見出し画像

フランスっぽさがすごい。映画『アプローズ、アプローズ 囚人たちの大舞台』フランス、2020年。

日本で上映されるフランス映画って、やっぱり芸術関連が多い気がします。オーケストラを学校教育に取り入れたプログラムの話『オーケストラ・クラス』とか、歌で人生を切り開く、『エール!』とか。

今回の話は、売れない役者エチエンヌが刑務所のプログラムに演劇をねじ込んで、有名な演劇『ゴドーを待ちながら』を演じるお話。最初はちょっとした代役だったエチエンヌ。でも、寓話のお芝居を囚人たちに練習させる中で、囚人たちが実際にリアリティある芝居ができるんじゃないかと思いついて、やってみたら大成功。

『ゴドーを待ちながら』という不条理劇の有名なお話。待っても、待ってもゴドーは来ないお話を、面会人や刑期の終わりを待つ囚人たちが演じます。フランスらしく、多国籍で、一癖も二癖もある囚人たち。いつの間にかプロンプターになっているロシア人清掃夫。妙な結束力が生まれます。

最初は1回だけの公演のはずだったのに、トントン拍子に地方公演が決まって、最後にはパリの大劇場で上演する話が舞い込みます。エチエンヌは天にも昇る心地。なにせ、売れない役者から、一躍時の人になって、今までの劣等感が全て解消されるのです。最初は反対していた刑務所所長も、最後には全力で応援してくれるようになります。

けれど、囚人たちも一筋縄ではいきません。これが道徳のお話なら、演劇の楽しさに目覚めて、まじめで模範的な囚人になるストーリー。でも、この映画では、いくら外の世界の劇場で喝采を浴びても、刑務所に帰ってくれば花束やプレゼントは没収されて、身体検査を受けて、不自由な囚人に逆戻り。その落差は自尊心を傷つけます。

舞台を監督するエチエンヌのテンションが最高に盛り上がり、出演する囚人たちのストレスがマックスになるとき、パリの立派な大劇場の幕があがります。この物語の結末は、さすがフランス! 自由と芸術の国らしいと思わせられました。でも、このお話、1985年にスウェーデンで起きた実話がベースなのだとか。二度びっくり。それに対する『ゴドーを待ちながら』の原作者のコメントも秀逸。

久しぶりに、予定調和でない、芸術っぽいラストの映画を見れてよかったです。フランス語を勉強しはじめたばかりの娘も、いくつか単語やセリフが聞き取れたようで喜んでいました。日本的な道徳とは真逆のストーリーなので、好みが分かれると思いますが、私は好きな作品です。

邦題:アプローズ、アプローズ 囚人たちの大舞台(原題:Un triomphe)
監督:エマニュエル・クールコル
主演:カド・メラッド、ダビッド・アヤラ、ラミネ・ソシコ、ソフィアン・カーム、ピエール・ロッタンほか
制作:フランス(2020年)105分

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?