メーカーを経て、JAXAへ。そして、XRISMプロジェクトへ(インタビューシリーズ第3回)
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メーカーを経て、JAXAへ。そして、XRISMプロジェクトへ(インタビューシリーズ第3回)

XRISM

今回お届けするのは、夏苅権さんへのインタビューです。夏苅さんは、第2回インタビューに登場したプロジェクトエンジニアの戸田さんと共に衛星システム全般を担当しています。 

 大学・大学院でものづくりの面白さに目覚め、メーカーで経験を積んだ後、JAXAに就職したという夏苅さん。エンジニアとしての仕事の進め方や、どのように経験を積みキャリアを重ねてきたか、など、衛星開発とものづくりについて、お話を伺いました。

X線天文学とものづくり

—— 最初にエンジニアの面白さを感じたきっかけはどういったところでしたか。

 きっかけは大学時代に研究で使用したFPGA(回路構成を書き換えられるIC)です。自分の設計通りにモノが動くのを経験して、これは面白いなと思いました。

 —— 夏苅さんは修士課程で、ISS(国際宇宙ステーション)に設置された全天X線監視装置「MAXI」のカメラ開発をされ、修士課程修了後にメーカーに就職されたそうですね。

 大学院では大阪大学のX線天文学の研究室にいました。修士論文はMAXIの固体スリットカメラ (SSC) に使うX線CCDのスクリーニング装置開発と性能評価がテーマでした。その頃、X線天文衛星「ASTRO-E」(2000年打ち上げ)が軌道投入に失敗ということがありました。そのため、しばらく次の衛星は打ち上がらないという状況になってしまったのです。それで、ものづくりのメーカー(株式会社キーエンス)に就職しました。

 当時その会社では、よそのどこでも作れないようなラジコンを作っていたんです。それを凄いなと思って、ラジコンが作りたいと思って入社しました。

 ——その後ASTRO-Hのチームに加わったのは、どういうきっかけですか。

 その会社に就職後7、8年経って次のキャリアを考えたときに、大学院で天文学を学んでいたこともあり、JAXAで募集されていた「次期X線天文衛星の開発」という任期制の招聘職員に応募して採用されました。2010年夏のことです。

 —— ASTRO-H プロジェクトでは、最初、SXI(軟X線撮像検出器)の開発に携わったのですね。

 はい。2010年秋から2011年冬の詳細設計審査まで、SXIを担当しました。2012年春くらいからはASTRO-Hの全体試験の担当として打ち上げまで携わりました。

 ——ASTRO-Hを開発する上で大学院やメーカーでの経験は生きましたか。

 CCDの知見があるうえでSXIを担当させてもらったのは入りやすかったですね。また、仕事の進め方といった面では、メーカーでの経験が圧倒的に生きています。

 —— XRISMプロジェクトで、夏苅さんはどんな役割を担っているのですか。

 プロジェクトエンジニアの戸田謙一さんが衛星全般を横通しで見る立場で、私はその中でも特に電源系・推進系・姿勢制御系・通信系・データ処理系・熱制御系などのバス系をまとめて見ています。

—— かなり守備範囲が広いお仕事ですね。

 そうですね。守備範囲の広さを理由にして、私も勉強させてもらっています。

例えば、衛星の各部分が、なぜそうなっているのかについては、XRISMで改めて衛星の要求仕様書を書く中で勉強しました。XRISMで、衛星の企画段階から詳細設計まで全部関わりましたので、メーカーさんの資料を何万ページと読みました。そういったことを通じてすごく勉強させてもらい、ありがたいです。

—— 今の仕事で面白いと思うのはどんなところですか。

  今の自分は、大学の人たちとメーカーをつなぐ通訳者の立場だと思っています。大学の人たちが思った通りのものを、メーカーがちゃんと手戻りなく一発で作れるように持っていくのが仕事のポイントかなと思っています。

  今は、手を動かしてものを作るということはあまりできていないかな。ただ、やっぱり自分の手でものを作る方が私にとっては面白いですね(笑)。何かとかこつけて、シミュレータを作ったり、手を動かす仕事もしています。好きなように仕事をさせてもらっているというのは感謝しています。

短期決戦で衛星を仕上げる

 —— XRISMで特に苦労している点はありますか。

 一番はXRISMが短期決戦の計画だったところです。通常なら2、3年かけるところを1年くらいで終えています。 衛星のバスシステムについては提案要請 (RFP) をして、2018年2月にそのメーカーが選定されると4月にはすぐ衛星のシステム定義審査 (SDR) があり、この年のうちに基本設計審査を終えるという日程でした。

 XRISMの衛星設計は基本的にはASTRO-Hと同じです。しかし、事故に関係した部分は設計が見直されていますし、衛星の設計として必須の検討事項も多々あります。

 それらを全部やるのは大変です。ただ、XRISMでは、仕事の進め方や注力する点などの判断を任せてもらっている範囲が広く、やりやすいですね。

最後まで仕上げて、世に送り出す。このサイクルの繰り返しが大事

—— 仕事をする上で、一番大事だと思っていることはどういうところでしょうか。

  やはり、物事の本質は何かという点を考えることですね。なぜそうなっているのか、なぜそうじゃなきゃいけないのかというのは常に考えています。

  あと、優先順位はすごく大事です。優先順位はインパクトと緊急性の掛け合わせで決まると思いますが、それは常に意識しています。

note記事インタビュー03-01

 —— そういう意識はやはり、メーカー時代に培われた部分でしょうか。

  そうですね。これは決定的に違うところですが、私がいた会社だと、当時は製品開発のスパンが非常に速かったです。たいてい1年か1年半くらいで設計・製造・試験をして製品をリリースします。2年もやってると遅いと言われるくらいでした。

 開発の中で、仕上げのところがすごく難しくて大変です。

最後まで仕上げて、そこまでのサイクルを繰り返し回すという、それが自分の経験値につながってきます。

 —— 宇宙関係のエンジニアを目指している若い方へのメッセージをお願いします。

 宇宙に限った話ではありませんが、会社や職種を選ぶときに、その組織や職業で自分がどういう立場に就いて、どんな役割を果たせるかを具体的に想像できれば、そのために何が必要かわかり、具体的な行動計画が立てられるようになります。

 また情報系に限らず、プログラミングを習得しておくと身を助けてくれると思います。例外処理や不測の事態の想定など、プログラミングを通じて得られるスキルは技術系の仕事をする上で役に立ちます。

 社会人になってからは、学生時代ほど勉強時間を割くわけにはいかないので、しっかりと勉強に取り組んで下さい。

インタビュー日:2021年10月25日 
インタビュアー:中野太郎
編集:堀内貴史・生田ちさと


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XRISM
X線分光撮像衛星XRISMは、JAXAが、NASAや世界中の大学・研究機関と協力して開発を進めている衛星です。2022年度中の打ち上げを目指しています。noteでは、X線で観る宇宙の魅力とプロジェクトに携わるエンジニア・サイエンティストの話題をお伝えしたいと思っています。