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野球の神様


冬の色は、私にとって、雪や風、空、木々や花といった
景色を指すものではない。

今日、12月10日(現地時間12月9日)は
私の中に、新たな「冬の色」が加わった一日になった。

自分のための記録として、書き記しておこうと思う。

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「野球の神様って、本当にいるんだ」

栗山前WBC監督の「翔平が自分で決めたことは、
野球の神様が応援してくれる」という言葉に
胸が震えたのは、11月の半ばだったか。

それからおよそ1カ月。
メジャーリーガー大谷翔平選手が
所属していたエンゼルスから
ドジャースへの移籍を正式に発表した一報に
真っ先に浮かんだのは、そんな想いだった。

ドジャースという名門球団。
7億ドル(日本円にして1,015億円)の契約金。

華やかな話題に耳目が集中するのは
致し方のないことだけれど
野球の神様の本当の采配は、そこじゃない。

それは、大谷選手の高校時代からつながっていたのだ。
きっと。

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「2020年ドジャースで世界一」

高校生の頃、自室の壁に貼られたシートの一行に
そんな夢が記されていた。

1年生の頃から、野球関係者の注目を集めていた中、
ケガによって思うようなプレーができない時期が続くと
多くのメディアやスカウトたちは、彼から距離を置いた。

そんな中、変わらずそっと寄り添っていたのが
当時のドジャースのスカウト担当者だったそうだ。
そんなドジャースの存在が、彼にメジャーへの挑戦を
決意させたという。

それでもドラフトでは、渡米は確実と思われていた中、
日本チームへの入団を決心した彼に、
残念ながらドジャースの想いは届かなかった。

今にして思えば、日本球界に進んだのは
野球の神様が、栗山監督(当時)という素晴らしい指導者を
彼にプレゼントするために、ちょっと「回り道」を
させたかったのだろう。

日本ハムで過ごした5年後、メジャーへの挑戦を表明した彼に
「なぜ今なんだ?」と、問いただした栗山監督。
この質問への彼の答えを、この度の移籍報道の後、
改めて聴き直し、胸が震えた。

ここからの舞台は、エンゼルスではダメだった。
ドジャースでなくては、いけなかったのだ。
その理由が、はっきりとわかった。

「成功するとか失敗するとか、関係ないんです。
自分たちよりもすごい選手が(メジャーに)いるなかで、
そこに向かって戦いにいくだけなんです。」

お金じゃない、人気や名声も眼中にない
プレッシャーも関係ない。
ただ自分のスキルを磨き、努力を重ねて戦い続けるのみ。

闘う相手が強ければ強いほど、大きければ大きいほど
ステージが高ければ高いほど、もっと彼は大きく強くなる。

それが、海を渡った理由だから。

渡米の時期、もしもドジャースがDH制のある
アメリカンリーグだったら、
状況はまったく違っていたかもしれない。

もしかすると、2ウェイスタイルは
完成していなかったかもしれない。

ふたたびのアプローチも
その想いが実ることはなかったドジャースだが
やはり神様が「まだまだ」と、許さなかった気がして
ならないのは、調子のいい理由付けだろうか。

そのドジャースが、ようやく意中の人と結ばれた。

ポテンシャルが未知数だった18歳の少年が
能力も、野球IQも、動かす金額も
規格外な数字を身にまとった
スーパースターに成長して、飛び込んできた。

しかも、契約を途中で破棄できる権利を求めない10年契約。
受け入れるドジャースも、挑んでゆく彼も、
大きな大きな覚悟とともに来季を迎えることになる。


日本の球団へ入団したことも
エンゼルスで過ごしたことも
そして今、ドジャースに移籍が決まったことも
すべて野球の神様が決めたのだ。

スキルも、体も、心も磨き上げ
最後に目指す「世界一」の栄冠は
必ずやドジャースでかなうはずだ。

ふと思った。
野球の神様は、彼に野球界の未来を託したかったんだ。

10数年もの間、変わらぬ愛情と熱意をもって
彼を見守り続け、最大限の敬意と誠意で迎えようとしている
ドジャースを、野球の神様も応援しているに違いない。

エンゼルス球団とファンへの感謝の想いを伝え
自己のさらなる研鑽と野球界への献身を、
改めて誓った大谷選手。

ダイヤモンドを去るその日まで
私も見守り続けようと思う。

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彼が日本ハムへの入団を決めたのは
2012年12月9日。

エンゼルスへの移籍を発表したのは
2017年12月9日。

そして、ドジャースへの移籍を発表した今日は
2023年12月9日。

花巻東のパープルから、日本ハムの青、エンゼルスの赤へ。
そして今年、フリーエージェントになった無色透明から
ドジャースブルーへ。

冬の色は、野球の神様の采配の色。
いつだって、未来への希望を彩ってくれる。 (終)


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執筆の機会をいただきありがとうございます。
参加させていただきました。

#シロクマ文芸部
#冬の色


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