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「なにを勉強したらいいですか?」と聞く人たち
以前、私のキャリア観について書いたことがあります。
よく「経験を貯める」みたいな言い方をしますが、20代のうちの「貯め方」というのは、「食い散らかす」でいいわけです。「あるひとつの目指すべきゴールに見合う経験」を貯めなければと考えてしまうと、「やりたいことがみつからない」「なにからすればいいかわからない」と身動きが取れなくなってしまう。
『無駄な努力なんてない』より
キャリアを築くうえで、経験を貯めることは大切です。だけど、実際によくあるのは、「どんな経験を貯めるべきか?」という頭の中での「べき論」で足が止まってしまい、結局なんの経験も貯めずに時間だけが過ぎてしまう、といった残念な事態。そんな事態を見聞きすることが多かったので、無駄な努力なんてないよ、ということを、精神論ではないかたちで伝えたくて書いた記事でした。
キャリアにおけるこういった残念な事態と似たような構図が、「勉強」にも潜んでいると思っています。それを端的に表しているのが、「なにを勉強したらいいですか?」という質問です。「どんな経験したらいいですか?」と似てますよね。
ビジネス・パーソンにおける「勉強」という言葉は、なかなかに取り扱いが難しいなと感じることが多いです。
「ビジネスパーソンの『勉強』」については、いろいろなところで目にします。でも、「練習」についてとなると、そう多くはありません。
私がイメージする「練習」と「勉強」の違いは、現場での実践につながっているか、もしくは現場での実践のなかで行われているか、という点です。
「練習」は、その後工程である「試合」で勝つために、というところから逆算されたもの。一方で、「勉強」は、その後工程との結びつきが弱い。
「練習」が良くて、「勉強」がダメ、ということではなくて、その行為が「どこに向かっているか」ということ。「どこに向かっているか」を気にせずにやる(やれる)「勉強」が楽しいことは、私も感じます。
(中略)
人材育成担当者は、現場の外に、「練習」の場をつくるのが仕事、と言い換えられるのかもしれません。単発の研修や、数ヶ月に及んで行われるアクション・ラーニングなどなど。それらの取り組みが、向かう先のはっきりしていない「勉強」(こういうのを揶揄した呼び方が「お勉強」)になっていないか、という問いを、自分に投げかけることが大切です。
『ビジネスパーソンはいつ「練習」している?』より
「なにを勉強したらいいですか?」という質問は、悪手だと私は思っています。
なにか特定の分野を紹介することでお茶を濁すこともできますが、この質問を突き詰めて考えると、聞かれた方は「なんでもいいよ」か「知らんがな」に行き着いてしまう気がしてしまいます。
どうして「なんでもいいよ」か「知らんがな」になってしまうかというと、理由は2つあると思っていて、「本当にわからない」のと、「やる気がないように見える」のだと思います。
前者の「本当にわからない」は文字通りそのとおりで、経験者というのは必ずしも、「体系的な学習」のあとに「実務」に進んでいるわけではないからです。
実務の中で溺れないように、必死に手足をバタバタさせているうちに、気づいたら水面から顔が出ていた、というのが、多くのビジネス・パーソンの「経験」ではないでしょうか。だから、体系的な学習を意図している「なにを勉強したらいいですか?」という質問をされても、そういう問いを自分に投げたことがないので、「本当にわからない」のだと思います。
少し脱線すると、「体系的な学習」を抜きにして「実務」に進むのはいいとして、その「実務」のあとに、そこでの経験を「体系的な学習」でもって捉え直していない、素材のままの「経験」のことを、私は〈浅い実践〉と呼んで、避けるべきものとして捉えています。〈浅い実践〉は、経験学習サイクルにおける概念化が抜け落ちていることを指しています。一方、概念化のともなった経験を〈深い実践〉と呼んでいます。「なにを勉強したらいいですか?」と聞く方に問題はあるとして、それと同時に、その質問に対して「本当にわからない」と思考停止してしまう聞かれた方にも問題があると思っています。〈浅い実践〉と〈深い実践〉については、別の機会に書いてみたいと思います。
本題に戻って。
後者の「やる気がないように見える」が、実は根深いです。
「なにを勉強したらいいですか?」と聞かれたときの素直な反応というのは、「本当にわからないから、なんでもいいよ」が脳裏をよぎったあとに、「なんでもいいんだから、つべこべ言わないで、さっさと勉強しなよ」だと思っています。(口に出すかどうかは別ですが)
「なにを勉強したらいいですか?」は、「私はまだ勉強を始めていません」ということを暗喩しています。
本人は「やる気」の表出と思って「なにを勉強したらいいですか?」と聞いているのですが、相手にはその逆の「やる気がない」というメッセージを送ってしまっているという、残念なミス・コミュニケーションの典型だと思っています。
「なにを勉強したらいいですか?」ではなく、「◯◯を勉強しているのですが、そのなかの△△という部分について教えてほしいです」とするのが、お互いにとって望ましいやり取りだと思っています。
キャリアと同じで、他人に問うべきは、「なにから始めるべきか」という〈概念として正解〉ではなく、「まず始めた。そうしたらこうなった」という〈事実としての経験〉なのだと思います。
世界を切り開くのは、情報ではなく、行動です。
『あなたの物語が、あなたの背中を押してくれる』より
人材育成担当者としては、「なにを勉強したらいいですか?」という質問に真正面から丁寧に答えるのではなく、「◯◯を勉強しているのですが、そのなかの△△という部分について教えてほしいです」と話す人を組織の中に増やしたい。そのために、「まず始めた。そうしたらこうなった」という〈事実としての経験〉を持ち寄って、語り合う場を組織の中に作りたいなと思っています。
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