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ウェルネスD2Cブランドhimsが誕生するまで

タブー市場D2Cの代名詞。THINXとhims

タブー市場に切り込んだD2Cと言えば、グレープフルーツを女性器に喩えた交通広告を実施したTHINXや同様の手法で男性器をサボテンに喩えたhimsが有名。
(当時パブリックの場でこういった広告を出すことは有り得なかったので、相当話題に!)

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fashionnunitedより

THINXは以前、流行りのサニタリーショーツ比較ということでまとめました。嬉しいことにnote始めて2ヶ月目でバズり、今でも一番読まれているのがこれ。

ビジネス的な観点もとても気になるのでまたタイミング見て一本記事書きたいなと思いつつ、今日は創業2年でユニコーン・3年目で上場したhimsについて考察。

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danielbatten.comより

ちなみに広告はTHINXとhims、瓜二つですね(本日2回目)。

ここからが本題。himsが初期にどう立ち上げていったかを調べていきます。

そもそもhimsは誰が立ち上げたのか

himsは2017年にスタートアップスタジオAtomicのパートナーの一人、Andrew Dudum氏が創業した会社。Andrewが何者かは、Linkedinを見てもらった方が早いのですが、Everアプリだったり、Co-livingを手掛けるBungalowだったり、とにかく色んなスタートアップの共同創業者に携わっている人!元ベンチャーキャピタリストで、つまるところ0→1の立ち上げ方を熟知しているシリアルアントレプレナーです。 

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Business Insider

ちなみに共同創業者は、ブランドマーケティングのバックグラウンドを持ち、当時ケロッグ経営大学院を卒業したばかりだったHilary Coles氏。MBAの教授がAndrew氏を紹介したことがきっかけなんだとか。

When I was finishing my MBA at Kellogg School of Management, a professor introduced me to Andrew, one of Atomic’s partners and now the CEO of hims. At that point, I was hungry for a chance to get into tech and blend my brand marketing expertise with my love for innovating on physical products. Andrew gave me an opportunity to work with one of the Atomic companies and then offered me a shot to be a “founder-in-residence.”

F(o)unded by Atomic: The hers behind hims

himsの創業ストーリー

シリアルアントレプレナーによって立ち上げられたhims。アイディアはなんと28才だったAndrewが妹から乾燥肌とニキビを指摘されたことがきっかけなんだとか。

妹:You’re, like, 28 years old, there is stuff you can buy that works — it’s science.

そして妹さんはOle HenriksenとGlossierでいくつかの製品を買ってプレゼント。

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その時のことを Andrewは「商品は名前すら知らないファンシーなものたちだった。けれど、妹の助言は"スキンケアはサイエンスだ"というシンプルなものに聞こえた」と振り返っています。

妹の指摘がきっかけでメンズスキンケアに取り組み始めたAndrew。当時は化粧品を買いに行く場所と言えばセフォラ 。日本でいうと@コスメやコスメキッチンのようなお店で男性にはとても入りづらい場所。そしてブランド数がとにかく多いので、製品知識のない男性が行くと何を買っていいか選べず不便な購買体験でした。

Andrewの場合は幸いにも妹さんのおかげでどの商品を買えばいいか分かっていましたが、これらの商品にかかる費用は毎月200〜300ドル(高い、、、!)。ブランドのことはよく分からず、サイエンス(成分)で買い物をしていたとしたら自然とコスパを求めていきますよね。

ということで、男性も身嗜みを整えたい(美容に気を使いたい)というニーズに対し、

女性だらけのコスメストアで肩身の狭い思いをせずに済む購買体験
知識がなくても簡単に選べる科学的に実証されたプロダクトラインナップ
毎日でも使いやすい価格を実現した製品

