うちはしまいこ

ことばと文章は生涯の友だちです。人生1冊目の本の記憶は、ディック・ブルーナの「ゆきのひ…

うちはしまいこ

ことばと文章は生涯の友だちです。人生1冊目の本の記憶は、ディック・ブルーナの「ゆきのひのうさこちゃん」。「辞書も愛読書」という活字中毒ライターが、仕事から自由になって文章づくりを本気で楽しむために、日々の想いをエッセイに綴ります。https://www.elsol-ad.com/

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  • スポーツコラム*ライティング

    スポーツライターに憧れた20代。いくつになっても夢に挑戦していたい。大好きなスポーツライティングをライフワークに育てるべく、様々なシーンに感じたストーリーをマイペースに書き綴ります。

  • 野球が好き

    息子の母校の野球部応援からNPB、さらに、大谷翔平選手を中心とするMLB日本人選手たちの活躍を祈る想いを、エッセイにしたためます。

  • #シロクマ文芸部エッセイ

    シロクマ文芸部に参加させていただいたエッセイ集のおまとめマガジンです

最近の記事

高校男子駅伝~地方の公立校が備える「地元力」【県立西脇工】全国制覇9度目への挑戦

京都・都大路の42.195キロを、7人の走者でつなぐ全国高校男子駅伝。47出場校の多くを私立の常連校が占める傾向にある中、公立校が激戦を繰り広げる地方大会も少なくない。駅伝王国・兵庫県もその一つだ。   その兵庫県に、市民から「コウギョウ」の愛称で親しまれる小さな県立高校がある。強豪校がひしめく県内で、全国大会出場33回、全国制覇8回を誇る駅伝の伝統校だ。 人口3万8千人足らずの静かな田舎町は、少子高齢化が進み、小中学校の統廃合がまもなく始まる。地場産業の景気も下降の一途を

    • ライブレポート:「ライブへ、おかえり」~12年の空白を埋めた母からのごほうび

      5月某日。 実に、12年ぶりに行ってきました。 彼のライブへ! デビュー35周年を迎える、福山雅治。 最近、ファンクラブメンバーといえども、ライブのチケットを手に入れるのは、かなりの競争率の高さ。 特に神戸公演は、ホールの規模がさほど大きくないため、毎回「激戦区」になる会場のひとつです。 半ば、あきらめモードで申し込みましたが、ラッキーなことに、参加の「お許し」をいただけました! 思うように育てきれない起業後の事業。 子どもの進学、母の看護に介護、告別式に1周忌、原

      • もう一度、世界へ ~ 復帰への525日、挑戦へのリスタート【柔道男子81kg級 藤原崇太郎(旭化成)】

        ■525日の苦闘を刻んだ銅メダル 主審の左手が上がった。 それを見届け畳の中央へ戻った藤原崇太郎は、静かに一礼をした。深々と下げた頭を上げた表情は、勝利を収めた選手とは思えないほど淡々としている。畳を下り、素早く会場を後にする足取りに喜びの気配はなく、その背中はどこか怒りさえ秘めているように見えた。 2024年5月11日。柔道グランドスラム・カザフスタン2024男子81kg級。ケガのため遠ざかっていた世界戦の畳に、藤原は戻ってきた。一回戦から順当に勝ち上がり準決勝に挑

        • 「本日発売」の雑誌を「本日」読めないまちに暮らすこと

          「すみません。今日発売の雑誌は、まだ棚に並んでいませんか?」 指折り数えて待っていた雑誌の発売日。 朝一番に、地元の書店が開くのを待って駆け込んだ。いつもはインターネットで予約をするのだが、久しぶりに店頭で買おうと思ったのだ。 どんどん消えていくまちの書店を、たとえわずかでも応援したいという気持ちだった。 ところが、いくら探してもお目当ての雑誌が見当たらない。 レジへ行き、店員さんに尋ねてみると、想定外の返事が返ってきた。 「あ~、一日遅れるから明日ですね」 遅れる?

        高校男子駅伝~地方の公立校が備える「地元力」【県立西脇工】全国制覇9度目への挑戦

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          それは神の“応援”だったのか

          真っ白なシャツに黒いインクが一滴、ポトリと落ちた。 小さな小さなそのシミは、少しずつ少しずつ広がっていった。 インクの濃度を、誰にも気づかれないほどの淡さに変えながら、静かに、ゆっくりとしたスピードで――。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 白かったはずのシャツが、人知れず淡いグレーに染められ始めていたことを知らされたのは、あまりにも突然のことだった。 彼が受けた衝撃の大きさは、想像するにあまりある。 心血を注いで闘い続けた6年間の努力の結晶は、すべてど

          それは神の“応援”だったのか

          消せない痛みが変えた過去

          「過去は未来で変えられる」 映画の中の好きなセリフだ。 後悔でしかなかった私自身の過去は、確かに、未来が変えてくれたのだ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 今シーズンも、いよいよプロ野球界に“春”がやってきた。 新たに入団した若い選手たちが、どんな活躍を見せてくれるのか、今から楽しみで仕方がない。 プロスポーツの世界において、第一線で活躍を続けるのは並大抵のことではない。毎年、たくさんの若い選手が入団する一方で、ひっそりと現役を引退し、フィールドを離れて舞台裏に活

          消せない痛みが変えた過去

          人生の歩き方

          「梅の花、うちの木にも咲いてるよ」 何年前のことだったか。 ある日の朝、仕事に向かう準備をしながら 「事務所の近所の公園では、もう咲き始めてたよ」と 梅の開花状況を報告する私に、母が半ばあきれて 返事を返してきたことがあった。 「え!?」と縁側まで走ってカーテンを開け、 ガラス障子越しに庭をのぞいてみると 確かに前栽の梅の木が、淡いピンクの小さな花を あちらこちらにつけている。 「うわぁ、玄関を開けたら目の前が梅の木なのに。 全然気づいてなかった」 どれだけ視野が狭

