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【読書メモ】 「職場のメンタルヘルス」を強化する 第1章 改善されない「経営課題」としてのメンタルヘルス

久々に書籍を読んで理解をまとめていきます。書籍の内容を引用しているわけではないので、一部齟齬があるかもしれませんが、それを踏まえて読んでいただけると助かります。

はじめに

メンタルヘルス不調で職場を休むことになっている人は、減る兆しがない。これまでのメンタルヘルス対策では、労働時間や責任を軽減して、ストレス低減を目指してきた。しかし、企業は営利目的のため、「労働者の心の健康のために企業が配慮しろ」といった競争力を低下させる施策は、経営陣からは受け入れがたい。そして、それは形式的に行われコストとして扱われるため、実効的な成果を上げる事はできない。意味のあるメンタルヘルス対策を勧めていくためには、経営陣が必要だと感じで、費用をかけて推進していく投資としての位置づけが必要である。

労働者のアウトプットは、「時間×能力×コンディション」で決する。コンディションが良好とは、休みや遅刻がないといった最低限の条件ではなく、モチベーション高く、エネルギッシュに業務遂行できるという付加価値を生み出す要素である。さらに、時間と能力とコンディションは、独立していない。仕事に時間をかけすぎると、自己研鑽やコンディション回復の余暇時間を確保できなくなり長期的なアウトプットが低下する。この三者の相乗を最大化することがメンタルヘルス対策の究極の目的であり、経営に資するメンタルヘルスのポイントであると考える、

経済産業省が、2015年から健康経営銘柄の選定を行い、労働者への健康投資を行うことは結果的に業績向上や株価向上につながるという考え方を持ち出した。スポーツの世界でも、千本ノックやうさぎ跳びなどの非科学的なしごきから、科学的に研究された質の高い練習が重視されるようになってきた。さらに、試合でパフォーマンスを出すために心身のコンディションを考慮することが当たり前になってきた。企業においても全く同じことである。欧米では、クリエイティブでパフォーマンスが高い仕事を要求される労働者を中心に、労働時間以上に自身の能力開発やコンディションづくりが重視されている。「何時間会社にいたのか」ではなく、「会社で何を生み出したのか」を重視している。本書では、これまでのメンタルヘルス対策の問題点や誤りを整理して、経営に資するメンタルヘルス対策を紹介する。

 1章 改善されない「経営課題」としてのメンタルヘルス

メンタルヘルスの問題は、増加傾向にある。対策をやっているが効果が出ていない職場が多い。メンタルヘルス不調になった人に対して、ストレスを与えないように配慮しようとする事後配慮型のメンタルヘルス対策では解決しない。


1−1 誤ったメンタルヘルス対策に振り回される職場の苦悩


例として紹介する。メンタルヘルス不調になった人に対して、間違えた対処をすることで周囲の人も疲弊し、他の人のメンタルヘルス不調や、退職につながることもある。A君がメンタルヘルス不調になり、復職するときに主治医からストレスのない職場に配慮してほしいとのことであったため、本来やるはずだった飛び込み営業はストレスが多いため、他のB君、C君に割り振った。B君は、自分が仕事をカバーしているのに定時退社して遊んでいるA君を許せず、退職してしまった。C君は、遅れを出さないように連日遅くまで仕事をしていたため、無理がたたり出社できなくなってしまった。A君は課長からのプレッシャーがあったと再度休職してしまった。職場から3人の新人がいなくなった。これは、「うつ病の人に”頑張れ”と言ってはいけない」という断片的な知識のみでメンタルヘルスの問題に対処したために起きてしまった。


1−2 事後配慮型メンタルヘルス対策の問題点

正しい対処を紹介する。メンタルヘルスの対策は、時間軸で分けて「予防型」と「事後型」、ストレスを低減する「配慮型」とストレスを成長につなげる「成長型」に分類できる。
・予防配慮型:事例が発生する前に、労務管理やアサインを工夫することで予防する
・予防成長型:事例が発生する前に、ストレスを成長の糧にできる人材を育成する
・事後配慮型:発生した事例に対し、勤務時間や業務内容でストレスを軽減する
・事後成長型:発生した事例に対し、振り返りをすることで乗り越えられる人材を育てる

多くの職場では、予防的な取り組みをしていない。とくに事後配慮型は、成果が時間できない。

病気が良くなった結果、再度労務提供を受けるかどうかの判断は、医学的な判断ではなく会社による判断である。病気が治っても、労働契約内容に従って仕事ができないのであれば、復職させる必要がない。

そして、今回の例では、B君とC君に終わりの見えない負担をかけてしまったのが良くなかった。先の目処がついているものには大きな不安は感じないが、終わりのないマラソンのように、いつまで頑張ればいいかわからない事象には強い不安とストレスを感じるのだが、それを考慮していないため発生していた。

A君が復職可能になったら、一ヶ月目は先輩に同行する形にして営業をし、2ヶ月目からは一人で信頼関係のある取引先に訪問し、3ヶ月目には飛び込み営業を再開するなどの計画を建てる必要があった。もし、これで病状が悪くなってしまうのだとすると、そもそもAくんは復職可能な状態になかったと判断すべきである。
うつは再発率が8割を超えると言われるが、病状の性質もあるが十分な再発防止策が講じられていないからである。原因には、様々なものが考えられるが、残業しないと評価されないのではないかと考えていることが原因ならば、本人の考え方を変えて貰う必要がある。また、火曜木曜は定時退社日として余暇を楽しむようにルールを設定して働きすぎを防ぐことも良いかもしれない。