を、自分と同じ課題を持った30前後の男性に届けたいという想いから、himsを創業します。

himsはどんな課題を解決しているのか

上記の3つの課題に加え、もう1つマーケティング的な側面でも当時メンズスキンケア市場には課題がありました。4つ目の課題は、himsがNYのクリエイティブスタジオPartners & Spade(現mythology)とブレストを開始することで明確化していきます。

それは、従来のメンズ用製品と言えばダークカラーの強めのデザイン一辺倒でしたが、実は男性も見た目の良い商品を持ちたいというニーズがあるということ。

mythologyは、その背景を2つの側面から見ていました。

1) ブログやインスタの普及により、男性も身嗜みケアグッズを持ち運ぶようになっている(持ち運びやすいデザインやサイズといった需要が自然と生まれる)

2) 男性の髭剃りやヘルスケア市場はトラディショナルな大企業が独占しているため、消費者の趣向を変えるようなイノベーションが起きづらくなっている。女性向け市場ではピンクピンクしたパッケージはもはや時代遅れになりつつあるのに、どうして男性向け市場はダークカラーのトーンに頼っているのか?

これらをまとめると、himsが解決する課題はキレイに4Pに整理できます。

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<余談>初期からブランディングに時間とお金をかけたhims

ちなみに話が多めな私の記事ですが(笑)ここでもちょこっと。

himsはサンフランシスコベースのスタートアップなのに、創業時のお金のない時期からNYの(!)クリエイティブスタジオに発注しています。きっとSFにも良いブランディンングファームはたくさんあるはずなのに一体何故?と思って調べてみると、mythologyはD2C立ち上げにおいて超がつくほどの実績ある会社でした。

クライアントリストには、AllbirdsやAway、Casper、Harry’s、Sweetgreen、Warby Parkerと言った錚々たるD2Cブランドが並んでいます。

Mythlogy

IDENTITY、MARKET STRATEGY、BRAND BOOK、TONE OF VOICE、LOGOMARK (2018 )
About
Hims was conceived with the intention of flipping cultural norms and stigmas around men’s health and grooming, Mythology created the name, visual identity, and brand personality of a new, more honest brand for men.

つまり、ネーミング、ブランドアイデンティティ、マーケティングストラテジーからクリエイティブ制作などブランド立ち上げにおける必要なこと全般をやっていることが分かります。

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COLLABORATORS
Gin Lane Media

えっ。ちょっとまって。。。コラボレーター?しかもGin Laneって聞いたことある。。。?

調べてみるとGin Lane(現:Pattern)は、現在は自社事業を作る方にピボットしましたが、元々は受託ビジネスをやるデザインファーム。こちらもクライアントリストには、Harry’s、Sweetgreen、Warby Parker、Everlaneなどが並びます。Mythologyとクライアントが結構被っているので二社がタッグを組んで、、、というのはよくある座組みなのかもしれない。旧Gin LaneもNYベースです。

OUR APPROACH
Gin Lane took a empathetic, user-first approach to understanding the concerns and considerations of men at various ages facing issues with their bodies. Using our learnings, we set out to design an experience and set a tone that would invite men to engage, learn more, and be proactive about taking care of themselves. The initial naming & branding was done by Partners & Spade, which allowed us a platform to build from.

Gine Laneはどうやらユーザーエクスペリエンスの設計に長けたファームみたい??Worksページには初期のサイトデザインが載っていました。

Gine Laneがユーザーインタビューをして市場分析をサポート→Mythologyがネーミングやロゴ、マーケットイン戦略を策定→Gine Laneがコミュニケーションを設計

ざっとこんな組み方のイメージでしょうか??

ちなみにGine Laneが手掛けたサイトが事例として載っていました。

初期の頃からトーンは変わってませんが、サイトの作りは今よりもおもちゃっぽい印象。実際にこれが本当のウェルネスECか確証が得られず、カスタマーサポートに問い合わせたという強者もいる!!

The first time I saw the website for Hims, a new men’s wellness startup, I thought it was elaborate satire.
So I called the customer service line. “Are you a real company?,” I asked. Yes, the person on the other end of the line answered, Hims is a real brand, selling real products.

