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【掌編小説】胎動

目の見えない暗闇の中でも、羊水に浸かったままでも、母の身に危機が迫っていることは直感で分かった。

渋滞による寝不足のためだろう。
居眠り運転の中型トラックがスピードを出したまま横断歩道に近づいてくる気配がした。

父と母はゆっくりと横断歩道を渡ろうとしている。名も無き胎児は、頭を抱えるようにして、ぐっと身体に力を込める。

間に合え。間に合え。

ポコポコ    ぐにゅー    とんとん
ぷくぷく    むにょむにょ

横断歩道の手前で、運転手の胸ポケットに入れてあった携帯電話の着信音が、非通知で突然大音量で鳴った。

運転手はハッとして、慌てて急ブレーキを踏む。


ピンチに気づかず横断歩道を渡った夫婦は、お腹をさすりながら歩いている。夫婦は、お腹の中の子を「べび」と呼んでいた。

おっ、動いてるねえ。元気だねえ。
パパもべびと遊びたいんだって。どうしようか?
ぽこん。
えらいねえ、今度はここキックキックだよ。  

生まれる前に自身の世界を救ったべびは、両親の呑気さになんだか急に疲れてしまって、そのまますやすやと眠りに落ちた。



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