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カシミアの赤いストール

よく考えてみたら、私の周りで真っ赤なストールを身に着けている人はいない。

発色がいい赤のストールがあのときとても欲しくて、いくつも店をはしごした。できれば、質感がいいもの、カシミアが欲しい。あったかい大判のものがいい。

希望のものを見つけた時はうれしかった。そして、同時にこれを私が身につけていいのかと戸惑いもした。こんな真っ赤なストールはだれも買わないのだろうかという思いまででてきてしまって、手に取りながら店の中をうろうろしていた。そして最後に自分で納得してレジに向かった。

家に帰って、手持ちの服と合わせてしっくりくるコートを探した。白いコートとはコントラストが強くて、雪だるまに赤いマフラーみたいなイメージになってしまった。ベージュのトレンチコートとなら、さらりと着ることができそうだった。このマフラーがちょうどいいアクセントになってくれた。

首元にぐるぐると巻き付けると、その強い色味とは逆に優しく私を包んでくれた。ブラウンの手袋と合わせるととても暖かかった。

いつかの仕事帰り。公園で待ち合わせて、最寄り駅を越えて、次の駅まで一緒に歩いたことがあった。

誰かに見られてはいないだろうか。大通りから一本奥の道を歩いた。私の赤いストールが目立ってしまう気がして、いつもペラペラとしゃべるのに口数も少なめになった。

すると、あの人が私の左手を取ってコートのポケットに手を入れてくれた。慌てて出てきたから、手袋もしていなかった。

「寒い?手、冷たいよ」

「うん」

寒いことなんて忘れていた。ドキドキして、頬が赤くなっていた気がする。

「誰かに見られたらどうするの」

「大丈夫だよ。会社の人、この道通らないよ」

あったかい手だった。腕を寄せ合いながら、少し上に顔がくる感じがちょうどよかった。

目が合うとその度にうれしくなった。私はこの人のことが好きなんだって思えることがうれしかった。そして、何も言わなくてもこの人も私の気持ちを知っていてくれることがうれしかった。

大通りを越えるときに渡った歩道橋。少し立ち止まって車の流れを見ていた。昼間とは違う夜の景色。そして、少しだけぎゅっと抱きしめてくれた。


10年が過ぎて、私たちはまた再開した。日差しがあたたかな秋の日。通りのイチョウが黄色く色づいていた。

もう覚えていないかな。黒いライダースに赤いストール。コントラストの強めの色だったけれど、今の自分にはこれがしっくりくる気がした。

大判のストールが定番になったから、赤いストールは少し大きめのマフラーのようだった。

オープンのテラスでお茶を飲んだ。もう触れることはないけれど、この人がこうして生きていることを知ることができて、またこの空気感の中にいることができてしあわせだった。

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