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性格や才能ではない、脳のはたらき。『戦争する脳』計見一雄


サブタイトルは「破局への病理」。
著者は精神科医の第一人者で、お父様が旧海軍主計少佐。だから著者は、小さい頃から軍隊への関心をもっていたとか。本書は、医療の現場と脳科学の専門知識から、軍隊と戦争について語った本で、知識の宝庫。専門的な難しい話のはずなのに、文章がとてもうまいのでサクサク読んでしまいます。

例えば、ヒトの脳は、都合の悪い記憶は出してくれない。そして、愛憎なしの合理的な判断はできない。このあたり、すごくよく理解できます。だからこそ慎重な判断が必要で、脳は基本的に行動にブレーキをかける役割を果たす。制御可能な範囲であれば、攻撃的な行動をとれる人は好ましい。でも、軍隊や会社などを率いるヒトがブレーキのかからない躁的な人物だった場合、その集団は奈落の底へ突き進んでしまう。

ヒトは、生まれながらに愛着欲求攻撃欲求を持つという話もおもしろかった。この欲求はそのままでは使い道がなく、精製されてはじめて利用可能となる。ヒトの欲望は原油のようなもの。洗練されないとプラスに働かない。洗練される過程が発達段階というわけ。

ヒトは成長する過程で、自己抑制が可能になり、社会に適応した「立ち居振る舞い」ができるようになる。自己抑制ができるようになるには、周囲のヒトとの信頼関係が必要になる。このあたり、集団をつくって、社会で生きるヒトならでは。適当な発達段階を経られなかったらどうなるか。自分をコントロールできない、困った大人になる。

ヒトの脳は宇宙で一番良くできた思考機械ですが、著者は重大な弱点が3つあるといいます。

 1つは、一日7~8時間の睡眠をとらないとちゃんと働かないこと。48時間完全に断眠した脳は全くあてにならない。
 2番目の欠点というか取説上の注意点とでもいうべき特徴は、連続して単独運転させるなという点である。…1つだけで浮遊している脳はしばらくすると、勝手な空想・妄想、やがて幻想のとりことなる。
 3番目は、脳だけじゃ考えることも、感じる事もできないという、当たり前の真実。

何かが起きたとき、ヒトの脳は本能的にその人を守るために、最悪の事態を想定する。だから、連続的な単独運転は危険。車の運転と同じで、誰かと一緒なら違う視点が得られ、安全性はぐっと高まるとか。睡眠とコミュニケーション。大事にします。



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