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【連載小説】シクラメンと木のオジサン vol.5




私は走った。全速力で。
途中、心臓が破けるかと思った。
それでも足を止めず、家まで走った。

さっきよりも冷たくなったドアノブを捻り、バタンと家の中へ入る。

家の中は完全なる灰色の世界だ。
私の荒くてうるさい息の他に音はない。

ふと「フルーツサンド食べたかったな」と思う。
すると顔の筋肉がぐにゃりと歪んだ。

焼きそばの容器に雫が落ちてポタポタと音を立てる。

ミキちゃんのお母さんは「いつでもおいで」と言ってくれたけど、もう行けない。

一人でいるしかない。
一人でこの焼きそばを食べて一人で寝るしかない。
一人で。
一人。

私はふと木のオジサンを思い出した。オジサンはいつも一人だけど寂しくないのだろうか。

会いに行ってみようかな……。

そう思うと再び心臓がドキドキした。でもそのドキドキはさっきまでのドキドキとは違ってワクワクをはらんでいた。



11

私は歩いた。
踵にスタッカートをつけながら公園に向かって歩いた。
途中で焼きそばを持ったままなことに気づいた。
オジサンに会いに行く。
そのことに夢中で焼きそばを持っていることに気づかなかったのだ。

まあ、いっか。
公園で食べて帰るのも悪くない。
その代わり真っ暗になる前には必ずお家に帰る。

私は自分と約束をした。


12

公園はさっきまで遊んでいた子たちの姿がすっかりなくなっていて、静かになっていた。

だけどオジサンはいた。
ちゃんといた。
しかもさっきと全く同じ格好で。
まるで間違い探しだ。
さっきまでと明らかに違うのは鳥の数。
たくさん留まっていたのが1羽になっている。
鳥はオジサンの頭に潜って、戦車から顔を覗かせるようにしている。

オジサンに話しかけてもいいものだろうか。

オジサンは斜め下を見ている。そこには何もない。だけど、ずっとそこを見ている。


私は思い切って話しかけてみた。

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