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高校男子駅伝~地方の公立校が備える「地元力」【県立西脇工】全国制覇9度目への挑戦


京都・都大路の42.195キロを、7人の走者でつなぐ全国高校男子駅伝。47出場校の多くを私立の常連校が占める傾向にある中、公立校が激戦を繰り広げる地方大会も少なくない。駅伝王国・兵庫県もその一つだ。
 
その兵庫県に、市民から「コウギョウ」の愛称で親しまれる小さな県立高校がある。強豪校がひしめく県内で、全国大会出場33回、全国制覇8回を誇る駅伝の伝統校だ。

人口3万8千人足らずの静かな田舎町は、少子高齢化が進み、小中学校の統廃合がまもなく始まる。地場産業の景気も下降の一途を辿る中、地元出身の生徒たちが躍動する姿は、まちの楽しみであり、誇りでもある。

2023年11月。
74回大会の代表校を決める県大会に、今年もコウギョウはいた。地区大会49連覇。毎年、優勝候補の一角に挙げられる西脇工業高校だ。

しかし、終わってみれば結果は3位。西脇工を抑え、全国大会出場を勝ち取ったのは須磨学園だった。2009年に都大路への切符を西脇工から初めてもぎ取って以来、ライバル校としてしのぎを削ってきた。

3年ぶり8回目の出場を決めた須磨学園の原動力は、エースの折田壮太(3年)だ。全国大会本番のレースでは、評判に違わぬ快走を見せ、日本人選手最高タイ記録となる28分48秒で1区区間賞を獲得。チームも、学園史上、過去最高となる4位入賞を果たした。

印象に残ったのは、レース前後の2度のインタビューで、折田が2度とも発した言葉だった。

「高校最後の3年目、この舞台に“やっと”立てました」

世代最速・最高ランナーと評されてきた折田をして「やっと」と言わしめたのは、言わずもがな西脇工だ。

前回の都大路では、烏丸通の沿道を埋める観衆の中でレースを見詰めていた折田に、西脇工のエース長嶋幸宝(現旭化成)は、第1中継所にトップで飛び込んでいく自分の背中を見せつけた。

今大会は、その長嶋をしのぐ走りで烏丸通を駆け抜けた折田。大会終了後、「沿道の仲間からの声掛けが自信になった」と、チームメイトとつかんだ好結果に笑顔を見せた。

一方、県大会で涙をのんだ西脇工の選手たちは、声援に応えきれなかった結果にも、何ら変わることのない地元市民の応援に、感謝の言葉を口にしていた。

市民にとって「コウギョウ」の生徒は、地域みんなの子どもだ。勝っても勝てなくても、生徒たちを見守る温かなまなざしがまちに溶け込み、“日常”として息づいていること、それが知らず知らずのうちに、自分たちの大きな支えになっていることを、生徒たちも肌で感じているからだろう。

地域に根付く応援は、全国から選手が集まる私立校とは一味違う、地方の公立校ならではのもの。全国大会への出場校が入れ替わる激戦区で、勝ち抜くためのエネルギー、いわば「地元力」と呼ぶべき力だ。

再び始まる都大路への挑戦に向け、きっと来年も、西脇工と須磨学園との間では、熱戦が繰り広げられることだろう。

し烈なせめぎあいを、コウギョウは「地元力」で勝ち切れるか。闘いは始まっている。 

(終)


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*2023年12月に執筆したコラム、記事内のデータも当時のものです。


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