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2020年12月の記事一覧

パープルのクロコ財布

パープルのクロコ財布

夜の丸の内。大きな商業施設はまだなかった頃。得意先のオープンレセプションパーティに行った時のこと。

大手町から向かうと人通りはそれほど多くなかった。暗い夜の中に灯っていた黄色い光が暖かい印象だったから、冬のことだった気もするし、急いで走っていて汗をかいていた気もするから、夏のことだった気もする。

丸の内の路面店で買い物をすることなんてなかった。だから、ひとりで店に入るだけでも緊張した。

挨拶

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キャメルのロングブーツ

キャメルのロングブーツ

雪が降り積もった朝。土曜だというのに出社日だった。滑らないように気をつけて駅に向かった。

車の往来があったから地面は雨の後のようだった。電車はいつも以上にガラガラで、キャメルのブーツは、雨が染みてで底のほうの色が濃くなっていた。

地下鉄から地上に出ると、びっくりした。歩道は、雪が降った直後のように足跡はほとんどなかった。

小さな川に丸くカーブした橋が架かっている。普段ならなんて事のない橋なの

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ブラウン×ネイビーのバッグ

ブラウン×ネイビーのバッグ

まだ、あなたのことを意識をしていなかったときのこと。

本館から少し離れた別館の2階の扉を開けようとしたら、あなたが外から中に入ってくるところだった。明るい外の光が眩しかった。

誰かいるなんて思っていなかったから、不意に私の口から出た言葉は、自分でも意外なフレーズだった。

「ネクタイ、茶色なんですね。素敵です」

「あっ、ありがとう。そっちこそ、営業力あがってきましたねー」

少し照れた様子は

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カシミアの赤いストール

カシミアの赤いストール

よく考えてみたら、私の周りで真っ赤なストールを身に着けている人はいない。

発色がいい赤のストールがあのときとても欲しくて、いくつも店をはしごした。できれば、質感がいいもの、カシミアが欲しい。あったかい大判のものがいい。

希望のものを見つけた時はうれしかった。そして、同時にこれを私が身につけていいのかと戸惑いもした。こんな真っ赤なストールはだれも買わないのだろうかという思いまででてきてしまって、

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