例であれば、復職のタイミングで、課長とAくんは、「なぜ、今回うつ病にいたってしまったのか、それを繰り返さないための対策は何が考えられるのか」を話し合うのが望ましい。

1−3 職場で増え続ける不適応型メンタルヘルス不調

メンタルヘルスの不調は、時代とともに原因や中心的な症状が変遷していて、
「精神病型メンタルヘルス不調」「過負荷型メンタルヘルス不調」「不適応型メンタルヘルス不調」とよんでいる。
1つ目の「精神病型メンタルヘルス不調」は、統合失調症や双極性障害など、過去に閉鎖病棟に入ることを考えられたものである。これは、精神科薬剤の進歩で一般就労可能な患者も多くなっている。
次に「過負荷型メンタルヘルス不調」は、長時間労働を原因とした睡眠不足や心身の疲労からくる精神的な不調である。
最後に「不適応型メンタルヘルス不調」は、職場で通常想定される範囲内のストレスで気分の落ち込みや意欲低下、更には頭痛やめまいなどの症状で、職場に来られなくなってしまうようなものである。「飛び込み営業が怖い」とか、「先輩から叱責され、その場面を思い出すと動悸がする」など、会社員として仕事をしていく以上、当然に起こりうるようなできごとが発症のきっかけである。不適応型メンタルヘルス不調の場合、職場のストレスから離れると、症状が消失し罪悪感や自責感も目立たないため、甘えやわがままなのかはっきりしない病態である。この病態は、適応障害、発達障害、新型うつなどの精神障害を包含する。
過負荷型メンタルヘルス不調の場合は、十分な休養と回復を促進するための薬物療法で治療し、過重労働にならないように配慮すれば、職場復帰が円滑に進むことが多い。

不適応型メンタルヘルス不調の背景は、職場要因と価値観の多様化がある。
職場要因としては、単純労働が機械化され業務が複雑化していること、雇用体系が多様化しコストの高い正社員からは単純労働が減らされていること、携帯電話やノートPCの軽量化でどこにいても簡単に仕事ができるので休むのが難しいこと、郵送の場合に発生したタイムラグがメールによりなくなったこと、などが挙げられる。
そして、価値観の多様化としては、収入を得るための手段としての労働から自己実現や成長の機会と捉えることで、生活のために我慢しなければならないといった考え方が受け入れられないこともある。そして、ゆとり世代として、学生時代にできないことを許容されていたが、社会に出ると苦手なことにも取り組む必要があること。そして少子化により組織に所属するために苦手な人を我慢しないといけないことが減っていることも、要因として挙げられる。

1−4 誤った職場対応がメンタルヘルスに対する理解を阻害する

主治医と職場では、立場が違うので主治医の主張を100%受け入れると職場には不都合になってしまう。主治医は、患者のために全力を尽くすのが義務である。だから、メンタルヘルスに不調をきたしたAくんが来れば「ストレスの少ない仕事に変えてもらうべきだ」という。会社や部署の事情が考慮されず、100%患者のために書いたその診断書は会社には受け入れがたい内容になることもある。療養が必要な旨は主治医に従うべきだが、職場復帰は会社が労務提供を受理するかどうかの判断をするタイミングなので、主治医のみの判断にすべきではない。

主治医の職場復帰の判断は、患者本人や家族の希望が含まれている場合がある。だから、主治医の意見のみにしたがって職場復帰をしなくてもよい。職場に産業医がいるのであれば、産業医に意見を聞くべきである。産業医は、患者の話も職場の話も、両方の話を聞ける立場だからだ。産業医は労使中立であることが求められる。
さらに、Aくんの診断に課長が付添診断書の疑問点について主治医に直接意見を聞いてみることも悪くない。主治医は、患者の同意があれば同行診療に応じてくれる。主治医の「ストレスのない職場」とは、どのようなものなのかを確認することができる。主治医が復職時には元の仕事を認めず、A君も主治医に従いたいというのであれば、Aくんは給料に見合った仕事できないということで、会社の判断が必要になってくる。

事例で紹介したとおり、主治医の診断書と本人の希望を尊重していいなりの対応をすると、職場全体が疲弊してしまう可能性がある。また、そういったケースで巻き込まれた社員は、メンタルヘルス不調者と一緒に働きたくないなど、かえって職場での理解が阻害される。このようなことを防ぐためにも、メンタルヘルス不調者も主治医の意見を聞きつつも、職場ではどうしたいのか考える必要がある。他の病気と同様に捉え、復職が困難な場合はほかのキャリアも検討するなどの選択肢も考えることも検討するとよい。

コラム1 中高年のメンタルヘルス不調の特徴

中高年は、これまでのスピードに違いがあるにせよ、みんな出世をした世代である。そして、出世すればそれなりの報酬と待遇が待っていた。しかし、低成長時代に入り管理職のポストも減り競争が激しくなってしまった。「出世して稼ぐだけが人生じゃない」と割り切れればいいが、動機においていかれたり、降格する自分を許すことができない。子育てや介護があり言及を受け入れられないので、自分の器を超えて昇進しようとムリな仕事をして頑張りすぎてしまう。出世競争を諦めて現実的な生き方を選択できれば、若者のメンタルヘルス不調よりは早く回復が期待できる。


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