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フランス映画らしすぎる。『潜水服は蝶の夢を見る』アメリカ・イギリス、2007年


『ファンタジウム』という漫画に出てきた映画。言語療法士がメインの映画…だと思っていたら、少し違いました。フランスの有名な雑誌『ELLE』の編集長だったジャン・ドーが脳梗塞を起こし、一命はとりとめるも、身体で動くのは左眼と耳だけになってしまうお話。見えるし、聞ける、脳も無事。でも、しゃべれないし、手もうごかせない。

仕事もプライベートも絶頂期だったジャン・ドー。日本の映画で医療モノだと、プライド高くて頑固な患者が献身的な言語療法士と出会って(もしくは、浮気を反省して奥さんの愛を確認して)、二人三脚で偉業をなしとげる…的な道徳的な映画になりがちだけど、これはフランス映画。

ジャン・ドーは病気後も自分の個性をまげず、美人(医療従事者や編集者)と奥さんと子どもたち、素敵な景色や食べ物に囲まれる主人公の映画でした。奥さんの前でも相変わらず、恋人に愛を伝える。驚きました。フランス人らしくて、単純な感動モノじゃないところが好きです。

死んだも同然と思ったジャン・ドーに、言語療法士が文字を伝える方法を教えてくれる。フランス語でE、S、A、R、I、N、T、U、L、O…とアルファベットを読んでいって、自分のいいたい文字が読まれたら1回まばたきする。間違ったら2回。単語が1つ終っても2回瞬き。1単語で何回瞬きが必要なんだと、健常者ならため息がでちゃいます。気が遠くなる。

彼とその支援者たちが何ヶ月もかけて完成した『潜水服と蝶』のキャッチコピーは20万回の瞬きで綴った…云々。本人もその支援者も、この気が遠くなりそうな作業をやったんだと思うと、ただただ尊敬します。支援してくれる人たちの粘り強さがあってこそだし、有名雑誌の編集長でなければ不可能だったんじゃないかと思うのは、日本に住んでいる日本人な感想なのかも。

原題は『潜水服と蝶』。詩的な日本語は翻訳者がつけたものだとか。なんだか、芭蕉の句を思い出します。

旅に病んで夢は野山をかけまわる   芭蕉

原作と映画は少し雰囲気が違うようなので、そちらも読んでみたいです。

邦題:潜水服は蝶の夢を見る(原題:Le Scaphandre et le Papillon/ The Diving Bell and the Butterfly)
監督:ジュリアン・シュナーベル
主演:マチュー・アマルリック、エマニュエル・セニエほか
製作:フランス・アメリカ(2007年)112分


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