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「目に見えるモノづくりを」。アウトドアブランドを展開する町工場が歩んだ軌跡と信条

【Create New Market】Episode.18

日頃表舞台に立つ機会が少ない製造業が、知恵と技術を凝縮して生み出した商品やサービスによって思いがけず注目の的となることがあります。
どんなきっかけで作り出し、どんな思いで世の中に送り出したのか。
1つ1つの商品が世に出るまでの舞台裏を覗くと、かけがえのないストーリーが隠されています。

今回は、(株)丸山ステンレス工業(熊本県山鹿市)が展開するアウトドアブランドにまつわるエピソードに着目しました。
自分たちの技術力を形あるものとして示すために始めた取り組みは、紆余曲折を経ながらも商品としての独自性とタイミングが重なることで広がり続けていくことなります。



【Introduction】ステンレス一筋で培ったモノづくりの系譜

熊本県北部の内陸に位置する山鹿市。
温泉や伝統工芸品の山鹿灯籠などで知られるこの街で、丸山ステンレス工業は1973年の創業以来、ステンレスのシートメタル加工によるモノづくりを展開してきました。

約半世紀にわたるモノづくりは厨房機器や建築関連で使われる手すりなどの構造物を中心に広げ、時代を追うごとに加工品の主体を半導体製造機器の関連部品や食品関連のタンクなどに変化させながら進んできました。
厚さ0.1mmの薄板から12mmの厚板までの加工に幅広く対応し、3つの建屋を持つ製造現場では切断、曲げ、溶接などの技術を駆使しながら機械加工と職人技の融合によるモノづくりを展開しています。


【STEP.1】長年抱き続けた悩みが発端となった取り組み

機械加工による効率性とともに手仕事による手間も惜しまない製造現場

創業以来、山鹿の地に根を下ろして展開してきた丸山ステンレス工業。
長年の実績によって業界内での信用を高めてきた一方、代表取締役の丸山良博さんは「自分たちの仕事が地域の人や従業員の家族に知ってもらう機会がない」との思いを抱き続けてきました。

長年抱えてきた漠然とした悩みに対し、「目に見えるモノづくり」として2018年に始めたのが個人向け商品の開発でした。
それまでスポットでのオーダーに応えて商品を手がけたことがありますが、本腰を入れて取り組むのはこの時が初めて。
丸山さんは2年後に東京で開かれる展示会への出展を目標に掲げますが、開発メンバーの1人として声をかけられた品質保証部の野中博光さんは、「また社長がエライことを言い始めたと思った」と当時を振り返って笑います。

そんな形で取り組みが始まってしばらく経った頃、ある書籍との出会いがその後の展開に影響を及ぼします。
その書籍は、企業の広告デザインや商品開発のプロデュースなどを手がける金谷勉さんが中小企業による商品開発の事例に関して著したもの。
「自分たちが持っている技術を生かせるのでは」と感じた丸山さんは、神戸で開かれる金谷さんのセミナーに飛び込みで参加して会社に足を運んでもらうように依頼しました。


【STEP.2】「自分たちに身近な存在」を追い求めた商品開発

肉厚なステンレス板を使って加工した最初の試作品

その後、実際に金谷さんのデザイン会社の人たちが丸山ステンレス工業を訪れて現場を視察することになります。
自分たちが当たり前と思っていた技術に対して関心を示す一行の姿を目にして驚くとともに、手ごたえを感じた丸山さんと野中さん。
この時期から共同でブランド展開への動きを進め、会社の強みや商品化に向けた自分たちの想いなどの洗い出しを経て、「人による一手間」をコンセプトとして定めました。

ただ、コンセプトを基に名刺入れやコップ、ワインクーラーなどの試作品を作る中でなかなかピンとくるものに行き着きません。
「身近な存在でないものを試作していたことも悩む原因になっていた」と丸山さんは語ります。

そうした流れを経て自分たちの身近なものとして辿り着いたのが、焚き火台をはじめとしたアウトドア商品です。
自然豊かな山鹿の地で、バーベキューなどを通じてアウトドアに対する身近さを感じる従業員が多かったことが方向性を定める要因となりました。
さらに、熊本地震の発生から2~3年の時期で「万が一の際に暖を取るために使ってもらえたら」(丸山さん)との想いも焚き火台を選んだ背景に込められています。

その上で競合品を調べてカテゴライズすると、上級者向けの焚き火台はあるものの、ライトユーザー向けのものが出回っていないことが判明します。
そこで、「アウトドアの趣味を始めようとする人」をターゲットとして想定した手に取りやすさを意識して試作を進めることにしました。

ただ、最初の試作品は、想定したターゲットが手に取りそうなものとはかけ離れたものになっていました。
「頑丈に作ることを求め過ぎた」(野中さん)ことで重量は約7kgに。
一般的な焚き火台と変わらない大きさである一方、厚みのあるステンレスを使って加工したことで片手で持ちきれない重さとなったことが原因でした。


