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文芸やまなみ 佐藤亜弥美の紀行文・エッセイ

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山並みのあいまから。 恵那市笠置町に暮らす佐藤亜弥美のエッセイ・紀行文を不定期にアップしていきます。 日々の暮らしのこと、里山のこと、アフリカ旅のことなど。
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#エッセイ

(後編)カバと、ちいさな家族【旅のエッセイ/ザンビア/シヤボンガ】

(後編)カバと、ちいさな家族【旅のエッセイ/ザンビア/シヤボンガ】

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カバとの対峙

 次の日の夕食の後、昨晩と同じに流しで皿洗いをしていた。流しのそばには勝手口があって、外のたたきでは猫が数匹餌を食べていた。ふと猫を見に勝手口から顔を出すと、ショーンが勝手口の外側にいた。
「こっち、静かにおいで」
とショーンが手招きしている。

勝手口を出てみると、なんと数メートル先の草地に、カバが草を食んでいるのが見えたのである。本当に手に届くほどの近さであっ

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(前編)カバと、ちいさな家族【旅のエッセイ/ザンビア/シヤボンガ】

(前編)カバと、ちいさな家族【旅のエッセイ/ザンビア/シヤボンガ】

カバの影

夜に溶けてしまいそうな大きく暗い湖を、満月が照らし出す。湖のへりの草原に、のっそりと、どっしりと歩く巨体がある。夜風は湿っている。一歩その巨体が踏み出すごとに、土がみしみしと音を立てる。巨体の持ち主の顔は暗く、よく見えない。この巨体がこどもなのか大人なのか、まったく検討が付かないが、人間の何倍もあることには間違いない。月夜を破るようにばりっ、ばりっ、と音が響く。…カバが草を噛み、引き

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シソノという子 -マラウイ・サリマ、センガベイにて【旅のエッセイ】

シソノという子 -マラウイ・サリマ、センガベイにて【旅のエッセイ】

蓮の湿原を抜けて シソノを思い出すとき、その場面は映画であるならおそらくハイライトと思われる。シソノは光をまとって微笑んでいる。しかしそのまぶしい光はすぐに霧に暗く覆われてしまう。シソノの行く末を考えると、彼女の将来は苦しみに満ちているのか、それとも満ち足りた生活を送っているのかと案じてしまう。わたしにはそれを知るすべがなく、涙を禁じえない。
 
 シソノはおそらく二歳とすこしだったと思う。そこら

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天国と呼ばれる国  レソト 【旅のエッセイ】

天国と呼ばれる国  レソト 【旅のエッセイ】

レソトの肩を越えて

 南アフリカ共和国のなかに、九州ほどのちいさな王国がある。ドラケンスバーグ山脈を南東に抱えるレソトという国は、四方を南アフリカに囲まれている。
南アフリカの海岸の都市ダーバンに滞在していた時に、旅する若いフランス人カップルに出会った。特に行く当てもなかったわたしを、レソトへの旅に誘ってくれた。カップルの旅行についていくなんて悪いな、と思っているわたしに、ふたりより三人のほうが

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