれませんが、それを踏まえて読んでいただけると助かります。

要約

企業が取るべき望ましいメンタルヘルス対策を知るためには、精神医学の判断基準である「2週間以上の症状の継続」があるが、職場での対応に関しては精神障害に関する詳細な知識は必要ない。職場で判断するのは、職務を遂行するのにどのような影響を及ぼすかの「機能性」と何か問題をになるかの「事例性」である。会社は、労務提供の場であり、治療期間でも休養施設でもないのでムリに配慮する必要はなく、できる範囲で個人を気遣いながら職場全体を配慮すれば良い。

2−1 正常と異常の境界値

月曜日に「明日会社に行きたくない」と思うのは、うつ病の兆候といえるのか。どこまでが正常で、どこまでが病気なのかの境界が曖昧である。そのため、医師による判断を統一するために用意されたDSM(精神障害の診断と統計マニュアル)と、ICD(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)を利用するのが一般的だ。
DSM-5(第5版)の例を用いると、「2週間以上の症状の継続」という持続要件と「職業的機能の障害を引き起こしている」という機能障害要件がある。

以下に、DSM-5を簡略化した著者の記載している診断基準を引用します。

1〜9までの症状のうちで1もしくは2のいずれかを含む最低五個以上の症状が2周か二条継続し(A)、そのことが職業的機能障害を引き起こしていること(B)。そして外的原因や他の精神病にはがいとうしないもの(C,D,E)をうつ病と呼んでいる。
A:以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同一の2週間に存在し、病前の昨日からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは、1.抑うつ気分または2.興味または喜びの消失である
1. ほとんど1日中の、ほとんど毎日の抑うつ気分
2. ほとんど1日中の、ほとんど毎日の活動における興味、喜びの著しい減退
3. 著しい体重減少mもしくは体重増加(たとえば、1ヶ月に5%以上の体重変化)、またはほとんど毎日の食欲の減退もしくは増加
4. ほとんど毎日の毎日のふみんまたは睡眠過多
5. ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止
6. ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退
7. ほとんど毎日の無価値感、または過剰あるいは不適切な罪責感
8. ほとんど毎日の思考力や集中力の減退、または決断困難
9. 師についての反復試行、特別な企画はない反復的な自殺念慮、自殺企画、または自殺するためのはっきりとした計画
B: 症状は臨床的に著しいまたは社会的・職業的・他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
C: エピソードが、物質や他の医学的状態による精神的な影響が原因ではない
D: 大うつ病性障害の出現が、他の精神病障害でよりせつめいされるものではない。
E: 躁病/軽躁病エピソードが存在したことがない。
月曜に行きたくないと思っても、出社すれば普通に仕事ができるのであればm決してうつ病ではない。2、3日でもとに戻るような場合は「うつ状態」であり、人間としての正常な反応であると考えられる。
そして、診断基準から理解しておくことは、その人の性格や伝統的な診断では加味されていた要素が考慮されず、診察室で観察可能もしくは本人から語られた症状のみから診断が行われている。だから、「几帳面な性格ではなかったのに、どうしてうつ病に?」と考える人も多いが、近年主流の診断方法では上記のような症状の継続と、仕事に支障が出る場合であればうつ病と診断されることを知っておく必要がある。

2−2 労働災害事案と私傷病事案の選別

仕事は性質上、ストレスを包含していることが通常なので、標準的な仕事のストレスがきっかけでメンタルヘルス不調に陥っても労働災害事案には相当せず、私傷病として扱い就業規則での対応をすればよい。職場において通常想定される範囲のストレスを逸脱したストレスにより、メンタルヘルスが不調になった場合に、労働災害事案となる。これは、絶対に避けなければならないストレスである。

ノルマはストレスであるが、一定のノルマが課されることは致し方ない。しかし、客観的に相当な努力があっても達成困難なノルマが課され、達成できない場合には重いペナルティがあると予告されたりすると、問題があったと判断されやすい。
他には、遠方への転勤と業務の変更であれば想定される範囲内のストレスだと判断されやすい。それに加えて達成が難しい仕事で、相当な努力が必要なノルマが課せられると1つ1つの要因は通常業務の範囲とされるかもしれないが、重なることで想定範囲外のストレスとなることもある。この判断は、労働基準監督署が行うものである。

程度が強いものは、単体でも通常範囲外になる。例えば、心理的負荷としては、極度の苦痛を伴ったり、後遺症となるような怪我をした場合、業務で他人を死亡させたり、強姦や本人の意思によらないわいせつ行為など。また、極度の長時間労働も160時間を超えるような量であると程度が強いものとして扱われ、1つでも該当すれば労災認定となる。
程度が中程度であれば、達成困難なノルマが課されたり、転勤をしたりする場合、月100時間程度の残業である。これは複数重なると労災認定される場合がある。