【STEP.3】浮き彫りとなった課題から辿り着いた独自の焚き火台

手軽さや軽量化を意識して商品化に至った「Bonfire Grill」(丸山ステンレス工業提供)

一方で最初の試作品によって課題が浮き彫りになったことで、改良へのポイントも明白になりました。
その後の試作ではステンレスの肉厚を半分以下に抑えて軽量化を図り、バスケットのように持ち運べて小型で取っ手が付けられるボックス型の形状にアレンジして進めることになります。
合わせて燃焼テストを重ね、薄板のステンレスでも安心して使えるように安全性を確かめていきました。

こうして、約半年を経て現在まで続く「STEN FLAME」ブランドの最初の商品となる「Bonfire Grill」が完成します。
グリル台としても使える焚き火台は重量を約1.3kgに抑え、県花である「りんどう」や伝統的工芸品の「手まり」「竹かご」といった熊本にちなんだ柄を側面に施すことで身近さも反映させました。

完成したBonfire Grillは、2020年2月に当初の目標として定めていた展示会に出展させることになります。
どんなユーザーが反応を見せるか未知数の状況で、ブースには女性を中心に多くの人々が足を止めて関心を示してきました。

「想定していたよりも幅広い層が興味を持って驚いた」と語る丸山さん。
この展示会で得た来場者のコメントが、その後の商品展開に影響を与えることになります。


【STEP.4】追い風が続いて広がった商品レパートリー

側面の構造を生かしてランプカバーとしても使われている(丸山ステンレス工業提供)

展示会でのお披露目を経て、本格的に販売を始めるタイミングでBonfire Grillにとって追い風となる出来事が次々と訪れます。

展示会から約1か月後となる2020年3月には共同で企画を進めてきたデザイン会社が全国ネットの経済番組で取り上げられ、Bonfire Grillに関する取り組みも紹介されたことで注目を集めることになります。
ほぼ同じタイミングで出品したクラウドファンディングでは、番組の反響を受ける形で目標金額を大幅に上回って約130台を販売しました。
さらに、コロナ禍によってソロキャンプがブームとなったことで1人用の焚き火台として使い勝手がいいBonfire Grillは、テレビや新聞、雑誌の各媒体で次々と取り上げられました。

こうした流れに合わせ、自社でオンラインストアを立ち上げて商品レパートリーを増やすことになります。
その際に生きたのが、展示会の出展時に耳にした来場者の声でした。

第2弾となる「STEN FLAME LIGHT」は、「嵩張らないようにできないか」との声を受けて焚き火台を組み立て式にしてより小型にしています。
一方で第3弾の「STEN FLAME GLAMP」は、本格的に焚き火台やグリル台として活用したい人に向けて円筒状の大きなサイズにアレンジしました。
他にも薪ばさみやプレート掴みなど付属品も充実させ、STEN FLAMEブランドの商品注文数は累計で1000点を超えるまでになっています。

2023年に熊本市にオープンしたばかりのリゾートホテルのイベントではライティング器具としてSTEN FLAMEの商品が使われるなど、最近ではインテリアとしても活用の幅が広がってきました。
当初、「目に見えるモノづくり」を目指して進めたSTEN FLAMEの取り組みは、地域の人々や従業員の家族に留まらず丸山さんたちの想像を超えた形を示しながらさらなる進化を遂げようとしています。


【まとめ】ブランドの持続化に向けて大切にする信条

組み立て式の焚き火台を応用して商品化したコーヒードリッパー(丸山ステンレス工業提供)

ブランド立ち上げから約4年が経ち、丸山ステンレス工業を表すアイデンティティの1つとなったSTEN FLAME。
ブランドを通じて会社の認知度が高まり、「新たな引き合いが来るきっかけになった」(野中さん)と本業への波及効果も実感するようになります。

丸山さんのもとには講演依頼が舞い込み、東京での講演をきっかけに知り合ったコーヒーショップの代表とともにSTEN FLAMEの特色を生かす形でコーヒードリッパーの商品化にも至りました。
以前と比べて新商品を送り出すペースは落ち着きましたが、新たなコラボレーションによる商品開発に向けた計画も進み始めています。

そうした中、STEN FLAMEの取り組みを通じて丸山さんたちが大切にしているのは「地道さ」です。
ブランドを持続させるには、イベントへの継続的な出展など労力がかかる取り組みを進めていくことも欠かせません。
認知度を高めるためにさまざまな仕掛けが求められますが、「これからも地域の役に立つモノづくりを進めていきたい」と意気込む丸山さん。
自分たちの技術力を生かした目に見えるモノづくりを通じ、今後もさまざまな人々に向けて火を灯し続けようしてします。



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