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無駄な努力なんてない

20代の若者たる、母校の大学生/大学院生に向けてお話ししたことをまとめなおす形で、(私の)キャリア観について書いてきました。

前回は、メンテナンス(手入れ)という考え方を紹介することで、キャリアを「デザインする(できる)もの」ではなく、「メンテナンスしながら向き合い続けるもの」として捉えてはどうか、ということを書きました。

「デザインではなくてメンテナンス」と肩の力を抜くようなことを言っておきながら、最後は「いま、ここ、じぶん」でもって考えたり行動するという厳しさが立ち上がってきて、足がすくんでしまった人もいるかもしれません。
次は、最終回として、もういちど肩の力を抜いてキャリア・メンテナンスを考えられるようなお話しをして、締めくくりとしたいと思います。

「いま、ここ、じぶん」ができること』より

今回は、(一応の)最終回として、肩の力を抜いて一歩を踏み出せるような応援歌にしてみようと思います。

「なにをしたらいいですか?」

メンテナンスでもってキャリアに向き合うというのは、「いま、ここ、じぶん」でもって考えたり行動することを意味します。そこには「正解」も「太鼓判」もありません。相談はできるけど、「決めてくれる他者」はいません。全部の自分で向き合うからこそ、自分のキャリアになっていくのだと思います。

「いま、ここ、じぶん」ができること』より

キャリア・メンテナンス的に言うと、「いま、ここ、じぶん」ができることを、まずは始めてみましょうということになるのですが、それでも、やっぱり、「なにをしたらいいですか?」という問いはなかなか、心の中から消えないものです。

私がキャリア相談を受けたときには、ほとんど場合、今まで書いてきた「やりたいこと」と「ありたいすがた」キャリア・メンテナンスの話しをします。話しているときは「なるほど」という顔をしながら聞いてくれているのですが、最後に絞り出すように出てくる言葉が、「だとしたら、まずはなにをしたらいいですか?」だったりするので、背中を押すということの難しさを感じることしきりです。

「なんでもいい」は、本当に「なんでもいい」のか?

そう、本当に「なんでもいい」のだと思います。

実感としてはずっとそう思っていたのですが、その感覚を整理してくれたのが、「キャリアのVSOP」という考え方です。

20代:バラエティ。いろいろやってみるのがいい。
30代:スペシャリティ。専門性で戦う。
40代:オリジナリティ。あの人っぽいよね、と言われるようにする
50代:パーソナリティ。あの人と仕事したい!と思われるようにする

やりたいことがなくて、立ち止まってしまう20代の人向けの記事』より
こういってはなんですが、20代の人なのに、他の世代の戦い方を目指しているケースが多いと思うのですよ。「自分ならではのやりたいことをやる」っていうのは、40代の勝負の仕方だと思っていて、20代でやれる人は稀なのかなと。

20代のうちは、とにかくいろいろ行動して、いろいろ経験するのが「正しい努力」としちゃうのです。20代では、「やりたいことを探して定める」とかに工数をさくのではないわけですね。

やりたいことがなくて、立ち止まってしまう20代の人向けの記事』より
20代のうちは「バラエティ」なんだな、というのを忘れないで行動しておくと、気持ちが楽になるかなーと。

やりたいことがなくて、立ち止まってしまう20代の人向けの記事』より

これくらい間口広く、言い換えると、余裕を持って、20代を過ごせるといいな、と、40代になったいま、心から思います。

「こんな方向転換ばかりでいいのかな」と自信を持てなかった私自身のキャリアも、今から振り返れば「バラエティ」そのものだったのかなと。

話の前提として、私のあっちに行ったりこっちに行ったりのキャリアを紹介しました。博士課程まで進んで人工知能の研究をしたかと思うと、普通の就活をして新卒ではITコンサルタントとしてシステム開発や顧客折衝をして、今はHRとして人材育成に携わっている。これを「華麗なる転身」と見るか、「糸の切れた凧」と見るかは、見る人によると思うけど、少なくとも私自身はまったく予想していなかった来し方になっています。

