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やさしさの影にあるもの【#36マッチングサイトリポート】

海を眺めてビーチでまどろんでいると、ローカルの人々がいろんなモノを売りに来ます。ある青年は貝を、中年の女性は腰巻き用の布やハンドクラフトのバッグなどをたくさん抱え、ビーチで寛ぐ観光客を目当てに売り歩いていました。

ラッパになる貝を売ってた

「もしこの地に生まれていたら、あんなふうに人生を送っていたのかもね。サモア時代を思い出しちゃうわ」

「これはこれで悪くないね。運命だよね。たまたまどこで生まれたかで人生はこれほどちがう。彼らは雪を見たことないまま人生を終える。ぼくたちは太陽求めて今ここにいる」

ビーチで遊ぶローカルの子ども

ある夕方、貝殻細工などのアクセサリーを抱えた男の子が、じっとわたしたちの方を見ていました。するとQPさんが坊やを手招きして呼び寄せました。

"Hey buddy! , come here. How old are you? " (坊やおいで。何歳?)

そう言いながら、坊やの目線にあわせるように膝をついて話しかけました。

すると、男の子はSeven. (7歳)と小さな声で答えました。

真っ黒の顔にキラキラ光る目と真っ白な歯が印象的です。

QPさんがこれ売ってるの?って聞くと、コクンと頷きました。

「この人に似合うのはどれだと思う?」というと、男の子がいくつかの紐細工を差し出しました。

QP さんがどれにする?とわたしに聞くので"Pink one please" っていうと男の子は満面の笑みを見せて差し出したので、それをわたしの左足首に着けて、QPさんがお金を払いました。

男の子から買ったモノ

男の子は笑顔で"Thank you"と言って去って行きました。

「あの子の笑顔を買ったようなものね。ここでどんな大人になっていくんだろうね」

"It was a big smile. Great smile!!"「ここで生まれていたらボクもあの子みたいだったかも。そしたら毎日この海を見て暮らせたのに」

……って感じでビーチでまどろみながら人間ウォッチングと会話を楽しみました。ふだんとまったく別の環境に身を置くと、つくづく人生はたまたまどこで生を受けたかの影響は大きいし、どう生きるかもいろんな巡り合わせなんだと感じます。

QPさんはお兄さんを残念な形で失くしています。ここで生まれていたらそんな人生の終わり方ではなかったかもしれません。

彼は現在のソーシャルワーカーの仕事は10数年前からだそうです。それ以前は少年院などに送られてくる問題のある子どもたちを指導する仕事をしていました。

指導する側の仕事をしていたとはいえ、QPさんが多感なティーンのころに、母親が父親に裏切られるような形での親の離婚を経験し、ハイスクール時代は荒れた日々を過ごし、自身がドロップアウトして補導されたこともあるそうです。

そんな経験から、道を踏み外す人の気持ちもわかるということなのでしょう。ずっと優等生ではないからこそ、弱い立場の人を理解しようとする姿勢が見えます。常に人の気持ちを慮るところは彼の素敵なところです。おしゃべりしながら、過去を知るに連れ、今の考え方ややさしさの根源となるものが見えてきました。

QPさんは、わたしが16歳で夫に出会い、癌闘病の末に43年間の関係が終焉したことについて、たいへんな気遣いを見せます。

「あなたがこの数年味わった苦しみなんてボクには想像もできないけど、素晴らしい経験をたくさんしてきて、おもしろい人生を送ってきたことはあなたと話しているだけでよくわかります。亡くなったご主人を心からレスペクトします」

彼の場合は配偶者との死別の経験があるわけではありませんが、人を失う痛みや、傷つく痛みを知っています。

十数年前、年末年始にかけてお母さんに自分の子どもたちの子守りを頼んで夫婦でお出かけしたそうです。当時、お母さまはQPさんのお兄さんと同居していました。QPさんの家で孫との楽しい時間を過ごしたあとで自宅に戻ったら自死しているお兄さんを発見しました。お兄さんは当時、精神を病み気味だったそうです。

もし、あの日母に子守を頼まなければ……と悔いたそうです。その日以降、お母さんも苦しみ続け、二度と以前のような笑顔は見せないまま、お母さまも数年前に他界されたそうです。

現在の仕事では、未遂を起こし病院にかつぎこまれる若者の心のサポートもされています。そんな仕事に向かわせる背景には過去の経験の懺悔の気持ちも含まれているように見えます。彼がハーレーライドを楽しむようになったのも、亡くなったお兄さんの趣味を引き継いでいるのだそうです。

彼はハイスクールで一度ドロップアウトしているので、大人になってから一念発起して復学、修士号を取得し現在の仕事に付けるライセンスを取得しています。遅い復学という意味では夫も博士号を取得したときは50歳を越えていたので同じです。

「学ぶこと遅すぎにもほどがあるでしょ。今年やっと学生ローンが終わるんだ。ついでに末息子への養育費の責任もこの春で終わるから、今年、またあなたとこんなバケーションできるかも!!」と笑いました。

晴天の空の下で静かに飲んだり、まどろんだり、おしゃべりしたりという時間をたっぷり共有しているうちに、QPさんの過去や経験をより知ることができました。

二度の結婚生活だけでなく、それ以前の数人の恋愛体験もQPさんの人柄がとても現れていておもしろい話ばかり。お互いが61年間生きてきたわけですから、話し出せばとにかく話題は尽きません。過去の間違いをコメディっぽく話すユーモアもなかなかのものです。

最初のうちは、とてもぎこちなかったわたしたちの関係が、お互いの過去を知ることで理解が深まってきました。もともと、彼のほうにはわたしに対する疑いや緊張はありません。わたしの中にある漠然とした警戒心が自然な形で消滅していく感覚が生まれました。

体は大きくないけど懐は広い。大きな目でときおり少年のような表情を見せます。そして自分でも言い続けていますが、彼はそうとうにロマンチックなおっちゃんです。リアリストのわたしとしては、彼のロマンチックぶりにうろたえるばかりです。

安心、安全で信頼してもだいじょうぶな人だとわかったあとは、自然な形でいつの間にか手をつなぐようになりました。





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