4Pの課題に対するそれぞれのソリューション

himsが解決した課題、もう一回整理した画像載せておきます。

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それぞれに対するソリューションは次の通り。

1)Productの課題に対する解決策

FDA(アメリカ食品医薬品局)が承認し、科学的根拠がある商品を提供

2) Priceの課題に対する解決策

特許切れの医薬品を使用することで、安価に提供。CVS(アメリカの薬局)で買うと月100ドル以上してしまう商品を、himsでは10〜30ドルに抑えることに実現した。(この仕組みを利用することで、例えば競合のバイアグラが25ドル/錠のところをhimsではEDの薬を2ドル/錠で販売している。)

また、価格面ではコスパで定評あるGlossierからもインスピレーションを受けている模様。ちなみにGlossierのコスメは安くて成分がいいと、プロのヘアメイクさん含め絶大な指示を集めてると聞いたことがあります。

He also acknowledges Glossier as a brand he took some inspiration from, citing its “amazing job of offering great products at really reasonable value at really great price points, and also just being super authentic.”

3) Placeの課題に対する解決策

コンプレックス商材を人目を気にせず変えるよう、EC販売に注力。また、(1)と(2)により医薬品を扱っていたので、わざわざ病院に行かなくても気軽に購入できるよう、オンライン診療を組み合わせた

4) Promotionの課題に対する解決策

大手消費財メーカーの髭剃りやデオドラントに代表されるダークトーンのパッケージとは対局的な、男性らしいピンクのトーンを開発。従来の製品がブランド2.0だとすると、himsはミニマルで中性的な要素を好む現代男性向けのデザインで、ブランド3.0を実現した。

Dudum considers Hims to be version 3.0 of direct-to-consumer men’s brands, at least in terms of design, though men’s brands right now kind of run the gamut between super minimal and hyper-masculinized. “I was pretty adamant when we started to brainstorm on brand that we refused to be anything called, like, Shackleton or Jackson, or be something that was dark mahogany on a leather couch with, like, a smoking cigar and forest green or dark blue. To me, that was the 2.0 of brands,” says Dudum, who thinks that men are drawn to “beautiful” design. “We started with P&G, then we got them all fancy and put them in startup form, and it was so stereotypical, right?”

またまた余談だけど(笑)Andrewはイソップのファンで、ミニマルで洗練されたデザインはhimsにも少なからず影響を与えている模様。そして偶然同じPR会社を使っているそう。

The brand that I personally resonate most with is Aesop: the tone-on-tone minimalist elevated product that makes you want to have that freaking soap in your bathroom, it makes you want to show it off.” (Hims happens to share the same public relations firm as Aesop.) 

himsが真に提供するブランドのベネフィットとは

妹からの助言でスキンケアを取り入れ、メンズ美容の課題を見つけたAndrew。でも実はその前から男性のコンプレックス市場は事業領域として狙っていて、ユーザーインタビューをしていました。その際に見つけたインサイトがhimsというブランドを作る上で生かされています。

それは、男性は薄毛といった類のコンプレックスについて人には話したくないということ。そしてターゲットの10%以下ではあるものの、オンラインで直接質問することには抵抗がないという事実でした。

Guys are not willing to talk about their issues, according to Dudum. This is the core tenet at the heart of Hims. Dudum says that for the last decade, he’s watched his peers “suffer through hair loss essentially in silence because it’s an incredibly uncomfortable thing to talk about.” 
“We found out that less than 10 percent of guys in our target age group of between 20 and 40 [years old] had a physician they would feel comfortable emailing or giving a call to ask about questions related to hair loss or sexual wellness or things like this,” 

別のインタビューでは、このニーズを「Men suffer in silence」とも表現しています。

そしてここに対して、ユーザーはネットで出回っているような記事ではなく、医者の意見、つまり信頼できるアドバイスを求めているということを発見します。

“While lifestyle content is great, I think what we’ve seen is men really value doctors’ opinions,” says Dudum, noting that with many of the blogs out there, it’s often “really hard to know what is fact from fiction.”

