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ウランバートルの女子大学生物語。『セールス・ガールの考現学』モンゴル、2021年

去年、大阪の民族博物館の特別展で見た、100年前のモンゴルと現代のモンゴル。その現代の部分だけをポップでかわいく映画にした感じ。アジア映画が好きな人にはおすすめだし、いわゆる草原の「モンゴル」しか知らない人は、心地よく、いい方向に裏切られます。

舞台はモンゴルの首都ウランバートル。サロールは、親の期待に応えて原子力工学を専攻する大学生。でも、本当は絵が好きで、授業中も帰宅後も絵を描いてばかりいます。そんなサロールは、ある日知人に頼まれて、アダルトショップのアルバイトをすることになります。

アダルトショップのオーナーはカティアという中年女性。いい家に住んで、お金もあるけれど、仕事は不明。毎日、お店の売上金を持って彼女を訪ねていくうちに、サロールは彼女と親しくなり、セックスや人生についての経験談を聞くようになります。

カティアに連れられてレストランでおいしい食事をしたり、ナイスミドルなおじさまたちとのアウトドアに連れて行かれたり、大人のおもちゃ配達途中で売春摘発に巻き込まれたり、草原をアウディで飛ばして監獄に大人のおもちゃを差し入れしたり。マジメ一辺倒だった彼女は、カティアと一緒に大人の世界を垣間見ることになります。

それと同時に、最初はいかにもダサいサロールが、だんだんおしゃれになって、かわいくなって、自分をおもてに出せるようになっていきます。これが、音楽やウランバートルの街の風景とうまく重ねられて、おしゃれとダサいの間ギリギリな感じで魅力的なんです。

猫、犬、ロシア語、草原、バイアグラ、タバコ、大人のおもちゃ…….いろんな脇役が「くすっ」と笑わせてくれて、ストーリーのスパイスにもなっています。カティアがバレリーナだった頃の写真や、結婚式らしき写真、彼女が大事にしているピンク・フロイドのLP。全部がいわく有りげだけれど、説明がほとんどないのも想像を掻き立てます。

この映画に、合計3度、しかも唐突に登場するモンゴルの歌手のデゥルグーン・バヤスガランさん。なのに、全然違和感がないのが楽しいです。去年の民博の展示でも、現代モンゴルの音楽がかなり注目されているって説明があったのを思い出しました。

カティアとの出会いと別れ。彼女のおかげで、自分が本当にやりたいことを両親に打ち明けることができたサロール。この映画は、内容を詳しく説明しようとすると魅力が薄れてしまう類のものだと思うので、とりあえず、ポスターや予告動画を見て「よさそうかな?」と思った方は、ぜひ映画館でみてみてください。

邦題:セールス・ガールの考現学(原題:Khudaldagch ohin)
監督:ジャンチブドルジ・センゲドルジ
主演:バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル、エンフトール・オィドブジャムツほか
製作:モンゴル(2021年)123分


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