シェア
ヤギのミルク
2022年6月14日 19:37
私は走った。全速力で。途中、心臓が破けるかと思った。それでも足を止めず、家まで走った。さっきよりも冷たくなったドアノブを捻り、バタンと家の中へ入る。家の中は完全なる灰色の世界だ。私の荒くてうるさい息の他に音はない。ふと「フルーツサンド食べたかったな」と思う。すると顔の筋肉がぐにゃりと歪んだ。焼きそばの容器に雫が落ちてポタポタと音を立てる。ミキちゃんのお母さんは「いつ
2022年6月1日 20:25
9スーパーに入ると私は迷わずお惣菜売り場に直行し、500円で買える好きなものを探した。黒毛アンガス牛丼430円。煮物弁当430円。大きな唐揚げ弁当430円。天重うどんセット430円。洋食プレート421円。おこわ盛り合わせ322円。ソース焼きそば309円。どれも買えるけど、好きなものではない。唯一食べてみたいと思うのはお寿司。でも1番安いので521円。500円では買えな
2022年5月25日 22:45
7あれは晩御飯を食べていた時のことだった。突然電話がかかってきて、ママは相手がわかるなり「いつもお世話になってます」と深々と頭を下げ、私の顔をチラリと見た。そして「ええ」「ええ」と相槌を繰り返し、一度「すみません」と口にすると、その後何度も「すみません」と頭を下げた。一体何があったのか。相手は誰なのか。私は箸を置いて電話が終わるのを待った。電話の相手は担任の先生だった。「
2022年5月21日 20:07
4木のオジサンは通学路にある公園のベンチにいる。朝はいない。下校の時だけ。毎日いる。公園にはベンチが3つある。オジサンがいるのは1番隅っこのベンチ。そこは後ろに大きな木があるからいつも曇っている。他の2つのベンチは陽が当たって気持ち良さそうなのに、オジサンがいるのは決まってその曇ったベンチ。そこで、いつも同じ服を着て、じーっとだまーって座っている。オジサンは本当に動かない
2022年5月19日 21:52
1「ごめんね、お仕事終わったらすぐ帰ってくるからね」ママは申し訳なさそうに私に500円玉をくれた。これで好きな物買って食べてねって。私は「うん、わかった」と元気よく返事をした。するとママはにっこり微笑んだ。私は「良かった」と思った。ママはいつも大変そうだから。事実、大変なんだと思う。それは多分私のせい。「ママ、モモカには将来うんと好きなことをやって欲しいの。だから少しだけ