          野球の神様

          冬の色は、私にとって、雪や風、空、木々や花といった 景色を指すものではない。 今日、12月10日(現地時間12月9日)は 私の中に、新たな「冬の色」が加わった一日になった。 自分のための記録として、書き記しておこうと思う。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「野球の神様って、本当にいるんだ」 栗山前WBC監督の「翔平が自分で決めたことは、 野球の神様が応援してくれる」という言葉に 胸が震えたのは、11月の半ばだったか。 それからおよそ1カ月。

          『15歳からの初メール』【20文字小説:小牧幸助文学賞】

          「いつもありがと」 7文字の親孝行だった。 #小牧幸助文学賞 #シロクマ文芸部

          『15歳からの初メール』【20文字小説:小牧幸助文学賞】

          8年後の紅葉鳥

          「紅葉鳥(もみじどり)って知ってる?」 リビングで、やや小さめのクロッキー帳に 覆いかぶさるように背中を丸め、 もくもくと鉛筆を動かしている息子に尋ねてみた。 「何、それ?」 そうだよね、やっぱり知らないよね。 「鹿のことらしいよ。紅葉の季節に鳴く声が、 ちょっと寂しそうできれいなだからって、 鳥に例えてつけられた異称なんだって」 日本らしいなぁと、話し相手になってくれながら やっぱりクロッキー帳に向かい、鉛筆を動かし続けている。 そーっとのぞいてみると、細い細い

          8年後の紅葉鳥

          お父ちゃんのミルク珈琲

          珈琲との付き合いは結構長く、そして深い。 口にした最初の記憶は、おそらく5才くらい。 インスタントコーヒーに、砂糖と牛乳をたっぷり入れたミルク珈琲だ。 バターを塗ったトーストのかけらをそっと珈琲に浸し、 おやつを楽しむように、朝ごはんとして食べていたことを ほんのりと憶えている。 朝食はずっとパンだったこともあり、朝は必ず珈琲からはじまっていた。 ミルクと砂糖が入った白い珈琲が、いつしかブラック珈琲に 変わったけれど、試験勉強のお供も、受験勉強の眠気覚ましも、珈琲。 社

          お父ちゃんのミルク珈琲

          白球を彼と追え! 止まった心を動かした74日間

          “I'm finishing!” (俺が終わらせる!) 8回の投球を終え、戻ったダグアウトで発した言葉は、野球ファンの心を躍らせたセリフとして、瞬く間に世界を駆け抜けた。 7月27日(現地時間)、対デトロイトタイガース戦。9回裏2アウト。一瞬ひやりとしたセンターへのライナーは、外野手のグラブに美しく収まった。 “Shohei Ohtani goes all nine!” (大谷翔平が9イニングを投げぬいた!) アナウンサーのエキサイティングな声が響く中、メジャー初完投

          白球を彼と追え! 止まった心を動かした74日間

          バラードを歌うように文章を紡ごう

          「あ、この車は……」 ある日の夕暮れ。 仕事を終え、車を自宅へ走らせている途中、赤信号で、母が通っていたデイサービスの送迎車の後についた。 デイサービスとは、「通所介護」のこと。 宿泊をせず、自宅から日帰りで通う介護保険サービスのひとつだ。 お昼ご飯をいただいて、お風呂に入れていただき、レクリエーションなどで楽しい時間を提供していただける施設だ。 日本の唱歌や童謡が好きだった母は、体調のいい日は、CDに合わせ楽しそうに歌っていたそうだ。 朝8時40分、デイサービス

          バラードを歌うように文章を紡ごう

          さよなら、ふうか

          「やっぱり、犬はええなあ。もう一回だけ、飼いたいなあ」 ある日の朝、情報番組に登場した柴犬を見ながら、父がつぶやいた。 根っからの犬好き。しかも、チワワやトイプードル、ゴールデンレトリバーといった洋犬ではなく、柴犬や秋田犬など、昔から日本で飼われている犬たちがお好みだ。 「犬の方が長生きするかもね」と、ちょっと手厳しいセリフを吐く娘に、「そうやなあ」と、小さく笑い返してきた。 「ふうかも、最後は散歩に連れて行ってやれへんかったしなあ」 83歳になろうとする背中を、ひと

          さよなら、ふうか

          ライブレポート:そのステージは明日を照らす私たちの光

          2023年1月1日、ライブ会場では、開演を告げる場内アナウンスを待たずして、客席を埋めた人たちの間から、手拍子が起こり始めた。 コロナ禍の影響で、3年もの間、開催が見合わされてきた年末ライブ「冬の大感謝祭」。この日のステージは、6日間にわたったライブの締めくくりとなる、最終日だった。 ……と書いて、ふと思った。 いや、違う。6日間どころじゃない。 始まりの日は、もっと前。彼と一緒に、泣いて笑って、みんなが駆け抜けた日々は、もっとずっと長いものだった。 2020年3月

          ライブレポート:そのステージは明日を照らす私たちの光

          母の推し活

          「なんて、やさしい顔をした人なんやろうねえ」 ある日、母がテレビの前で、しみじみとつぶやいていた。 誰のことだろうとテレビに目をやると、 画面に映っていたのは、福山雅治だった (日頃は「フクヤマ」とカタカナで呼び捨てに。 ある種の照れ隠しだと自己分析中)。 ちょうど彼が、50歳を迎えようとしていたぐらいの 時期だったと記憶している。 「年齢と共に、穏やかな表情になっていく人だね」 そう母に声をかけ、私のイケメン好きは やっぱり遺伝なのだろうかと思いながら、 母の隣に