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宇宙のレシピを手に入れよう −銀河から銀河団まで

我々の身の回りの元素は主に星の爆発によって合成されます (note#02-01)。これまでに宇宙で合成されてきた元素の何割かは、新たに作られる星に取り込まれていきます。

では、残りの元素はどこにいったのでしょうか? 

実は、生まれた場所から遙か遠くまで飛び出してしまうのです。

恒星は、銀河というガスと塵、恒星の集団の中で生まれ、死にます。恒星が死を迎える過程で、合成した元素を周りの空間にまき散らします。銀河の中では、恒星の誕生と死が繰り返されているのです。私たちが住む地球も、天の川銀河と呼ばれる銀河の中にあります。そして、宇宙には多数の銀河が存在しています。

銀河の集団が、宇宙最大の天体である銀河団 (note#01-01)です。銀河団では銀河と銀河の間の銀河間空間を、X線を放射するガスが満たしています。銀河団に付随する膨大なダークマターによる強い重力によって、銀河団の高温ガスは閉じ込められているのです。

銀河団の高温ガスを観測して得られたX線スペクトルに、高階電離された鉄からの輝線が発見されたことは驚きでした。このような輝線の存在は、高温ガスの温度が数千万度に達していること、そこに大量の鉄が含まれていること、を意味します。

銀河団ガスに大量の鉄が含まれているということは、銀河の星で作られた元素の多くは銀河の重力をふりきって銀河の外にまで飛び出した、ということになります。つまり、銀河団ガスは宇宙が生まれて以降、銀河の星で合成された大量の元素を溜め込んでいることになります。

図1:ペルセウス座銀河団の中心部。X線と可視光の合成画像。スペクトルは、すざく衛星(黄色の線)とASTRO-H(白い線)で観測されたもの。すざく衛星ではCCD、ASTRO-Hではマイクロカロリメータによりスペクトルが取得された。

図1は、すざく衛星(黃:CCD)、ASTRO-H (白:マイクロカロリメータ)で観測したペルセウス座銀河団の中心部(X線と可視光の複合画像)のスペクトルです.。ASTRO-Hに搭載されたマイクロカロリメータにより、これまでのX線天文衛星の標準的な検出器であるCCDに比べ、はるかにエネルギー分解能が高いスペクトルが得られていることがわかります。

鉄からの固有のX線の他に、弱いながらもクロムやマンガン、ニッケルといった微量な元素からのX線が放射されています。これらの元素は主に白色矮星の爆発である「Ia型」超新星から合成されます。観測された元素の量のパターンからどのような超新星が、どの程度存在したかを調べることができます。

現在の銀河団を構成する銀河の多くは、恒星の分布が楕円体の形をもつ楕円銀河やレンズ状銀河です。我々が住む地球が位置する天の川銀河は、渦巻状に恒星が分布していますから、楕円銀河やレンズ状銀河とは見た目が異なります。

見た目以外にも、楕円銀河やレンズ状銀河と渦巻銀河には、違いがあります。渦巻銀河では、現在も星が形成していて、若い星があります。恒星は重たい星ほど早く寿命が尽きるので、現在も星が生まれている銀河には、重たい星から軽い星まで、様々な質量の恒星が存在しています。一方、楕円銀河やレンズ状銀河では、最近はあまり星が形成されていません。このタイプの銀河は、寿命が長い軽い星がほとんどです。昔誕生した重たい星は、死を迎えてしまい、残っていないためです。

では、このような楕円銀河はこれまでどのようにして進化してきたのでしょうか? 我々の天の川銀河と同じような歴史をたどってきたのでしょうか? 

ASTRO-Hの観測から、ケイ素、鉄、クロム、マンガン、ニッケルなどの元素の量の比が太陽と同じということがわかりました。太陽は渦巻銀河である天の川銀河の恒星の一つです。楕円銀河とは全く異なる環境にいるはずの太陽と楕円銀河で、同じ元素の比が得られたということは、銀河団でも太陽近傍でも恒星が同じように形成され爆発してきたことを示唆します。

はたして、元素の合成史は宇宙で普遍的なのでしょうか?

図2:すざく衛星搭載CCD検出器によるペルセウス座銀河団中心部のX線スペクトル(黒)と
XRISM衛星による予想スペクトル(赤)

図2はXRISM衛星によりペルセウス座銀河団を観測するとどのようなスペクトルが得られるかを予想したものです。

残念ながら、ASTRO-Hでペルセウス座銀河団を観測した時、まだ検出器の準備が整う前だったため、エネルギーの低いX線の観測はかないませんでした。

開発中のXRISM衛星では、ASTRO-Hが観測できなかった低いエネルギー帯のスペクトルも得、酸素やネオン、マグネシウムといった元素の量を測定する予定です。これらの元素は、主に、寿命の短い重い星の最期の超新星爆発(重力崩壊型)によって合成されたと考えられています。したがって、元素の量から過去に存在した重い星の総量を推定することができます。

つまり銀河団をXRISM衛星により観測することによって、すでに死んでしまった星の名残を見ることができるのです。

では、銀河の中にある星で合成された元素は、どのように銀河団空間に飛び出すことができたのでしょうか。銀河の恒星は膨大な量のダークマターの重力によって銀河の中に閉じ込められています。この重力を振り切って銀河の外に飛び出すのは簡単なことではありません。

図3:スターバースト銀河M82の画像 
黄緑:可視光(Hubble宇宙望遠鏡) 赤:赤外(Spitzer宇宙望遠鏡) 青:X線(ChandraX線天文衛星)。
https://chandra.harvard.edu/photo/2006/m82/
Credit: X-ray: NASA/CXC/JHU/D.Strickland;
Optical: NASA/ESA/STScI/AURA/The Hubble Heritage Team;
IR: NASA/JPL-Caltech/Univ. of AZ/C. Engelbracht


図3は大量の新しい星が今形成されている銀河M82の画像です。黄緑色の恒星の円盤と垂直方向に赤外線やX線を放射するガスが吹き出しているように見えます。

新しい星が多く誕生すると、重い星も多数生まれます。寿命の短いこれらの重い星は、すぐに重力崩壊型超新星爆発を起こし、星と星の間にある冷たいガスを加熱します。

その結果、十分に高温になったガスは、銀河の重力を飛び出せるエネルギーを得て、銀河の外まで銀河風として吹き出すと考えられています。

こうして銀河の中にガスがなくなってしまえば、新しい星を生み出すこともできなくなってしまいます。つまり、この銀河風という現象は、銀河の進化とも密接にかかわっているのです。

XRISM衛星ではX線を放射する高温ガスの速度を測定することができると期待しています。高温ガスの速度が測定できれば、超新星で加熱されたガスが本当に銀河の重力を振り切って銀河の外へ飛び出していけるのか調べることができます。

このようにXRISM衛星で得られるデータによって、超新星爆発の直接の名残である超新星残骸(note #02-01)で元素がどのように合成され、星間空間にどのようにばらまかれ、銀河を抜け出し、銀河団までどのように広がったのかを調べることができます。

銀河を構成する星によって合成された元素は、銀河団の外にまで飛び出しているのかもしれません。XRISM衛星で解き明かすことが楽しみです。

(執筆:松下恭子)