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【小説】「黄泉比良坂にて」

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ひょんなことから、山にある古びた神社の結界を越えてしまい、黄泉比良坂に迷い込んでしまう高校生の物語。全55話(約8万字)
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記事一覧

「黄泉比良坂にて」 #01

 西側の窓から差し込む光が、シャーペンの影を長く伸ばしている。  午後四時を回っている教…

やひろ
4年前
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「黄泉比良坂にて」 #02

「たどり着けないってことないだろ。だって、あの山だろ?」  おれは窓のそばに寄って、外を…

やひろ
4年前
12

「黄泉比良坂にて」 #03

「今からってなあ……工藤、どうする?」  工藤はへらへら笑っていて何を考えているのかわか…

やひろ
4年前
6

「黄泉比良坂にて」 #04

 テストの答案を出し終えると、急に胸が高鳴ってきた。今まで西川原のことを意識したことはな…

やひろ
4年前
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「黄泉比良坂にて」 #05

 しばらく歩いて行くと、古ぼけた鳥居があり、その奥に、神社はあった。 「なんだ、意外とあ…

やひろ
4年前
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「黄泉比良坂にて」 #06

 ガードレールまでは数十メートルの距離があり、人だという確証はない。ただの切り株かもしれ…

やひろ
4年前
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「黄泉比良坂にて」 #07

 しばらく、呆然と立ち尽くしていた。  工藤がどこかに消えた。工藤はさっきまで、崖の淵に立っていたから、地震の揺れで、下に転落したのだろうか。だが、悲鳴も何も聞こえなかったし、崖の下を見ても工藤はいなかった。  一瞬で頭が真っ白になり、パニックに近い状態になった。 「どうしよう」  西川原はいつの間にかおれの隣に立っていた。 「落ち着いて。工藤くんは転落したとは限らない。そうでしょ?」 「あそこに立ってて、転落してないってことがあるか? 他にどこに行くって言うんだよ?」 「そ

「黄泉比良坂にて」 #08

「どれぐらいいるの?」 「とにかくたくさん」 「だから、どれぐらい?」 「三十はいる」 「あ…

やひろ
4年前
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「黄泉比良坂にて」 #09

「父は、何日かは様子がおかしいままだった。茫然自失というか……。受け答えはするけれど、な…

やひろ
4年前
6

「黄泉比良坂にて」 #10

 真っ暗な道を西川原と駆けた。途中で何度も枝が顔に当たったが、気にしている余裕はなかった…

やひろ
4年前
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「黄泉比良坂にて」 #11

 おれたちはしばらく黙って歩いた。道は凹凸が多く、足元をしっかり確認しながら進まなくては…

やひろ
4年前
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「黄泉比良坂にて」 #12

「ここから、警察に連絡をとる方法はありますか?」西川原がすぐに次の質問をする。頭の切り替…

やひろ
4年前
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「黄泉比良坂にて」 #13

 キッチンに立っていた女性がこちらにやってきて、君ケガしてるよ、と言った。頬の傷は、走っ…

やひろ
4年前
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「黄泉比良坂にて」 #14

「清水くん、よく見て」  西川原は立ち上がり、カレンダーを指し示して、おれのほうを見た。おれは彼女の意図がわからない。  仕方なく立ち上がり、カレンダーをよく見た。上半分が風景の写真で、下がカレンダーになっている、ごくありふれたものだ。写真部分はヨーロッパの渓谷のような当たり障りのない写真で、下部分にはいくつかの記号や数字が赤ペンでメモされているだけ。なんの変哲もない、普通のカレンダーだった。  おれはあらためて西川原の顔を見たが、彼女は何も言わず、口元はぎゅっと固く結ばれて