職場が主な原因であるメンタルヘルス不調に陥ったら職場が面倒を見るべきであり、私傷病事案であれば就業規則で可能な範囲の協力をすればよい。周到規則を超える形での協力をしてもよいが、従業員の公平性にも配慮が必要である。1章で紹介した事例であれば、A君の業務は労働災害相当には該当しないので、私傷病として扱えば十分であったと言える。

2−3 職場における事例対応判断の視点は疾病性ではなく機能性・事例性

実は、職場でメンタルヘルス問題に対応するときは、精神障害に関する詳細な知識は必要ない。職場で評価すべきなのは、メンタルヘルス不調が業務にどのような影響を及ぼすかの機能性と、その人が担当している業務でメンタルヘルス不調が問題になるかという事例性の2つの問題である。職場の人で、服薬を続けているかどうか気にする人は多いが、業務上の支障がでていないのであれば問題にすべきではない。通院していようが、服薬していようが業務に問題が出ていないなら問題にすべきではないし、本来の職責が果たせていないのであれば問題にすべきなのである。

パイロットや運転手のように、オフィスワーカーと違い、職務を遂行する能力が回復していても抗うつ剤や睡眠薬を飲んでいることが問題になる場合もある(機能性)。また、事務のような仕事であれば多少のミスが許されることから職場で徐々に回復していけばよいが、医師のようにミスが許されない場合は高いレベルの回復が求められる(事例性)。

では、どのようにメンタルヘルス不調者に配慮すべきなのか。事例であれば、Aくんの療養の手助けと職場の健康度の維持及び向上を両立すること。管理職は、仕事の管理だけではなく、部下の健康管理や職場全体の健康管理も重要である。だから、ある人に対して特別な配慮をするときに、職場全体の健康度がどうか確認する。事例のように、A君を気遣うあまりB君とC君に負担をかけて他の人が離脱するようなことになってはならないし、A君に冷たく切り捨てられると思わせても良くない。A君不在のカバーを最低限にし、職場全体での理解を得るのが良い。

2−4 安全配慮基準の適切な理解

メンタルヘルス不調の社員への対応は、フィジカルの体調不良の同様にして過度な配慮をしないようにする。管理職研修で「安全配慮義務」を教えられるがので、過度に配慮してしまいがちだが、労働者が病気を原因に給与に見合わない仕事しかできない場合、その状態を許容し給与を支払い続ける義務は会社にはない。会社がいかなる犠牲を払っても労働者が求める配慮をしろという意味ではない。

例えば、Aくんの主治医が1日4時間の勤務を求めていても、会社として8時間を求めているのであれば、8時間働けるようになってから復帰してほしいと伝えるべきである。もちろん、会社側の規定に4時間から復帰するように決めていたならば、受け入れてもよい。会社は組織であり、組織の規則があるので、その規則の中で配慮をすれば良いのである。安全配慮義務は、メンタルヘルス不調者を発生させない義務ではなく、発生させないように注意させる義務である。1日4時間しか働けない理由が発熱だと、所定時間働けるようになるまで治療してほしいと伝えないだろうか。

会社では、メンタルヘルス不調の社員に対して、過度な配慮をしすぎる傾向にある。しかし、人によってはその配慮が逆にストレスになる場合もある。会社はストレスだらけの場所であり、仕事の量が多すぎても少なすぎても、難しすぎても簡単すぎてもストレスにつながるし、残業が多いことも時間ぴったりに変えることもストレスになる場合もある。結局、人は自分が望む状態でなければ、全てストレスを感じる生き物だから、ストレスの少ない仕事が、本人のやりたいことをやりたいペースでやりたい時間だけやることになるが、それは仕事と呼べるのだろうか。

感想

繰り返し書かれているように、職場復帰で会社が考慮するのは「給与の対価として求めている能力を発揮してもらえるのか?」である。職業柄、薬を飲まないなどの条件が満たされなかったり、能力が発揮されないのであれば完全に回復するまで治療をしてもらうことというのがわかる。
さらに、仕事は難しすぎても簡単すぎても、多すぎても少なすぎても、ストレスになるというのは体感としても合っているように感じた。ストレスチェックを受けると、よくそういった質問があって、「仕事の量」「仕事の質」といった項目にまとめられているが、この本を読んだ後は非常に納得感がある。個人事業主でも、「気が向いたときに、好きなだけ、好きな仕事を」できるようになるためにはかなりの下準備が必要であるし、それを職場で求められると雇用側が困るだろうなという当然の状況をイメージできた。2章を学んでから1章の事例を見ると、A君がかなりワガママにも見えてしまう。この本の主張としては「希望を何でも聞けばいいわけでない」といった部分はよく理解できた。

非常によい本なので、呼んでみたいと思った方はぜひ買ってみてください。私の要約よりも短く簡潔にまとめられた各章のまとめも本に記載されていますので、読みやすいです。また、詳しいケースワークなども記載されています。


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