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#シロクマ文芸部エッセイ

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シロクマ文芸部に参加させていただいたエッセイ集のおまとめマガジンです
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記事一覧

人生の歩き方

「梅の花、うちの木にも咲いてるよ」 何年前のことだったか。 ある日の朝、仕事に向かう準備をしながら 「事務所の近所の公園では、もう咲き始めてたよ」と 梅の開花状況を報告する私に、母が半ばあきれて 返事を返してきたことがあった。 「え!?」と縁側まで走ってカーテンを開け、 ガラス障子越しに庭をのぞいてみると 確かに前栽の梅の木が、淡いピンクの小さな花を あちらこちらにつけている。 「うわぁ、玄関を開けたら目の前が梅の木なのに。 全然気づいてなかった」 どれだけ視野が狭

野球の神様

冬の色は、私にとって、雪や風、空、木々や花といった 景色を指すものではない。 今日、12月10日(現地時間12月9日)は 私の中に、新たな「冬の色」が加わった一日になった。 自分のための記録として、書き記しておこうと思う。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「野球の神様って、本当にいるんだ」 栗山前WBC監督の「翔平が自分で決めたことは、 野球の神様が応援してくれる」という言葉に 胸が震えたのは、11月の半ばだったか。 それからおよそ1カ月。

『15歳からの初メール』【20文字小説:小牧幸助文学賞】

「いつもありがと」 7文字の親孝行だった。 #小牧幸助文学賞 #シロクマ文芸部

8年後の紅葉鳥

「紅葉鳥(もみじどり)って知ってる?」 リビングで、やや小さめのクロッキー帳に 覆いかぶさるように背中を丸め、 もくもくと鉛筆を動かしている息子に尋ねてみた。 「何、それ?」 そうだよね、やっぱり知らないよね。 「鹿のことらしいよ。紅葉の季節に鳴く声が、 ちょっと寂しそうできれいなだからって、 鳥に例えてつけられた異称なんだって」 日本らしいなぁと、話し相手になってくれながら やっぱりクロッキー帳に向かい、鉛筆を動かし続けている。 そーっとのぞいてみると、細い細い

お父ちゃんのミルク珈琲

珈琲との付き合いは結構長く、そして深い。 口にした最初の記憶は、おそらく5才くらい。 インスタントコーヒーに、砂糖と牛乳をたっぷり入れたミルク珈琲だ。 バターを塗ったトーストのかけらをそっと珈琲に浸し、 おやつを楽しむように、朝ごはんとして食べていたことを ほんのりと憶えている。 朝食はずっとパンだったこともあり、朝は必ず珈琲からはじまっていた。 ミルクと砂糖が入った白い珈琲が、いつしかブラック珈琲に 変わったけれど、試験勉強のお供も、受験勉強の眠気覚ましも、珈琲。 社