絵は描けなくても、絵筆は手に取る』より

よく「経験を貯める」みたいな言い方をしますが、20代のうちの「貯め方」というのは、「食い散らかす」でいいわけです。「あるひとつの目指すべきゴールに見合う経験」を貯めなければと考えてしまうと、「やりたいことがみつからない」「なにからすればいいかわからない」と身動きが取れなくなってしまう。身動きが取れなく理由として、引用元でも同じことが言われていますね。(箇条書きの順番を入れ替えています)

2. 努力が無限にできるほど夢中になれるものがあると信じてる
1. 無駄な努力をしたくない

やりたいことがなくて、立ち止まってしまう20代の人向けの記事』より




なお、実際に自分に引き寄せて考えるときには、この引用部分も大切です。

なお、20、30、40という区切りには覚えやすい、以外のロジックはないと思うので、適時調整すればいいと思います。

やりたいことがなくて、立ち止まってしまう20代の人向けの記事』より

20、30、40といった具体的な数字(統計)が出てきてしまうと、それに引っ張られてしまいがいちです。「もう30代になってしまったんですけど、どうしたらいいですか」みたいな問いがその典型です。

実年齢はもちろん無視できない要素ではあるけれども、それより大切なのは、自分はいま「バラエティ」「スペシャリティ」「オリジナリティ」「パーソナリティ」のどのフェーズにいるのかいると、自分は考えているのか。それが、「自分の物語」という意味です。

「統計が◯◯だから、△△できる/できない」という視点をひっくり返して、「自分の物語が◯◯であるなか、統計が△△なので、私は□□をする」といった視点でもってキャリアを見つめることができると良いのでは、ということを学生さんには伝えたいです。

あなたの物語が、あなたの背中を押してくれる』より

いま、あなたはどこにいるのか?

「バラエティ」「スペシャリティ」「オリジナリティ」「パーソナリティ」のうち、どのフェーズにいるのかというのが、1つ目の答え。

もう1つ、VSOPを離れての答えは、

「いままでの自分」の中で、もっとも経験豊富
「これからの自分」の中で、もっとも可能性にあふれている

という、何歳になっても、病めるときも健やかなるときも、いつも成り立つ命題。

キャリアというのは、本人にとっては一度きりのことだし、すべてが「最初で最後」の繰り返しなわけです。また、みんな違う、という当たり前の事実に立ち返れば、誰とも交換不可能な、自分だけのものでもあります。だからこそ、「こうしたらいいよ」という、未来や他者からの正解は期待できない

正解が期待できないことを心細く思う気持ちもよくわかる。でもそれは一方で、「すべてが正解たりえる」という可能性にも開かれているわけです。

キャリアをデザインしようとするから正解探しに陥るので、「キャリア・メンテナンス」という向き合い方を紹介してきました。「すべてが正解たりえる」という可能性を、「自分の物語」と呼んできました。

悩みは尽きないけど、避けて通るのではなくて、「ちゃんと悩む」ことが大切。「自分がした苦労を次の人にはさせない」というのは大切な考え方だけど、ことキャリアについて言えば、自分で思い悩む以外には、前に進む術(すべ)はないと思う。「自分の苦労は、自分でする」とでも言おうか。

私もキャリア相談を受けたときには、悩みを解決しようとは考えていません。悩み方という武器を渡す。それによって、悩みの中を進むための勇気を持ち帰ってもらうところまでが、他人である私がやれること/やるべきことだと思っています。

車輪をたくさん再発明できた人は、時間はかかるかもしれないけど、他の誰でもない自分自身の轍(わだち)を残しながら遠くに行けるはずです。進むスピードを2倍にするのではなく、同じ時間のなかで2倍深く考える。2倍深く考えるためのヒントを紹介してきたつもりです。一連の記事を書くきっかけをくれた母校の大学生/大学院生のみなさんをはじめとして、読んでくれた人たちの勇気の一端になればと思います。

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