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「荒野のタグ・スリンガー」#2

【前回】

朽ちかけた看板に薄く残った文字は「SALOON B…」と読める。
『SALOONか。あたりにはなんにもないぜ』
「そうでもない。よく見てみろ、住居や村の跡がある」

俺はサイモンに注意を促す。この電子馬は、喋れる上に足は早いんだが、どうも野生の直感とか観察力に欠けるところがある。

『へっ! 電子遺跡か、珍しくもない。井戸の残り水ぐらいはあるかもな!』
「いや……息遣いを感じないか。この遺跡はまだ生きている。掘り起こせるぞ」

サイモンから降り、注意深く観察する。地面に耳を当てる。
スコップを出してくれ」
『おうよ。じゃあ、ここが宿だな』
サイモンが前足を上げると、01が集まり、人を殴り殺せるサイズのスコップ……ショベルが出現した。俺はそれを手に取り、地面のある一点を掘り始める。

ZAG!ZAG!ZAG! ZAG!ZAG!ZAG! ZAG!ZAG!ZAG!

強い日差しに照らされる荒野だ。土が硬い。汗が噴き出す。

電子スコップは、過去の情報を掘り起こす。埋もれたミームを現世に蘇らせる。たまにひどいのを―――こないだは巨大なサンドワームを呼び起こしちまって大変だった―――掘り当てるが、慎重にやればいい。

ZAG!ZAG!ZAG! ZAG!ZAG!ZAG! ZAG!ZAG!ZAG!

次第次第に、サルーンが掘り起こされ、地上に現れる。ところどころ欠けたところはあるが、滅んでからそう長い時間は経っていない。

ZAG!ZAG!ZAG! ZAG!ZAG!ZAG! ZAG!ZAG!ZAG!

「やれやれ、肉体労働だ。水と肉と、酒がいるな。おまえには電子飼料が」
『あるといいねえ』

過去の姿が、少しずつ再現されて来る。ドアを開けて、店主が姿を見せる。こちらを見て驚いた。日はだいぶ傾いている。
「これで、今夜の宿にはなるな。やれやれ」
『お疲れ。「アーカイバー」に報告して、登録申請しといたぜ』

このweb荒野には、強大な「アーカイバー(記録保存官)」の目もあまり向かない。辺境の地だからだ。俺はこうやって電子遺跡類を掘り出し、宝探しをして生活している。あてどない旅だ。お宝を「アーカイバー」に送れば、多少の支援はある。今のところは。

ハッシュタグを刻んだ掌をマスターに見せる。
「『アーカイバー』から派遣された、タグ・スリンガーのファンクルだ。この電子馬はサイモン。この電子遺跡を掘り起こした。修復代として、宿を貸してくれ」
『よろしくね』
「は……はい!」

さて、俺たちがこんな辺境くんだりまで来たのにはわけがある。お宝の話を聞きつけたからだ。

続く

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