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西遊記の旅の本当の話。『玄奘三蔵 史実西遊記』前嶋信次


『西遊記』でおなじみの三蔵法師。三蔵法師といえば、日本では玄奘のことだと思っている人も多いけれど、三蔵法師は何人もいます。仏教の教理を説いた経蔵、仏教教団の規律を定めた律蔵、後世の仏教学者が作った経典に関する論蔵。この三つの「」(仏教経典)に精通した僧、それが「三蔵法師」という高僧への尊称なのだそうです。

前嶋先生のこの本は、『大慈恩寺三蔵法師伝』、『大唐西域記』、『続高僧伝』をもとにして、国内外の研究もカバーして、東西交流史・アラビア史の専門家の視点から、玄奘という僧侶の一生を書いたものだそうです。

新書の形式なので、ページが充分あるわけじゃないし、一般向けなので、できるかぎり読みやすい文章をめざす必要があったせいか、多少、単調な感じも否めないではないです。

でも、これから詳しく玄奘が書いた『大唐西域記』読みたいと思っている人には格好の入門書かもしれません。なんたって、この本の初版は1952年。昭和でいうと、27年。つまり、戦前の研究の成果がこの1冊につまっているということです。

多分、この本の出版から50年以上たった今では、研究レベルはものすごくあがっていると思います。でも、実際には玄奘とその旅についての読みやすい入門書が少ないので、やっぱり読んでおいて損がない本だと思います。

私は、諏訪緑『玄奘西域記』を思い出しながら、『大唐西域記』のどこがどう引用され、アレンジされているのかを楽しみながら読めました。一般の中国史の本では、中国の悪女の代表として書かれる武則天(則天武公)が、こちらではさりげなく玄奘の保護者として登場するのも、おもしろく読めました。

中野美代子『三蔵法師』もそれなりに読みやすいと思いますが、中野先生は中国文学の研究者。玄奘とか、薬師寺、法相宗について専門の先生とお話する機会があったときにうかがうと、「仏教の専門家は、中野先生みたいに書きません」とのこと。

いろいろ読むと、多方面から知ることができておもしろいようです。坂井田夕起子『誰も知らない『西遊記』ー玄奘三蔵の遺骨をめぐる東アジア戦後史』もおすすめです。


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