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登場人物たちの成長が見ごたえあり。『乱鴉の饗宴』下(氷と炎の歌4)ジョージ・R・R・マーティン


この巻でもデナーリス、ヴァリスは出てきません。ティリオンはジェイミーの回想や会話の中、ジョンもサムやマイスターなんかの会話の中でだけ登場します。アリアの出番は少しだけですが、着実に修行しているようです。ただ、内容は原作とはだいぶ違う感じ。ドラマでは敵を娼館で見つけて殺して視力を奪われるけれど、原作では黒衣の脱走者を殺して視力を奪われます。

ジェイミーとサーセイの関係は、齟齬から反発へと変化していく描写が見事です。サーセイの政治センスのなさ、自分が操れる人、色香に惑わされてくれる人だけで周りを固める様子に危機感を抱くジェイミー。能力ある者を息子トメンの周りに置こうとしてサーセイにアドバイスすのですが、サーセイはジェイミーから「王の盾」の指揮を奪い、戦の指揮を任せ、王都から遠ざけます。

周囲が自分の言うことをきかないのは、命令の内容が悪いからではなく、自分が男ではないからだと思っているサーセイ。自分に従順な親衛隊を求めます。目をつけたのは、戦乱で貧困者が増大し、行き場のない人々が王都に流れ込んで大勢力になった宗教組織「雀」。彼らが300年前に禁じられた武装を許し、大昔の予言で「自分の総てを奪う、自分より若くて美しい女」をマージョリーだと確信して罠にかけます。でも、実は宗教者たちのほうが有能で、サーセイも捉えられるオチはドラマと同じですね。

ちなみにマージョリーの兄ロラスの男色は、原作では匂わされる程度。でも、あまり賢くない設定はドラマと同じです。サーセイの罠にうまくひっかかって自分から戦争に出ていって、しなくていい大怪我をする。マージョリーは、これでサーセイから自分を守れなくなってしまいます。

さて、王城から出たジェイミーは、いろんなことを知ります。例えば、王都の民衆がサーセイを全く指示していないこと。サーセイを見限った叔父の事情。いとこのランセルの事情、つまり彼がサーセイとの浮気したこと。そして、王殺しの罪の意識にも苛まれてランセルが「雀」の聖兵になり、自分の城を放棄したいと懺悔したことなど。

ジェイミーは、自分が王都を離れた後のサーセイの愚策の数々を旅先で聞きます。そして、かつて乙女だと思っていたサーセイは実は「異客」(原文は何だろう?エイリアン?)で、本当の顔を自分から隠していたこと、自分がそれに気づかなかったことを知ります。

サーセイが、自分の要求を無条件に聞いてくれる騎士が欲しいだけだったことに気づいたジェイミー。片手になって、元騎士で首切り役人のサー・イリーンと剣の練習することは、騎士としての自分を取り戻すためみたいに思えます。サーセイが「雀」に捉えられ、「私を助けて。救って、かつてなく、あなたが必要。愛してる」といまさらな手紙を送ってきたとき、ジェイミーはこれを燃やすことができました。さて、今後、原作の彼はどう出るのか?

原作と違って、うれしいのは、意外にできる男のエドミュア(キャトリンの弟)。娘や子供を人質にとられ、ジェイミーのすすめに従って開城したけど、人知れずブラックフィッシュを逃すことに成功します。このあたり、ジェイミーはまだ修行中の印象。

過去にもロブに捕まって人質になっていたし、ジェイミー個人は闘うのは強くても、軍全体の指揮とか、戦略レベルを狡猾に実行するには慣れていない感じです。やはり政治については、経験もある父のタイウィンが遥かに上。ちなみに彼の叔母は、一族で一番タイウィンに似ているのはティリオンだと言います。おもしろいですね

一方のサンサは賢く振る舞い、谷で居場所をつくっていきます。ベイリッシュは、谷の有力株の青年とサンサを婚約させる計画。彼も、ドラマより原作のほうが賢く慎重です。ベイリッシュは、自分が谷で嫌われていて、義理の息子のロビンも疎まれていることを知っています。だから、サンサがうまく未亡人になれば(ティリオンが死ねば)、谷の有望株と北の王の血筋を結びつけて、自分も後ろ盾として実力を得る未来を描いているのです。

ブライエニーの旅も続きます。わずかな手がかりはハウンドだけなので、彼を探してブライエニーは司祭たちと旅をします。ドラマでは、この部分をハウンドがやっていました。

旅の途中でハウンドが死んだこと、そして彼と一緒だったのはアリアだったことをブライエニーは知ります。元騎士の聖職者に故郷へ帰れと言われ、自分が「まっとうな娘」ではないと涙するブライエニー。最後までキャトリンとの誓いを守ろうとした、その先にまさかキャトリンが生きていて、ロブの敵として「ジェイミーを殺せ」と迫られるなんて!? 続きは一体どうなるの!?!?




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