つまり、himsは「悩みをわざわざ人には共有したくないが、オンラインなら相談したい」というニーズに対して、「男性が悩みについて学べ、専門家と気軽に話せる場」をベネフィットとして提供しました。

ブランドベネフィットに対して定めたストラテジー

アンケートからターゲットのニーズとボリュームを正確に導き出しているAndrewがマーケッター的役割だとして、ここからアメリカD2C界の最強デザインファーム陣の出番です。

Gine Laneサイトより

I. BRAND STRATEGY
悩みについて話しやすくするための、共感を生むようなトーンを意識

Setting a foundation based on empathy, to talk about sensitive health issues.
Our strategy from the beginning was to be up front with our customer. We developed a conversational tone that is backed by science - allowing people to dig deep for the information if they choose.
It was important to communicate to customers that this is real medicine that delivers real results, and forhims.com is a place customers can trust to learn about all that.

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ユーモアがありつつもどことなく製品が伝わるイメージもユーザーをリラックスさせるためのもの

II. ART DIRECTION
自身の抱えている悩みは特別なものではなく、むしろ一般的だということを伝える

Showing that men dealing with similar issues is normal and relatable.
We decided early on that Hims' content should focus on showing normal men, and how they deal with these issues.
The art direction has strived to be fun, as well as eye-catching, and honest. We implemented visual metaphors such as a cactus and plants as a personable way to describe the product benefits.

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暖かいトーン、クリーンなイメージ、多様性ある(普通の人っぽい)モデル、植物を用いた隠喩表現には全て理由がある

III. PRODUCT DESIGN
まるでECサイト感覚で利用できる遠隔診療で親近感を醸成。

Designing a friendly digital product to simplify telemedicine.
Our goal from the beginning was to set up a website that felt like a normal ecommerce website - where users could easily see prices on a per product level and understand the product offerings.

いざ、ローンチ!初期ユーザーの作り方

参考にしたいことだらけのhims。初期のロールアウト戦略も秀逸です。

<フェーズ1>プロダクトマーケットフィット(PMF)の確認

まずは脱毛に関する相談ができるアプリを作り、育毛剤の先行予約を募集。5週間で1億円集まり、その実績をもとに大型の資金調達を実施。フルローンチと時期をほぼ同じくして、シリーズAのファイナンスで約7億円を集めました。

<フェーズ2>ブランド認知を高める

PFMの検証ができたところで、NYの地下鉄をジャックし一夜にしてすべてhimsの広告にするという勝負に出る。一気に認知度が高まりリリース翌週から売上1億円以上を達成。

大胆に見えるローンチ戦略も裏側にはスタートアップ側の緻密なインサイトの深堀と、数多くのD2Cと共走したブランドエージェンシーのノウハウに裏打ちされたプランなんでしょうね。

最後にもう一点だけ。
himsはスキンケアの不便な購買体験という創業者自身の体験から創業された会社(ということになっています*)。

ただそれよりも前から薄毛治療に対するユーザーの明確なペインポイントを見つけていたからか、ローンチ時に販売していたのは育毛剤とEDの薬で、スキンケアはECサイトに空のタブだけ存在していました。

これは
・スキンケア商品の準備に時間がかかったとか
・明確なニーズのある育毛剤とEDの薬でPMFを確かめたかった
とか様々な理由が考えられますが、それでも会社として「スキンケアのソリューションも必ず出すよ」というメッセージが消費者に伝わっていいですね。

hims初期のブランドの作り込み、立ち上げ戦略はここまで。。。!9,000文字超えの超大作となりました。ここまで読んでくれた方、お付き合いありがとうございました!

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